第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第18話「スライム退治」
今日から2泊3日の討伐クエストだ。
夜営場所は前回と同じ場所にするので、初日に2~3時間余裕がある。
時間を有効に使うため、夜営場所近辺で魔物、薬草、食材になるものを探すことにした。
30分ほど探していると、バッバッバッ・・・という低い連続音がする。
ヘリコプターの音に似ている。
4人には姿を隠すように指示してから、周囲を探索するとキラーホーネットが1匹いた。
キラーホーネット:大型のスズメバチ。
HP300,DR5,防御力10,獲得経験値100(15S)
針(AR50,SR30,毒3)、牙(AR50,SR20)
キラーホーネットはカラスくらいの大きさで、見た目はそのままスズメバチ。
まだこちらには気付いていないようで、俺たちから離れるように飛んでいく。
4人には静かにゆっくり着いてくるよう指示し、俺はキラーホーネットを追う。
キラーホーネットは何か見つけたようで、スピード緩め、ホバリングし始めた。
よく見ると地面にはグリーンクロウラーがおり、キラーホーネットはグリーンクロウラーを狩るようだ。
一瞬、戦いが終わったときに漁夫の利を得ようかと考えたが、キラーホーネットが巣に運ぶのを追跡して一網打尽にすることを思いつく。
4人にその旨を伝え、夜営場所に戻るよう指示。4人が着いて行きたいと言ったため、気付かれないように着いていくことを念押しし、5人で行動する。
キラーホーネットとグリーンクロウラーの戦いはあっという間に終わり、キラーホーネットがグリーンクロウラーを抱えて飛び立つ。
俺たちは、キラーホーネットが見えるギリギリの距離を追跡し、20分後キラーホーネットの巣を発見する。
100mくらい離れた場所に直径30cmくらいの穴が開いており、周りには数十機のヘリコプターが飛んでいるような低い風切音があたりにこだましている。
鑑定で見る限り、20匹近くが飛んでいる。
巣の中にも何匹かいるかもしれないが、俺たちはゆっくりと巣に接近していく。
4人は少し後ろに残し、俺はファイアストームの射程距離約20mまで接近する。隠密のスキルレベルが上がっているためか、蜂たちに気付かれていない。
すべての蜂が攻撃範囲に入ったのを確認し、ファイアストームを発動。
すべてのキラーホーネットが炎の渦で羽を焼かれ、地面に落ちる。
地面に落ちたキラーホーネットはもがいているが、すでに戦闘力はない。
巣からはまだ無傷の蜂が出てきていないので、すぐに巣に接近し、出入り口を剣で崩す。
アントン達を呼び、すぐに地面に落ちたキラーホーネットの止めを刺させ、俺は巣から這い出てこようとするキラーホーネットを剣で突き刺すことに専念する。
地面に落ちたキラーホーネットは22匹、巣の入り口で刺し殺したキラーホーネットは3匹の計25匹を殺すことができた。
巣の中にはまだ何匹か居そうだが、戻ってくるキラーホーネットと戦うのが面倒なので、討伐証明部位の毒針を切り取り、すぐにその場を離れる。
計画通りとはいえ、非常に効率がいい。
25匹で375Sの儲けだ。
経験値も大きく、本人たちは気付いていないが、4人はレベル4に上がっている。
鑑定を使わないでレベルを確認する方法は、ギルドカードの更新だけだ。
クエスト終了時に受付に出すとクエスト達成日時の更新のほかにレベルも最新の値に更新される。
一般の冒険者はギルドに帰って初めてレベルアップしていることに気付くが、俺はギルドカードを碌に見ないので、鑑定で自分のパラメータを確認するときまで気付かないことが多い。
今回の討伐は幸先がいい。
明日のアシッドブロッブもこの調子でいけるとうれしいのだが、あまり欲をかかないよう注意するべきだろう。
少し早いが、十分な成果が上がったので、夜営場所に戻ることにした。
夜営の準備を行い、前回と同様に見張りを立て就寝。
今回も夜襲はなく、無事に朝を迎える。
