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第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第16話「初めての夜営」
 翌日、夜営用の装備を持ち、東の森に向かう。

 今回はクエストを受けず、薬草類があれば採取する程度で積極的に採取も行わない。
 可能な限り早い速度で東の森の中を奥へと進んでいく。

 正午頃、きれいな湧き水が出ている泉を見つけたので、この近くで夜営の予行演習を行うことにした。

 夜営場所は大きな木の下とし、全員で周りの草や潅木をできるだけ刈っておく。

 その後、薪を探すチームと簡単な警報装置を設置するチームに別れ、それぞれ行動を開始する。

 俺は周囲の警戒を兼ねて、薪を探すチームを率いる。アントンとダニエラに紐と鈴を使った簡単な警報装置の設置を任せる。上から来る敵に対しては無効だが、地面を歩いてくる敵に対してはある程度、効果があるだろう。

 森の中ということもあり、木の枝は比較的簡単に集まるが、乾燥した良い状態の薪にできる木の枝は少ない。30分ほど3人で探し、一晩分くらいの量を確保する。

 警報装置の設置も終わり、簡単なかまどの設置と食事の準備を行う。

 焚き火については、俺の着火の魔法があれば、それほど時間をかけずに火を熾すことができる。水は泉から汲んで来れば問題ないし、特に問題は見当たらない。

 ちょっと遅い昼食にしようと保存食の調理に掛かった。俺は干し肉、小麦粉、塩を準備していて、簡単な水団かニョッキみたいなものを作ろうと思っていた。4人はパンと干し肉のみを持ってきていて、鍋などの調理器具はない。

 聞いてみると護衛任務など馬車で移動している場合を除き、普通夜営で調理をすることはないとのことで、できるだけ荷物を少なくすることが肝心だと食材を買いにいった時に店の主人に教えてもらったとのことだ。

 言われてみれば、夜営してまで時間をかけるクエストでは、できるだけ軽装で疲れを貯めず、緊急時に軽快に動ける装備にしておく方がいいに決まっている。

 まだ前の世界のキャンプのイメージを引きずっていたようだ。
 いつも緊張感を持てと言っているのに恥ずかしい。

 5人分の水団を作るにはかなりの時間が掛かるので、これもいつ襲い掛かられるかわからない場所での食事には向かないだろう。

 俺は素直に4人に俺の判断が間違っていたことを告げたが、折角持ってきたので水団スープを作ってみる。いつも持ち歩いている木のコップで小麦粉と塩を水でこね、鍋で湯を沸かし、干し肉を入れて出汁をとり、塩で味を調え、スープを作る。

 沸騰したスープにこねた小麦粉を落とし、数分待つ。水団が少し透き通ってきたらスープと共に食べるが、これが意外とうまく、みんなにも好評だった。

 1人分ならいいが、5人分となると俺の鍋では小さすぎて、かなり時間が掛かってしまう。
 やはり、食事の工夫が必要だ。だが、暖かい食事は体力と共に気力の回復に役立つと聞いたことがある。
 スープだけでもいいので、暖かい食事を作る工夫をしようと思う。

 食事以外でも、俺の考えた警報装置だが、うまく機能しない。
 潅木の枝を利用したのだが、風が吹くたびに枝が揺れ、鈴が鳴ってしまうし、紐のルート上に枝があるとその枝が揺れただけでも動作してしまう。次からは、木の棒を差したものを支柱として設置する方法としてみようと思っている。
 この警報装置に拘っているのは、ソロでの夜営を意識したものなので、何とか物にしたいと思っている。

 その他の不具合は、4人が毛布やマントを持っていないため、夜の冷え込みに対応できない点だ。夏至を過ぎた初夏だが、森の中は意外と涼しい。

 夜になれば焚き火で暖をとるだけで十分かやや疑問だ。これからのこともあるので、4人にはマントを買っておくことを薦めておこう。

 予行演習も終わり、後片付けをして町に戻る。結局、今日はEランク相当の薬草3種類の採取のみで終わってしまったが、予行演習を行ってよかったと思う。

 翌日、ギルドで、俺単独のクエストとしてCランクの銀刃カマキリ(シルバーマンティス)討伐クエストを受け、4人はパーティを組み、Dランクのグリーンクロウラー討伐を受ける。

