第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第9話「ゴブリン、ゴブリン、そして...」
西の森には狼が多い。
東の森には昆虫系の魔物が多い。
北の森はすぐに山になり熊や大型の虎の魔物が出る。
ということで南の森にいるゴブリンの討伐クエストを受ける。
ゴブリン自体は常に討伐依頼が出ているので、南の森の採取クエストをいつものようにメモしておく。
南の森は、マイヤー村やベッカルト村に続く街道が通っており、灰色狼や茶熊などの危険な魔物は定期的に討伐している。いたとしてもはぐれ狼や野犬程度でそれ程の脅威ではない。
アントンたちが仕入れてきた噂話に南の森の奥にゴブリンの集落が作られつつあるようだというものだ。
マイヤー村との街道沿いでゴブリンらしき姿を見たとの目撃情報が多数あり、かなり信憑性が高いと噂されている。
この話を聞いた時、集落はないだろうが、ベッカルト村の時のように群れの分割があったのではないかと考えた。
この冬はかなり暖かかったそうで、本来数を減らす冬季であるにも拘らず、冬季の間も数を増やした可能性がある。
そう考えたときに移動したてのゴブリンがどう行動するか考えた。
ゴブリンとしては集落を作る場所を探し、更に周りにえさを求めるのではないか。
今まで住んでいたところと違い、土地勘がないところなので広く分散して探索するのではないかと考えた。
うまくいけば各個撃破で相当数のゴブリンを討伐できる。俺には鑑定があるので、開けた場所や見通しの利く場所であれば遠距離先制攻撃も充分にあり得る。
いざとなれば、ゴブリンは足が遅い。
囲まれなければ、走って逃げることができるので、リスクは小さい。噂がガセネタでも採取系の依頼をこなせれば南の森の植生情報が手に入れられる。
そう考えて、ゴブリン討伐のクエストを受けることにした。
南の森に8時頃到着。初めての森なので警戒しながら、できるだけ奥に進んでいく。
薬草系はかなり豊富で何種類か採取したが、毒草や毒キノコもかなりあった。
本当のことを言うと毒草の買い取りはないものかと真剣に思ってしまう。
トリカブトのように薬も毒も紙一重だと思うが、この世界ではそこまで研究が進んでいないようだ。まだ毒草を採取していないが、一撃で熊ぐらいを倒せる毒があれば、採取しておこうとも思っている。
毒使いっていうのは響きが悪いが生きていくための奥の手を持っておくことは大事だと思っている。
3時間くらい奥に進んだところで魔物の気配を感じる。
草叢に身を潜め、探っていると、噂通りゴブリンが3匹歩いている。
手にはなにやら肉のようなものを持っているので狩りをした後のようだ。俺は風向きに注意しながら慎重に後をつけていく。
30分くらい追跡したところでゴブリンの群れを発見。
30匹はいる。
どうやって倒すか。
想定した数よりかなり多いし、これが全数だとは限らない。
充分離れたところで観察していると更に10匹くらい増えた。
全部で43匹。
到底一人では対処できないので、当初の計画通り各個撃破で行く。
群れから離れていく3匹のグループを追跡する。
俺のファイアボールの射程はおよそ30m。発射速度は初弾が20秒、次弾以降が40秒に一発で最大4発まで撃てる。
3匹のグループであれば奇襲さえできれば、接近されるまでに2匹は倒せるので、最後の1匹を剣での一騎打ちで仕留めれば、ほぼ完勝できる。
だが、43匹すべてを一人で倒すのは無理がある。
ゴブリンがいる証拠を手に入れギルドに報告し、討伐隊を組織した方が固いだろう。
群れから離れたゴブリンを追跡し、戦闘の音が群れに聞こえない距離まで離れたところで後ろからファイアボールを放つ。
一匹目が倒れ、敵を探している隙に二発目を発射し二匹目も倒す。
ゆっくり移動しながら撃っているのでゴブリンはどこから撃たれているのかわからないようだ。
三匹もファイアボールで仕留める。
結局、接近戦なしで完了。
討伐証明部位を剥ぎ取り、町に帰ることにする。
帰り道に討伐隊を組織するように言うか、それともこのままゲリラ戦法で数を減らしていくか考える。
ゴブリンは頭が悪いが、仲間が帰ってこなければ警戒くらいするだろう。
その時にこちらが一人だとかなりまずいが、群れの場所が分かっている今はこちらが奇襲されるリスクは小さいと考えていい。
俺は当面この作戦で討伐していくことにした。
