第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第13話「夏至祭」
翌朝、いつものように食事を取り、東の森で昆虫系を討伐することにした。
本日もグリーンクロウラーが対象だったが、昨日のようにおいしい集団は発見できず、ファイアボールでコツコツ8匹を狩った。
Eランクの薬草採取も順調で今日も6件クリアした。
現在のE,Dランクのクエストクリア件数19件。
この調子で行けば、後6日もあれば、Dランク昇格試験を受けられそうだ。
レベルも5に上がっていた。
高山 大河 年齢23 LV5
STR368, VIT319, AGI351, DEX400, INT3286, MEN1136, CHA305, LUC295
HP393, MP1136, AR0, SR0, DR0, SKL184, MAG40, PL24, EXP10233
スキル:両手剣10、回避8、軽装鎧4、共通語5、隠密4、探知4、追跡4、
罠4、体術2、植物知識5、水中行動4、上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法5(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性5(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
順調にレベルアップし、スキルも少しずつだが、上がっている。
今のペースを守っていけば、当面の目標であるレベル10もそう遠くない日に到達できそうだ。
ギルドでクエスト達成手続きを行っている時にいつもと違う雰囲気を感じた。
何かそわそわした感じで落ち着きがない。気になったので受付嬢に聞いてみると、
「えっ?今日は光の月の第6水曜日ですよ。明後日は夏至祭じゃないですか」
光の月は6月、第6水曜日は29日だ。明後日は夏至の日。年に3回ある大きな祭のひとつで、国を挙げて行われる夏至祭がある日だ。
(なるほど、だから皆そわそわしているのか。祭の前日の楽しい時間というやつだな)
ギルやフーゴから聞いた知識では新年、夏至、秋分の収穫祭は祝日となり、王都から小さな村まで祭を行うそうだ。
神官が神事を行うようだが、酒を飲んで騒ぐ、デートをするなど元の世界の祭と同じ楽しみ方をするのだろう。
娯楽の少ないこの世界ではまさに一大イベントで、明日の夜から前夜祭があり、若者は夜を徹して遊ぶそうで浮ついてしまうのは仕方がない。
この町に友達がいない俺にとってはあまり関係がない。
明後日はギルドの受付はやっているそうだが、クエストを受けに行くのも無粋だろう。
明日も早めに切り上げて、明後日は休日としよう。
受付嬢と話していると、ギルド長がやってきた。
「最近かなり討伐数が増えているようだね。何も問題はないかね」
「特に問題はありませんよ。この分なら10日以内にDランク昇格試験を受けれそうです」
「そうか、それは良かった。ところでちょっと前に先輩に絡まれたそうだが、その後は大丈夫かね」
「ええ、最近あいつらを見ていないので何とも言えませんが、今のところ平和にやってます」
(そう言えば、最近ルディたちを見ないな?)
「そうか、奴らも頑張ってオークロードの討伐をやっているようだ」
一瞬耳を疑った俺は、ギルド長に聞き直す。
「えっ!あいつらがオークロード討伐ですか?大丈夫なんですか?」
「わからん。だが、あいつらの存在がこの町のギルドにとって良くない物になりつつあったからな。実力もないのに後輩には偉そうにする、自分の派閥に入りそうにない優秀な新人には嫌がらせをする、この町の優秀な若手冒険者が見切りを付けてオステンシュタットなんかに行ってしまう原因の一つになっていた。だから、あいつらに最後のチャンスを与えてやったわけだ。オークロードを倒すか、冒険者をやめるか決めろと」
「そうなんですか。でも、たぶん倒せませんよ」
たぶんと言ったが、鑑定で実力を知っている俺は絶対に無理だと思っている。