 今日は夜営をする予定で、宿には明日まで戻ってこないことを告げている。

 午前7時、町を出発し東の森に入る。昨日と同様にできるだけ奥に進んでおき、途中で見つけたグリーンクロウラーのみ狩り、他は襲ってこない限り無視する。

 いつもよりかなり奥に進んだため、午後3時頃に夜営場所を探し始める。1時間ほどして、湧き水が流れているところを発見したので、この近くで安全に夜営できそうな場所を確保する。

 昨日と同じように薪収集班と警報装置設置班に分かれて野営の準備を開始する。1時間くらいで薪の収集と警報装置の設置が終わり、水の確保と焚き火の準備を開始。火は着火の魔法であっという間に着く。

 大体午後5時頃だが、森の中なのでかなり暗くなって来ている。

 昨日の反省を踏まえて、今日の夕食はパンと干し肉のスープ、途中で手に入れた野草を茹でたものに干し果実を少々といったメニューだ。

 干し肉と干し果実が意外と高く、1人分で2S近く掛かっている。シルバーマンティスの討伐では、1匹当り20Sなので1匹倒してなんとか元が取れる計算。夕食の質が高すぎるのかもしれないが、体が資本なので、ここはケチらずに一定の質を確保しておきたい。他の冒険者はどうしているのだろうか。

 夕食も終わってもまだ完全に暗くなっていなかったので、俺は湧き水のところに行き、体を拭くことにした。4人にも勧めてみたが「一日くらい体を拭かなくても平気」とのことで俺以外はだれも体を拭きに来なかった。この世界ではこれが常識なのだろうが、シャワーを毎日浴びる生活をしていた人間にとっては、体を清潔にできないというのはかなりストレスが溜まる。

 午後7時頃、周りは完全に暗闇になり、僅かに夜空に茜色が残っているだけだ。

 特にすることもないため、順番に就寝することにした。
 見張りに立つ順番は、アントン・ダニエラ組、俺、ベリエス・キャサリン組で午後8時から3時間ずつで交替していく。

 一番厳しい時間を俺に当てたのは一番戦闘力が高いこともあるが、時間を計れるからだ。
 俺の場合、時計があるからいいが、夜に時間はどうやって計るのだろうか。昼なら太陽を見ればいいが、夜なら星を見て判断するのだろうか。

 考えても仕方がないので、腕時計の目覚ましアラームを掛けて寝ることにした。

 4人は結局、マントも毛布も手に入れられなかったので、俺のマントと毛布を貸すことにした。見張りをしている時間は、火の近くにいるので、それほど冷えを感じないだろうし、何かが起きた時に直ぐに動ける状態の方がいいとの判断だ。

 3時間後、腕時計のタイマーに頼らずに目を覚まし、アントン達を交代する。特に変わったことはなかったようだ。

 実は、4人には言っていないが、一つ心配なことがある。
 この東の森は昆虫系の魔物が支配する場所だ。昆虫といえば光に集まってくる性質の虫がいる。その性質を受け継いでいる魔物がいないのか、動物系の魔物であれば焚き火の炎で魔物が寄ってこなくなることも考えられるが、この森で火を焚くことのリスクはどの程度なのだろう。