朝食後、アシッドブロッブを探しに森の奥へ向かう。ギルドでアシッドブロッブの出没場所の情報を得ているので、目的の場所を目指す。
途中、ジャイアントスパイダーやグリーンクロウラーを見つけるが、アントン達4人で片付けていく。
敵が単独であれば、多少ダメージを受けるものの特に危なげなく倒せるまでになっている。もうそろそろ一緒に行動する必要はないかもしれない。
4時間後、目的の谷を見つける。
谷の出口側の斜面の上を慎重に進んでいくとアシッドブロッブが谷の底にいた。
アシッドブロッブ:酸性の体液を持つスライム状の魔物
HP500,DR0,防御力20(物理攻撃-80%、金属製武器破損30%),獲得経験値250(50S)
酸(AR50,SR20,レンジ20,酸による追加ダメージあり)
谷は幅20mくらい、高さ10mくらいで天然のダムのようにアシッドブロッブが30mくらいに渡り、倒木などとともに大量に溜まっている。
よく見るとスライム状の体の下にコボルトらしきもの、ゴブリンらしきもの、狼らしきものなど、多数の魔物の死体もある。
「なあ、最近大雨とか降ったか?」
「半月くらい前に山のほうで大雨が降ったっていううわさを聞きましたが」
山奥で降った大雨が鉄砲水となり、アシッドブロッブと弱い魔物を押流し、ここに集まったようだ。
一緒に流されてきたゴブリンたちが餌になり、アシッドブロッブが一気に増えたようだ。
「お前たちはここにいてくれ。俺は谷の上から攻撃できるところがないか見てくる」
といって、谷の上の斜面を移動し始める。
斜面は急ではあるものの移動できないほどではないので、一旦一番奥に行き、攻撃場所を見定める。アントン達のところに戻り、
「俺は上流側から順次ファイアボールで攻撃していく。煙は有害かもしれない。煙が来るようなら煙のない方に逃げてくれ」
と指示して、再度上流側に移動する。
一番上流にいるアシッドブロッブにファイアボールを放つ。簡単に貫通し炎上する。
キャンプ用のジェルの着火剤のように一気に燃え上がるが、なかなか近くのアシッドブロッブに火が着かない。外皮が耐火性なのかもしれない。
仕方ないので更に隣のアシッドブロッブにもファイアボールを放つ。さすがに2匹が炎上すると隣にも延焼していく。
真ん中辺りに移動し、ファイアストームを使ってみる。ファイアストームでは外皮を貫通できないようで燃え上がらない。
おそらく通常のファイアボールでも燃えないのだろう。俺オリジナルの高密度型ファイアボールがなければ、ほとんどダメージを与えられなかったかもしれない。
中央部の2匹にもファイアボールを放つ。やはり2匹分の火力で次々に延焼していく。
最後に下流側の2匹にも同じようにファイアボールを撃ち込み、これで全体が燃え上がるはずだ。炎は数mの高さまで上がっている。
10mくらいの谷だが、斜面にも木が生えているので、山火事が心配だが、今更どうしようもない。
煙は俺たちとは反対に向かって流れているので、とりあえずこの場所で火が収まるのを待つ。
昼食を取りながら待っていると1時間くらいで鎮火する。この火の海の中で生きていられるとは思えないが、念のため、鑑定で生き残りがいないか確認する。
やはり、魔物の反応はない。
風が吹き抜けているので有毒ガスで倒れることも無さそうだ。4人と一緒に谷の底に下りていく。アシッドブロッブの核を探してみると灰の中に拳大の黄色い石のようなものが多数転がっている。
「アシッドブロッブの核はこれだ。手分けして集めてくれ。多分大丈夫だと思うが、素手で触らずに皮袋に入れてくれ」
5人で手分けして核を探す。
1時間ほど探すと31個あった。報酬は1550S。キラーホーネットの分と合わせると20G近い儲けだ。
まだ、残っている核がありそうだが、灰の中に埋もれているものが多く、鑑定を使っても簡単には見つけられそうにない。
ゴブリンたちの討伐証明部位も取ろうと思ったが、完全に焼けているため取ることができない。アシッドブロッブの報酬に比べたら大したことがないので特に惜しくはない。
夜営地に戻る時間を考えるともうそろそろリミットだ。
