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第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第10話「敗北」
 俺たちの前に現れたオークは普通のオークとは少し違う気がする。
 鑑定してみると、

 オークロード:
  オークの指導的地位を持つ希少種。知能は高く魔法を使う個体もいる。
   HP1300,AR30,SR7,DR7,防御力30,獲得経験値500
   両手剣(スキル20,AR50,SR40),アーマー(スキル10,50)

と出ている。

 ただのオークより数段強いオークロードだ。

(まずい!俺達4人に勝てる相手じゃない!)

「デニス、バルド、エルヴィン、すぐに逃げるぞ! 走れ!」

 3人の動きが鈍い。
 逆に武器を構え、やる気になっているようだ。

「タイガ、あいつはオークだろ。4人で掛かれば倒せる。攻撃するぞ」

「馬鹿野郎!あれはオークロードだ。俺達では傷をつけるのがやっとだぞ! 幸い足が遅いはずだ。逃げきれる。早く走れ!」

「いやだ!ゴブリンの群れを倒した俺たちだ! オーク如きに後ろ見せるのは絶対いやだ!」

とデニスが叫ぶ。

「バルド、エルヴィン、お前らもデニスを説得しろ! 早くしないと全滅するぞ!」

「おれもデニスと同じ意見だ。俺たちなら勝てる。逃げるなら1人で勝手に逃げろ」

「やってやる! やってやる!」

 2人も完全に舞い上がっている。もう時間切れだ。

「俺は逃げる。お前らもヤバいと思ったら逃げろよ」

と言って、俺は全力疾走でその場を離れる。

 後ろでは剣撃の音が聞こえるが、後ろは振り向かない。

 デニス達が最初に待機していた場所に辿り着き、後ろを振り向くと3人が攻撃している姿が見える。

 だが、どれだけ撃ちこんでもオークロードにはほとんどダメージが与えられていない。

 駄目だと思った時、オークロードが無造作に横薙ぎに振ったクレイモアがエルヴィンにヒットする。

「ウゥ!」

 エルヴィンは皮鎧ごと切り裂かれ、その場に倒れこみ、体の下に血溜まりができていく。

 次に左にいるバルドを右斜め上から袈裟がけに切りつける。

 バルドはショートスピアで受けようとするが、スピアごと叩き切られ、胸から血を噴き出しながら、仰向けに倒れる。

「うわぁー! 来るな!」

 デニスは怖気づき、オークロードに背を向けて走り出すが、オークロードはその体格からは想像できないほどの鋭い踏み込みで、その背中に突きを入れる。

 デニス胸から大型の剣が30cmほど突き出て、そのままデニスの目から力が抜けていく。

 オークロードは無造作に引き抜きながら、こちらを見てニヤリと笑っているように見える。

 俺は遣りきれない思いを胸にその場を後にする。
 30分ほど走り、後ろを確認してからその場に座り込む。

「クソ、クソ、クソ!」

 助けられなかった自分にイラつき、手に取った石を投げつける。

(どうしてこうなった)

(どう考えてもやつには勝てないことは分かっていたはずだ)

(冷静になって逃げるべきだったんだ)

 デニスが冷静さを欠いても、バルドかエルヴィンが冷静であれば、逃げ出すチャンスはあったはずだ。
 バルドもエルヴィンもデニスに流された。それともデニスを見捨てられなかったのか。

 わずか数時間一緒なだけの仲間だったが、初めて仲間を魔物に殺されたショックが胸に塊のように残っている。

 ギルドに戻り、ゴブリンの討伐クエスト完了とオークロードとの遭遇情報、デニス達の死亡報告をする。
 オークロードの遭遇情報は、比較的重く受け取られたようで、ギルド長が直々に事情聴取を行うとのことだ。

 ギルド長の部屋に案内され、キルヒナーギルド長にオークロードとの遭遇時の状況を説明する。
 ギルド長は、特に感慨もなく淡々と事実を確認していく。

「それではゴブリンを殲滅した直後にオークロードが現れたということで間違いないな」

「ええ、気付いたのはゴブリン殲滅から10分後くらいだったと思います。周りを気にしていなかったので、もっと前から接近していたのかもしれませんが」

「恐らく、オークロードもゴブリンを狙っていたんだろう。お前達が先に攻撃したから、そのまま様子を見ていた可能性が高いな」

 ギルド長はさらに続けて、

「オークロードは自らを鍛えるため単独で行動する場合と群れの先導として行動する場合がある。オークの群れが移動しているという情報は今のところ上がってきていない。そのオークロードは単独で行動していると考えると、お前達がゴブリンを倒したので、より強いお前達と戦うことを選んだのかもしれない」

 俺は仲間を見捨てたと思われても仕方がないので、俺に対する罰について尋ねる。

「今回の件で俺に何かペナルティはありますか」

「冒険者が依頼者でもない他の冒険者に対して責任を負うことはない。同じパーティだとしても基本的には自己責任だ」

 ここで言葉を切り、事実を確認するようにゆっくりと話し始める。

「まあ、同じパーティの仲間を見捨てたとなると他の冒険者から嫌味を言われるかもしれないが、デニスのパーティとは別に単独で受けているし、オークロードが相手なら軽装の冒険者なら逃げ切れることは誰でもわかる。自分の力量が把握できなかった彼らの自業自得だからお咎めなしだ。というより、よく情報を持って帰ってきたというところだ」