 4人に敢えてこの懸念を伝えなかったのは、無用な疑心暗鬼を起こさせないことと所詮人間は暗闇に耐えられないので焚き火を消すという選択肢がないからだ。

 だが、グリーンクロウラーは麻痺蛾:パラライズモスの幼虫だ。ということは成虫になったパラライズモスが光に向かって飛んでくる可能性もあるということだ。

 まだ見たことはないが、カブトムシの魔物スピアビートルというのもいる。カブトムシは光に集まってくるので、スピアビートルも光に向かってくる可能性は高い。

 本来なら、光があまり漏れないよう焚き火の大きさを調整しておくのだが、今回はどの程度のリスクがあるか、試すために敢えて火を大きくしている。

 1時間、2時間と時間は過ぎるが、周りはとても静かだ。風の木々を抜ける音と湧き水の流れる音、4人の寝息だけが聞こえる。

 夜空を見上げると木々の間から、満天の星空が見える。こちらの世界についてから何度も星空を眺めているが、やはり知らない星座ばかりだ。

 こちらの世界に来てから2ヶ月弱だが、雨はあまり降らない。季節的なもののようだが、50日間で10日も降っていない感じだし、マントとフードがあれば屋外活動に支障がない程度の雨だ。森の植生を見るとブナや楢といった湿潤な土地に生える木々が多いため、ある程度の降水量が必要な感じだが、雨季とかがあるのだろうか。今度、誰かに聞いてみよう。

 取り留めのないことを考えていると3時間が過ぎていた。ベリエス達を起こし、もう一度寝ることにした。
 夜明けとともにベリエスに起こされる。結局、魔物は一度も近寄ってこなかったようだ。単に運がいいのか、焚き火の効果かはわからない。

 焚き火の残り火で湯を沸かし、朝食を取る。
 夕方にはゴスラーの町に帰る予定なので、早めに行動を開始し、森の奥へと進む。

 3時間ほど進んだところで、俺の目的のシルバーマンティスを発見する。

 シルバーマンティス:
  銀色の鎌を持つ大型のカマキリ
   HP800,DR3,防御力50,獲得経験値150(20S)
   鎌(AR100,SR30)、牙(AR80,SR20)

 大きさは180cmくらいで名前の通り銀色の鎌が特徴だ。普通のカマキリと同じようにしきりに首を動かしている。こちらを攻撃対象と認めたのか、かなり速い速度で接近してくる。

 俺はシルバーマンティスを見つけたと同時にファイアボールを準備。相手が動き始めたと同時に炎の玉を撃ちこむ。
 シルバーマンティスの動きは直線的なため、ファイアボールは見事命中するが、大きなダメージは与えられていないようで、更に突っ込んでくる。

 4人に防御に徹するよう指示し、俺は巨大カマキリの直線的な攻撃を避ける。
 通り過ぎた瞬間にファイアボールを撃とうと準備するもシルバーマンティスは羽を使って急旋回し、更に攻撃を加えてくる。

(速い!)

 動き自体は読みやすいのだが、思った以上に速い。距離を取らないと魔法が使えず、いつかはダメージを受けるだろう。

 一騎打ちでは厳しいので、4人に牽制を頼む。

 キャサリンの矢が放たれ、シルバーマンティスの胴に当る。
 硬い外皮でダメージはないものの、シルバーマンティスの注意が一瞬逸れる。

 このチャンスを使い、俺は直ぐに距離を取り、ファイアボールの準備をする。
 シルバーマンティスも俺と4人とどちらを攻撃しようか迷っているようで、その隙にファイアボールの準備が完了する。

 シルバーマンティスが標的を俺の方に定めたようで、再度突撃をかけてこようとするが、その前にファイアボールを放ち、腹に命中する。

 まだ、シルバーマンティスは動けるようでこちらに攻撃を掛けてくるが、足の付け根に命中したようで4本足のうち、2本がうまく動いていない。

 さっきより動きがかなり落ちているので、相手の攻撃を容易に回避できる。

 俺は剣を構え、動きの悪くなっていない足に攻撃を掛ける。さすがに4本中3本の足にダメージがあるとまともに立てないようで、羽を使って逃げようとしている。

 俺はファイアボールをシルバーマンティスの背中に向けて放ち、羽を燃やして動きを止める。再びファイアボールを放ち、止めを刺す。

 ファイアボール4発を使って、何とか倒すことができたが、一人ではCランクの魔物の討伐は難しい。 今回は牽制してもらったから倒せたが、遠距離からの奇襲や罠を使わないと危険だということがわかった。

