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前話とセットです。
第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第22話「盗賊の財宝」
 盗賊たちが根城にしている建物の裏には、さっきの荷馬車が馬も外さずにそのまま置いてある。その他にも小さな厩舎があり、馬が5頭いた。

 盗賊たちは、酒盛りを始めたようで大声で叫んでいる。
 俺はゆっくりと建物に近づき、様子を窺う。
 盗賊たちは、建物の中ではなく、外の広場で焚き火を囲んで、宴会をやっている。

 鑑定で調べた限りでは、盗賊は見張りを含め15人。
 先ほどのレベル35が頭のようで、レベル25程度が先ほどと同じく8人、他はレベル15~20が5人、見張りだけが最年少の17歳でレベル9とダントツに低い。
 それでも俺より高レベルだが。

 かなりの規模の盗賊団のようだ。
 しかし、盗賊たちは完全に油断しており、宴会を続けていく。1時間も経つとかなりろれつも怪しくなり、ほとんど泥酔状態になっている。

 俺はトリカブトを取り出し、根にナイフで傷を入れた上で石を縛り付け、砦の中においてある酒の壷に入れておく。

 1つの壷は20分くらいで飲み干しているので、直ぐにこの毒酒に手を出すはずだ。

 うまくすれば、毒の症状が出ても酔っ払っただけと勘違いし、見張り以外すべて倒せるかもしれない。
 予想通り、20分くらいで毒酒の壷を持っていく。

 更に都合がいいことに一人が全員の器に酒を注いで回っている。気の効く奴いてくれて助かった。
 これでほとんどタイムラグなしに酒に手を出すはずだ。

 後はトリカブトの毒がどの程度効くのか、飲んだ奴が変な味に気付いてしまうかが問題だが、ダメなら 場所を守備隊に伝えるだけでも十分なので気にしないでおく。

 俺は建物の影から様子を窺い続けていたが、しばらくすると毒の症状が出始め、呼吸困難に陥り始めている。

(よし、成功だ)

 何人かが異常に気付いたが、既に飲んでいたようで14人全員に呼吸困難の症状が出ている。見張りが異常に気付き駆け寄ってくるが、今更どうしようもない。

 水を取りに来ようと俺の方に向かってくる。俺は静かに剣を構え、建物の陰に隠れて見張りが来るのを待つ。

 見張りは、かなり焦っているらしく、全く警戒していない。俺は一旦やり過ごし、背中から心臓の辺りを一突きする。

 見張りは、何が起こったのかもわからず倒れこむが、心臓を貫けていないようで、まだ息がある。とりあえずこのまま放置しておき、広場の方を見てみると半数以上が行動不能に陥っているが、まだ動ける盗賊もいる。

 一人一人止めを刺しに行ってもいいが、高レベルの盗賊に対して接近したくない気持ちがあり、俺は改良型のファイアストームで窒息攻撃を掛けることにした。

 ファイアストームを発動し、窒息攻撃を掛けるとすでに呼吸困難に陥っている敵に直ぐに効果が表れる。

 14人全員が死ぬか行動不能に陥っているので、息のある盗賊の止めを刺そうと近づいて行く。

 ここで、こいつらの情報を入手することを思いつき、まともにしゃべれそうな奴がいないか見てみたが、広場には盗賊は既にしゃべることもできない。仕方がないので、息のある盗賊は剣で止めを刺していく。

 見張りのことを思い出し、建物の裏に回る。運がいいことにまだ死んでいない。

 武器を取り上げ、後ろ手に縛った上で、治癒魔法を掛けてやる。

 頬を叩き、目を覚まさせ、尋問を開始する。

 尋問の結果、
・この盗賊団は主にドライセン王国の西部で稼いでいた
・派手に稼ぎすぎたため、南部のグロッセート王国に移動しようとしている
・隠れ家にちょうどいいこの場所に5日前から潜伏している
・盗賊団は全員で25人
・15人が隠れ家に潜み、頭目のグンドルフを含む10人が抜け道を探している
・頭目たちは少なくともあと5日は戻ってこない
・副頭目のザムエルが頭目の命令を無視して商人を襲った
・財宝は嵩張らない宝石・貨幣類に交換してあり、建物の中の頭目の部屋にある
と言う内容だった。

 見張りの盗賊をどうするか悩んだが、俺の顔を見られていることと生かしておいて逆襲されることを恐れ、その場で殺すことにした。

 見張りの若者は必死に命乞いをするが、盗賊に殺された商人のことを思い出し、背後に回って頚動脈を断ち切る。
 殺した見張りはそのまま放置しておき、建物の中を調べることにした。

 頭目の部屋には鍵が掛かっていたが、特に罠もなさそうなので、扉を蹴破り中に入る。
 木箱の中に皮袋に入った財宝があり、それを回収しておく。他にも盗賊たちの装備類があったので集めておく。
 その後、荷馬車に戻り、馬に飼葉と水を与え、その間に財宝類、装備類を荷馬車に積み込んでいく。

 盗賊たちの死体についてどうしようかと思ったが、懸賞金が掛かっていそうなので、首だけにしてゴスラーに運ぶことにした。

 副頭目のザムエルが使っていた大型の両刃斧があったので、それで一人ずつ首を刎ねていく。
 かなりえぐいなと思いながら、30分くらいかけて15人すべての首を刎ね、皮袋に入れ、これも荷馬車に積んでおく。