「まあ、諦めて冒険者をやめてくれれば一番いいが、死んだところでギルドにとって損失は何もない。」
ギルド長も判っているようだが、意外と酷いことをさらっと言って去って行った。
俺も鬱陶しいやつらがいなくなるならどっちでもいいかと思いながら宿に帰った。
翌日も東の森にグリーンクロウラーを狩りに行く。
今日の成果は7匹。薬草採取も5件達成。
東の森の昆虫系は火属性魔法が使える俺にとってはおいしい場所だ。
もう少し慣れたら、奥の方にも行ってみようと思っている。
夕方、宿で食事を取ろうと食堂に行くといつもよりかなり閑散としている。
皆、前夜祭に繰り出しているようだ。後で気が向いたら行ってみようかと考えながら、夕食を頼もうとドラゴン亭の主人のマルティンに声をかける。
「今日はみんな外にいくと思ってほとんど準備していないんだ。今日の分の食事代は明日返すから外で食べてきてくれないか?」
「ああ、すまなかった。じゃあ外で食べてくるよ」
(食いっぱぐれた)
俺はほぼ強制的に前夜祭会場に行くことになった。
俺は一旦部屋に戻り、財布を手に取り、「こういう時、装備はどうするんだ?」と思ったが、面倒なので革のジャケットだけ羽織って外に出る。
屋台をのぞきながら、時々、肉の串焼きやらクレープ包みっぽいものやらを買い食いしながら、町をうろついていた。
「タイガさん」
とアントンが声を掛けてきた。
アントンはダニエラともう一人の少年ベリエスがキャサリンと仲良く歩いている。
いつもの冒険者スタイルだが、少女二人はちょっとしたアクセサリーをつけ、少しだけおしゃれをしている。
中学生のカップルが仲良く縁日に来ている姿が重なって見えてしまい、「13歳の子供なんだよな」ってつくづく思ってしまう。
「楽しんでるか?」
と俺は軽く手を挙げ、声を掛ける。
「はい!楽しんでます。最近少しだけお金に余裕が出てきたので、思い切って今日と明日休みにしちゃいました。タイガさんも前夜祭を楽しんでますか?」
「俺はドラゴン亭の食堂を追い出された口だ。仕方なく屋台で晩飯を食っているだけだ。もう少ししたら宿に帰るつもりだよ」
「そうなんですか...」
アントンは他の3人を見てうなずき、
「実はタイガさんに折り入ってお願いがあるんですが、いいですか?」
「ああ、俺は暇だから構わないが、お前ら前夜祭を楽しむんだろ。別に明日は休む予定だから明日でも時間はあるんだが」
「僕達のこれからのことなんです。これからのことを心配しながら夏至祭を楽しむことなんてできません。できればすぐにでもお話したいんですが...」
深刻そうな顔をしているアントンを見て、
「どっかの屋台のテーブルででも話をするか」
といって、近くの肉野菜炒めを出す屋台の椅子に4人で座る。
俺はエールを頼み、4人はワインの水割りを頼む。アントンが恐る恐る話を切り出してきた。
「実はタイガさんに魔物討伐の指導をお願いしたいんです。僕達、タイガさんのおかげで薬草採取はほどほどできるようになりました。Fランクにもなり、この調子なら1ヶ月くらいでEランクに上がりそうです。でも、僕たちは魔物討伐なんてやったことがないんです。武器の取り扱いも下手ですし、魔物が出てきたら、野犬やコボルトといった弱い魔物でも戦える自信はありません。できればタイガさんに戦い方を教えてもらいたいんです。もちろん、報酬はお支払いします」
「お前ら、俺の戦い方を知っているだろ。俺は魔法で弱らせて剣で止めを刺す魔法剣士タイプのスタイルだ。お前らには魔法の素質がないし、俺に教えるほどの腕もない。悪いが他を当たってくれ」
「タイガさんの戦い方は噂を集めていますから知っています。ですから、タイガさんの戦い方そのものを教えてもらうつもりはないんです。俺達が戦っているところの後ろでタイガさんに見ていてもらいたいんです。報酬は1日銀貨30枚で、討伐の報酬はタイガさんが何もしなくても半分渡します。これはみんなで相談して決めたことです。お願いします」
他の3人も揃って頭を下げる。
俺は銀貨30枚と聞き、ビックリして、