「さっきは助かったよ。やっぱりCランクの魔物は強いな」

と4人に礼を言いながら討伐証明部位と買取対象部位を剥ぎ取る。

 このクラスの強さで20Sはおいしくない。森の奥にいることもあるが、割に合わないから、なかなか討伐が進まないのだろう。

 その後、更に1時間くらい奥に進んだころ、再度シルバーマンティスを見つける。
 今度は、鑑定を使っての遠距離探査だったので、向こうは気付いていない。

 慎重に接近し、最大射程の45mくらいから一撃目のファイアボールを放つ。
 背中に命中し、ダメージを与えると、周囲を警戒しだした。

 俺はブッシュの中をゆっくりと横に移動し、再度ファイアボールを放つ。

 2発目も命中。

 今度は横からの攻撃なので、射線を見られたようだ。シルバーマンティスはこちらに向かってくるが、俺を見つけられていないのか、ゆっくりと向かってくる。

 俺は再度ブッシュの中を移動し、奴の横に出る。

 3発目のファイアボールも命中し、奴のHPは9割方無くなっている。

 シルバーマンティスは逃げ出そうとしているが、まともに動けない。

 俺は剣を持ち、シルバーマンティスに近づいていき、止めの一撃を撃ち込もうとした。

 その瞬間、シルバーマンティスは鎌を横薙ぎに振って攻撃してきた。

 俺は不意を突かれて足に攻撃を受けてしまう。

 ギザギザのカマキリの鎌でざっくりとやられたので、かなりの出血があるが、とりあえず敵を倒すことに専念するため、無視して攻撃を掛ける。

 シルバーマンティスの首に一撃を加え、頭を切り飛ばす。

 まだ、シルバーマンティスの体は動いているものの、攻撃範囲から出れば問題ないので、一旦下がり、治癒魔法を自分にかける。

(油断した)

 なまじ、HPとかが見え、数字的にこちらの勝ちがわかってしまうので、決死の反撃という奴を受けてしまった。

 最後まで油断しないことの教訓を得たと思えばいいのだが、今までで一番のダメージを受けたこととグレイウルフ戦と同じように革のズボンを破ってしまったのでテンションが下がっている。

 4人が駆け寄ってきて、

「「タイガさん、大丈夫ですか?」」

と声を揃えて言ってくるので、

「大丈夫だ。少しズボンが破れたが、足のケガは治療済みだ。こいつの剥ぎ取りが終わったら、町に戻ろう」

と無理に笑いながら4人に話しかける。

 その後、ゴスラーの町に向けて出発し、途中で襲ってきたジャイアントスパイダーを2匹倒した他は寄り道もせず、夕方遅くに町に到着した。

 シルバーマンティスは2匹で40S、鎌や外皮が防具などの素材になるとのことで、20Sで買い取ってもらえた。

 アントン達もグリーンクロウラー討伐で4匹分20Sとジャイアントスパイダー2匹20Sで合計100Sの報酬を得たが、2日分と見るとあまり割りは良くないなと感じた。

 明日は天気が悪くなりそうだということで、アントン達に明日は休む旨を伝える。
 4人もかなり疲れたようで、4人だけでクエストを受けるつもりはないようだ。

 俺は宿に戻ってからズボンを予備の物に履き替え、裏の服屋に行き修理を頼む。結局修理に10Sかかった。

 宿で夕食を取り、浴室で体を洗ってすっきりしたところで、ベッドに転がる。

 この2日間でどの程度の経験値を得たか確認したかったためだ。

 結論を言えば、2日で1000ポイントくらい経験値が入っている。
 今までの最高であるゴブリン29匹の時でも300くらいだったから、1日平均500はかなり割がいい。

 昨日の夜はそれほど経験値が入っていなかったから、夜営ありなしの違いなのか、シルバーマンティスという強敵を倒したおかげなのか、どちらにしても泊り掛けでのクエストは入る経験値が大きいということだ。

 明後日からの計画をゆっくり立てようと思っていたが、疲れの所為か直ぐに寝てしまった。


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