 前にも思ったことだが、精神耐性を選択しておいて良かった。なければ、このまま死体は置き去りにするか、吐きながら首を刎ねるかのどちらかだっただろう。

 まだ、夜明けまで5時間くらいあるので、少し仮眠を取ることにし、夜明けと共に出発できるよう腕時計のアラームをセットする。

 午前4時に起床し、建物の中にあった食べ物で朝食を取る。

 夜が明けてきたので、荷馬車を移動させようと思ったが、こんな山道をうまく操る自信がなかったので、馬車馬に手綱を着け、引いて降りていくことにした。
盗賊たちの馬もこのままでは魔物の餌食になるだけなので荷馬車の後ろにつなぎ、連れていくことにした。
 道は昨日の轍があるので、それに沿って進めば問題ない。
 後は魔物が襲ってくる心配だけだが、そこは運を天に任せるしかない。

 3時間掛けて昨日の襲撃現場に到着。まだ死体は魔物たちに荒らされていないため、商人たちの死体は荷馬車に積んでおくことにした。

 護衛の傭兵・冒険者たちには悪いが、これ以上、荷馬車に積むことができないし、馬に乗せるのも時間が掛かるので、守備隊が来るまでこのまま放置させてもらった。

 ギルドカードは残っていたので、それだけは回収しておいた。

 街道に出て、ゴスラーに向かう。
 3時間くらいの距離なので昼過ぎには到着できるだろう。

 荷馬車を進めていきながら、盗賊の財宝について考えていた。
 盗賊を討伐した場合、討伐者がその財宝の所有権を有する。
 これは別にいいんだが、今回は金額が多過ぎる。
 俺のような低レベルの冒険者がいきなりこんな大金を持ったら、色々な悪人たちに狙われるんじゃないか。
 特に宝石・金貨類で数千Gはあったので、日本で宝くじに当ったようなもんだろう。
 宝くじに当った人は、いろんな人からたかられると聞いた。
 ここは全部を申告せずにどこかに隠しておいて後から回収したほうがいいんじゃないかと思い始めた。

 俺はゴスラー近辺の草原に詳しい。
 この辺りならどこに隠せばいいか大体の見当はつく。
 ゴスラーに入る前に草原のどこかに宝石類だけでも隠しておいた方がいいだろう。

 俺は隠すのにちょうどいい場所を思いつき、ゴスラーの町に入る1時間くらい手前で荷馬車を草原に向けて進める。

 いい具合に窪地になっているところがあり、街道からは荷馬車も馬も見えない。

 俺は財宝類を馬車の中にあった壷に入れ、俺だけがわかる場所に埋め、荷馬車に戻り、街道に戻るタイミングを計る。

 人通りが多いといっても昼時なので外に出る人も戻ってくる人も少ない。誰にも見られずに街道に戻ることに成功した。

 財宝は採取のクエストを受けて回収するつもりだが、できるだけ早く回収するつもりだ。
 ゴスラーの町に入り、ギルドに向かう。ギルド長に青鈴蘭草の球根20個を渡し、完了報告を行う。その後、盗賊を討伐してきたことも合わせて報告すると直ぐに守備隊詰め所に行くように言われる。

 言われるまま、詰所に行き、守備隊の責任者に顛末を説明し、刎ねてきた首を渡す。

 大物の盗賊なので、慎重に確認するとのことで明日まで結果は出ない。首と盗賊の装備を守備隊に預け、殺された商人と荷馬車についてどうしたらいいか聞いてみた。

 荷馬車に商人の名前と所属する商会が記載した書類があったので、その商会のゴスラー支部に向かう。
 商会では、昨日のうちに到着するはずが、心配していたとのことだった。
 1000G相当の商品と商人の遺体を回収してくれたので、200Gを謝礼としてくれた。
 200Gと言えば、日本円で2000万円相当。そんな大金を持ち歩く習慣はないので、直ぐにギルドに預けに行く。

 再度、ギルドに到着すると、ギルド内は俺の話題で騒然となっていた。
 お金を預ける雰囲気ではなかったので、気付かれないようギルドを出て、宿に向かう。

 夕食時も皆こちらを見ているようで居心地が悪い。
 いつもより早く食事を終わらせ、部屋に戻る。

(これから、どうしようか)

 商会から貰った200Gに加え、盗賊の懸賞金、装備の買取りだけでも数百G手に入れたことになる。 これに数千G分の財宝がある。

 この町にいると顔を知られているので、すぐに大金のことは、ばれてしまうだろう。

 それと最大の懸念は残りの盗賊についてだ。
 根城を襲われ、財宝を奪われれば、当然報復に来るだろう。レベル35の副頭目を倒せたのは油断していたからで、普通に戦えばあっという間に殺されてしまう。
 頭目は更に強いはずだから、見つかれば命はない。
 守備隊に討伐をお願いするが、積極的に動くか不安だし、高レベルの盗賊を倒せるかも判らない。

 この町を出て、人口の多い都会に紛れ込むのがいいかもしれない。
 明日、守備隊から報奨金を受け、明後日にはオステンシュタットに向けて出発するのが一番いいような気がする。
 とりあえず方針が決まったので、疲れた体はあっという間に眠りに落ちていった。


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