「1日銀貨30枚も払ったらすぐに資金がなくなるんじゃないか。正直そこまでする価値は俺にはないぞ」
「大丈夫です。タイガさんのおかげで1人金貨1枚分程度の貯えができました。僕達が泊まっている宿はタイガさんが泊っているドラゴン亭みたいに高いところではなくて、4人で銀貨12枚ですから、討伐の報酬の半分あれば泊ることはできるんです。こんなこと頼めるのはタイガさんだけなんです。お願いできませんか?」
「わかったよ。但し、条件がある。まず、俺がDランクになるまで待つこと」
「えっ。そんなに先まで待たなきゃだめですか?」
「どのくらい待つと思っているか知らんが、後5、6日で昇格試験を受けられるぞ。昇格試験を含めても10日は掛らんと思うがな。」
「そ、そうなんですか!だってつい何日か前にEランクに上がったとこじゃないですか!」
「1日5,6件クリアしているから、10日は掛らないな」
「はあぁぁ。やっぱり俺達とは違うんですねぇ」
と4人にため息交じりで言われるが、Dランクまでなら得意の薬草採取でポイントを稼げるのでやろうと思えば、もっと早くもできた。
「次の条件だが、報酬についてだ。まず銀貨30枚は要らん」
「「えっ!」」
4人は一斉に声を上げる。アントンが何か言いたそうだが、先に
「その代り、採取と討伐の報酬の7割を俺がもらう」
「その方が助かります」
「そうでもないぞ。それから、もうひとつ、俺がDランクに上がるのに合わせて、お前らもEランクに昇格してもらう。俺がEランクの内にお前らとパーティを組み、採取クエストを1日5件以上クリアする。これならEランクに上がるだろう」
「これって、また俺たちに有利すぎませんか?お願いしていてなんですが、なんか悪い気がしてきました」
と他の3人も肯いている。
「俺にとってのメリットは、俺は基本ソロで動いていた。この間デニス達とパーティではないが、一緒に行動して、パーティでのクエストのやり方をもっと知っておく必要があると思ったわけだ」
実利的な話もしておいた方がいいだろうと思い、
「それからパーティを組むことで夜営しての長期のクエストができるメリットがある。東の森の奥に狩りに行きたいが、日帰りではなかなか行けない。戦闘は俺がするとしても寝ているところを襲われるのは困るから、パーティを組みたいわけだ」
アントンは自分が夜中に魔物と戦うことを考えたのか、
「でも、僕達のような戦えない冒険者でもいいんですか?」
俺は安心させるように、やってほしいことを明確に話しておく。
「構わん。信用のできないやつより、信用できるお前達の方がよっぽど安心だ。それに不寝番をするだけで何かが近付いてきたら俺を起こすだけの仕事だ。腕は要らん」
「それじゃ、明後日から一緒にやってもらえるんですね。ありがとうございます」
結局、アントンたちの要望通りになったようだが、俺のメリットもかなり大きい。
東の森の奥に行き、ゆっくりと休める環境があれば、昆虫系の討伐がやりたい放題になる。
アントンたちには悪いが、番犬代わりの不寝番になってもらうことで俺の成長が速くなるわけだ。
もちろん、アントンたちの経験も増えるのでウィン-ウィンの関係と言えるだろう。
アントンたちは戦闘の経験を積める見込みが出てきたことでかなり嬉しそうだ。
「それじゃ、お前たちは前夜祭、夏至祭をたっぷり楽しんで来い。明後日の朝8時にギルドに集合だぞ。はしゃぎすぎて遅れるなよ」
と片手を軽く上げ、俺は4人と別れる。
翌日の夏至祭も食事はなかったので、屋台で物色する。
広場の方では賑やかな笛や弦楽器の音がする。いかにも祭っていう感じだ。
そう言えば、こっちに来て2カ月近いが、ゆっくり楽しむことがなかった。
1人で少しさびしいが、露店で売っている雑貨やアクセサリーなんかを冷やかしで見ながら、時間を潰していった。
やはり、こういう時に1人というのは、少し悲しくなる。
早くどこかで対等の友人を作りたいものだ。
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