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2012年10月29日(月)付

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地震と科学―限界を知り、備えよう

これからどんな地震が起きるのか、あるいは起きないのか。科学的な予測といっても、不確実さがつきまとう。それを前提に、地震の情報の伝え方から備えまで点検すべきだ。そんな教訓[記事全文]

スコットランド―EUで芽吹く独立論

英国からスコットランド地方が独立する是非を問う住民投票が2014年秋にある。国境の壁を新たに築くというよりは、地域の分権改革をさらに進める取り組みととらえたい。連合王国[記事全文]

地震と科学―限界を知り、備えよう

 これからどんな地震が起きるのか、あるいは起きないのか。科学的な予測といっても、不確実さがつきまとう。それを前提に、地震の情報の伝え方から備えまで点検すべきだ。

 そんな教訓を、私たちにも突きつけたと受けとめたい。

 イタリア中部の都市ラクイラで死者300人以上になった、2009年の大地震をめぐる裁判の判決である。

 政府が出した「安全宣言」が被害を広げたとする遺族の訴えを認め、地震学者や行政当局者7人に過失致死罪で禁錮6年の有罪判決を言い渡した。

 判決の詳細はまだ明らかでないが、検察側は、情報提供のあり方を重くみたようだ。

 群発地震が続いて不安が高まるなか、政府の検討会に呼ばれた高名な地震学者の見解は、大地震が来ないともいえないし、群発地震が大地震の予兆であるともいえない、というものだった。だが、行政の責任者が「家にいていい」と事実上の安全宣言をし、住民は逃げるのをやめた、というわけだ。

 確かに、「安全宣言」はいきすぎだったかもしれない。しかし、科学者が刑事罰を恐れて自由に発言できなくなっては社会にマイナスだと、実刑判決への懸念も広がっている。

 日本にとっても、ひとごとではない。

 大切なことは、科学的な情報をその限界とともにきちんと伝え、命を守る行動につなげていくことだ。科学者と、最終的な責任を担う行政との分担も明確にしておく必要がある。

 日本地震学会は今月、東日本大震災を予測できなかった反省に立ち、改革に向けての行動計画を発表した。

 その中で、地震の「時間、場所、大きさ」の三つの要素を特定して事前に判断する、いわゆる「地震予知」はきわめて困難であることを改めて認め、誤解を招かないよう、予知という言葉を厳密に使うとした。地震学の現状を、限界も含めて一般市民の目線に立ってわかりやすく伝えていく、とも決めた。

 地震学は進歩したが、社会が求めるレベルとは、なお大きな隔たりがある。限界を認めつつ、最新の研究成果を防災にどう役立てていくのか、地震学者の責任は重い。

 地震の最初の波をとらえて対応するリアルタイムシステムをさらに進めるなど、被害軽減のための研究ももっと必要だ。

 政府と国会は、東海地震の予知を前提とした大規模地震対策特別措置法の改廃を急がなければならない。

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スコットランド―EUで芽吹く独立論

 英国からスコットランド地方が独立する是非を問う住民投票が2014年秋にある。国境の壁を新たに築くというよりは、地域の分権改革をさらに進める取り組みととらえたい。

 連合王国を形作るイングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの四つの地域の人々は、サッカーやラグビーの試合だけではなく、対抗心を燃やしてきた。

 なかでもグレートブリテン島北部、スコットランドの人々の自立心は強い。人口は全体の1割弱の520万人。北海道に近い広さだ。産業革命を起こし、経済学者アダム・スミスらが輩出した。明治日本が招いたお雇い外国人の多くがこの地域出身だった。

 なぜここで、独立への動きが本格化したのだろうか。

 もともと独自の教育や司法制度を認められていたが、70年代から中央政府が分権改革を進めたことを受け、99年に独自の議会をおこし、高齢者ケアの無料化や公共空間の禁煙を決めた。

 5年前には独立を唱えるスコットランド民族党が議会第1党となった。脱原発のための自然エネルギー普及のほか、独立後の欧州連合(EU)への加盟、核基地の撤去など独自の政策を公約している。

 独立論には、欧州統合の進展が影響を与えている。

 過去半世紀、欧州の国々は経済政策を中心に国からEUへと権限の移譲を進めた。経済危機から抜け出すため、銀行監督もEUに移しつつある。EUは多くの地域や都市のインフラ整備を支援している。

 独立に反対するキャメロン英首相は、スコットランドの慎重派が勢いを強めることに期待している。しかし投票結果がどうなろうとも、EUによる安定の枠組みに支えられて自治権の強化はさらに進みそうだ。

 折しも、ベルギー北部のフランドル地方、スペインの東部カタルーニャ地方や北部バスク地域で分離独立を求める声が強まっている。独自の文化や伝統に加え、中央政府の経済政策への不満の表れがある。

 命をかけて争う途上国型の独立運動とは違い、欧州では国という存在が以前ほどの重みを持たない。人々の帰属意識も地域や国、欧州と重層的になりつつある。

 中央の国政に関わる政治家や官僚は、独立論を認めないだろう。だが、地域の特性を生かす発展を求める住民が「独立? 面白いかも」という気持ちになっても不思議でない時代に、欧州はなっている。

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