「よし、これで十分だ。夜営地に引き上げるぞ」
俺たちは、4時間かけて、夜営地に戻る。
俺は、この2日で10,000以上の経験値を得て、レベル7にレベルアップした。
高山 大河 年齢23 LV7
STR522, VIT451, AGI494, DEX540, INT3429, MEN1304, CHA425, LUC415
HP496, MP1304, AR1, SR1, DR1, SKL198, MAG56, PL25, EXP26521
スキル:両手剣12、回避9、軽装鎧5、共通語5、隠密8、探知6、追跡6、
罠5、体術3、乗馬1、植物知識7、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法5(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性7(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
火属性の魔法ばかり使っているので、他のスキルの上りが少ない。
昨夜も夜襲はなし。
単に季節的に光に集まる性質の昆虫系がいない可能性があるので油断できないが、この場所は夜営地としてはかなり良い所なのかもしれない。
翌日は無駄な戦闘を避け、出来るだけ真直ぐ町に戻ることにした。
午後2時頃、町に到着し、ギルドで討伐完了報告をする。
受付嬢は31個のアシッドブロッブの核を見て目を丸くしているが、更にキラーホーネットの針25個も追加で出しておく。
ジャイアントスパイダー2匹、グリーンクロウラー2匹分を合わせて、19Gと55Sを受け取る。俺は13Gを受け取り、残りをアントン達に渡す。アントン達も1人当たり160Sと今まででの倍以上の報酬となった。
明日は休みとし、明後日の朝ギルドに集合として解散する。
ドラゴン亭に戻り、宿の主人のマルティンに預けた猪の塩漬けを見せてもらう。
(どうやらうまくいっているようだな)
塩抜きをするため、水場できれいに塩を洗い流し、水気を十分にふき取っておく。
マルティンに風通しのいいところに吊るしておいてくれと頼み、本日の作業は完了。
翌日、休日の朝をゆっくり楽しんだ後、猪肉の状態を見る。
問題ないことを確認した後、すぐに道具屋に行き、大き目の木の箱を購入しドラゴン亭の裏庭に戻る。
「マルティン、裏庭を借りてもいいか」
「ああ、かまわないが、何をするんだ?」
「猪肉の燻製を作る。」
「面白そうだな。見ていてもいいか?」
「ああ、あんまり面白いわけじゃないが、いいぞ。」
マルティンと一緒に裏庭に出る。
買ってきた木箱を燻製器に改造し、森で取ってきたチェリーの木を細かく砕いてチップにする。着火の魔法を使って火を着け、スモークを開始する。
この地方には一応腸詰はあるのだが、スモークの香りがなく、なんとなく味気ない。
ベーコンが成功したら、腸詰のスモークもチャレンジしたいと思っている。
スモークすること3時間、中を確認するとうまくいっているようだった。
味見をするため、少し切り取り、焼いてもらう。
「うまい!成功だ」
とつぶやき、マルティンに味見をさせる。
「うまいよ!作り方を教えてくれ。礼はするから」
「ああ、構わないぞ。礼はうまい飯を食わせてくれればいいよ」
といって、作り方を教えておく。
その後に腸詰を10本ほどわけてもらい、燻製器でスモークすることにした。
2時間ほどスモークし、これも味見をすると、かなりうまい。これもマルティンに教えておく。
これで野外での食事の幅が広がる。
干し肉は塩が強すぎるし、火で炙ってもそれほどうまくない。
飽食の国「日本」に育った俺としては、何日も干し肉と固いパンだけでは耐えられない。
これで長期のクエストに目処がついた。
その日の夕食は俺のベーコンとスモーク腸詰のグリル。これがかなり好評だったらしく、定番メニューになりそうだとのことだ。
+注意+
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