 俺は疑問に思っていたことを冒険者の大先輩でもあるギルド長に尋ねる。

「一つ聞きたいんですが、なんでデニス達は勝てない相手に突っ込んでいったんでしょうか?どうしても理由がわからないんです」

「若い冒険者が掛かる病気みたいなもんだ。大規模な討伐なんかに参加した後、自分たちの実力を勘違いして、英雄譚の主人公にでもなったような気になることがある。普通は死んでしまうようなクエストは受けられないシステムになっているから、ケガをしたり、装備を壊したりといった程度の痛い目で済んでその病気も治るんだが、今回は運が悪かった」

「運が悪かったのはわかるんですが、それだけですか?」

「ああ、デニス達はEランクだったが、確か討伐関係をほとんど受けていなかったはずだ。実力的にはFランクに近いと見ていいだろう。普通はゴブリン程度相手に1対1でもかなり梃子摺るから、Cランクでも難易度の高いオークロードなんか見ればすぐに逃げ出したはずだが、お前さんのおかげでゴブリンをあっさり倒してしまい、舞い上がってしまったんだろう。ゴブリンを倒した直後でなければもう少し冷静になれたかもしれないがな」

 結局、俺が原因か。
 ギルド長は更に、

「普通は冷静すぎるお前さんの方がおかしいぞ。ゴブリン30匹も倒す実力があるのに勝てない相手を冷静に判断する。Eランクでも実力あるやつはたくさんいるが、普通、自分は強いんだと勘違いして1回は失敗するもんだ」

「俺はとにかく死にたくないんですよ。食っていくために冒険者になりましたが、無茶なことはするつもりは全くありませんよ」

「それだけではないと思うが、まあいいだろう」

 ギルド長の部屋から出て、これからのことを考える。

 俺が常識外れなのかもしれないが、冒険者たちともう少し付き合う必要があるな。
 特に俺と同じくらいのランクの連中は俺より7,8歳下の高校生くらいの連中がほとんどだ。未熟者が調子こいて失敗するのはどこの世界も同じだが、その連中のお守りをしなければならないと考えると安易にパーティは組めないな。

 やはり自分の実力を上げて安心して組める連中とパーティを組みたい。

 受付嬢に

「ギルドに訓練場があると聞いた記憶があるんだが、そこでは指導なんかもしてくれるのか?」

「大きなギルド支部でしたら、武術指導員がいるところもあるそうですが、ここゴスラー支部では指導できる人がいません。場所を開放しているだけです」

「そうか。ところでその訓練場では魔法の練習もできるのか?」

「え~と、できたはずです。ここの冒険者の方には魔術師の方がいらっしゃらないので、見たことはありませんが、タイガ様は魔術師でいらっしゃったんですか?」

「魔術師というか、少しだけ魔法が使える。炎系なので練習場所に困っていたんだ。訓練場を使わせてもらうよ」

 そう言って、ギルドから500mほど離れた場所にある訓練場に向かう。

 俺の戦闘力を支えているのは、火属性魔法だ。練習することで威力が増したり、早く撃てたりするのかはわからないが、魔力が残っている時は少しでも練習しておこうと思っている。それに魔法を改良できないかも試してみたい。

 訓練場では、数人の冒険者たちが剣や槍などを振ったり、木剣で模擬戦をやったりしている。
 俺は、訓練場の端のほうにある射撃訓練用のスペースに行き、ファイアボールを撃ち込んでも大丈夫か確認する。
 石造りの壁に土が盛ってあり、矢が外れても土に突き刺さるようになっている。
 これなら大丈夫だろう。

 最初の頃は何気なく使っていたファイアボールだが、最近もう少し改善できないかと考えていた。

 改善したいのは、飛翔速度、威力、射程距離の3点だ。
 威力は消費魔力を調整することで増減は可能だが、同じ魔力・マナ量でより攻撃力を上げる方法はないかを実験してみたかった。

 威力を上げる方法として、炎の温度を上げる、玉ではなく棒状にして貫通力を上げるが考えられる。
形を変えるとファイア”ボール”でなくなるのでダメなような気がするが、炎の温度を上げる、すなわち密度を上げる方は何とかならないかと思っている。

 いつもは何気なく炎の玉を作っているが、今回は圧縮するようにより小さく高温になるようイメージしながらファイアボールを発動してみる。

 いつもなら直径20cmくらいのオレンジ色の炎の玉が右手の先に現れるが、今回は10cmくらいをイメージしているため、かなり小さく白色に近い炎の玉が現れる。

 壁に向かって発射。

 スピードは少し速いかなと思える程度、命中した箇所には直径30cmくらいの陥没ができている。
 比較のため、通常のファイアボールを撃ちこむ。
 直径50cmくらいの陥没だが、深さが浅い。
 小さくしたことにより貫通力が上がったと考えて問題ないだろう。

 今日は後1発しか撃てない。とりあえず更に圧縮したファイアボールを作ってみよう。
 ゴルフボールくらいの3cm程度の炎の玉をイメージする。
 右手に白く輝くゴルフボール大の光の塊が現れる。撃とうと思った瞬間、光の玉は徐々に大きくなり、10cmくらいの大きさになってしまう。やはり限界があるのだろうか。明日から飛翔速度や射程距離などもいろいろ試してみよう。

 盛り土にできた穴を塞ぎ、帰ろうとすると、周りの注目を集めていることに気付く。

 そう言えばゴスラーに魔術師の冒険者がいないって言っていたよな。声をかけられると面倒なのでさっさと退散することにした。


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