ギルドでは、ゴブリン三匹分と薬草5種類分の報酬を受け取る。
最近、天才薬師と言われているようだが、今回の討伐の結果を見て少しは俺に対する見方が変わるかもしれない。
翌日、翌々日同様にもゴブリン討伐クエストを受託。
前日までと同じように三匹のグループを奇襲し、殲滅。
とっておいた薬草とともにギルドに報告。
もうそろそろパターンを変えないと痛い目にあいそうな気がする。
次の日もゴブリン討伐を受け、南の森に入っていくが、いつもより更に慎重に身を隠しながら進んでいく。
案の定、ゴブリン達は五匹でグループを作り、警戒しているようだ。
十分に群れから遠いことを確認した後にいつもの通り奇襲を掛ける。
今日は五匹なので接近戦は必ず起きる。
四日目ともなると慣れたもので、一匹ずつ倒しながら移動し、スナイパーのように死角からゴブリンを倒していく。
残り二匹になったところで遂に発見された。
向こうは棍棒を持ち、奇声を上げて突撃してくる。
ゴブリンの攻撃はどこでも同じらしく、ベッカルト村で経験している分、冷静に対応できる。
一匹目はいつものようにリーチを生かした突きを放ち、後続の2匹目の棍棒を回避する。
これでほぼ1対1になるので後はそれ程難しくない。
振り回された棍棒をスウェーバックでかわし、ゴブリンに横薙ぎの一撃を打ちこむ。
これでゴブリンは行動不能になったのであとは慎重に止めを刺していく、
今日で14匹のゴブリンを倒した。さっき確認したらレベルも上がっているので明日はもう少し楽になるかもしれない。
高山 大河 年齢23 LV4
STR291, VIT253, AGI280, DEX330, INT3215, MEN1052, CHA245, LUC235
HP334, MP1052, AR0, SR0, DR0, SKL177, MAG32, PL23, EXP6021
スキル:両手剣8、回避6、軽装鎧3、共通語5、隠密3、探知3、追跡3、
罠3、体術1、植物知識4、水中行動4、
上位古代語(上級ルーン)50
魔法:治癒魔法4(治癒1、治癒2、解毒1)
火属性4(ファイアボール、ファイアストーム、ファイアウォール)
レベルアップによって、新しい魔法が増えている。
魔力的にまだ余裕があるので、範囲攻撃が可能なファイアストームを森の中の開けたところで発動してみる。
発動までに約1分。
中心部分は約20m先で、直径約10mの炎の渦が1分ほど継続する。
攻撃力はわからないが、複数の敵を相手にする場合、かなり有効な魔法だと思える。
魔力に余裕があると思っていたが、今のファイアストームでかなり魔力を消費したため、足元がふらついてしまう。
使い道を良く考えないと自滅する可能性がある魔法だ。
森を出て草原の中を歩きながら、明日からのことを考えてみた。
ゴブリンといえども、群れの1/3が行方不明になっていることから、強力な敵がこの辺りにいると考えるだろう。
近いうちにここは危険と判断してどこかに移っていくかもしれない。
どこかに行ってしまっても俺にとってそれほど痛手ではないが、折角楽に倒せる魔物がいるのに勿体ない気がしてしまう。
残り30匹弱、覚えた範囲攻撃魔法で混乱させた後であれば、4,5人のパーティでも殲滅できそうだ。誰かを誘って殲滅してしまうのも手かもしれない。
ギルドに戻り、本日の報酬を受け取る。
そのまま、他の冒険者が戻ってくるのを待ってみる。
30分ほど待った後、見覚えのある連中がギルドに入ってきた。
数日前に俺をパーティに誘ったデニス達だ。
俺はデニス達を鑑定し、彼らの能力を確認した。
デニスはレベル6で俺と同じく両手剣を使い、スキルは3で、バスタードソードを使っている。
バルドもレベル6、短槍スキル3でショートスピアを使っている。
エルヴィンはレベル5、片手剣3でロングソードを使っている。
レベルは俺よりも高いが、近接戦闘の戦闘力は互角、魔法がある分、俺の方が強い。
こんな感じの連中だ。
(そこそこ名前が売れ始めてきたって言っていたけど本当か?全く大したことがないじゃないか)
まあ、この程度の腕でもゴブリンであれば十分に倒せるし、4人いれば、囲まれたり、後ろから攻撃を受けたりするリスクはかなり減る。
俺はデニス達に声を掛ける。
「よう。前言っていたパーティを組む話なんだが、俺もEランクになったんで、一回、一緒にクエストを受けてみないか。俺はまだ誰とも組んだことがないから、いきなりパーティに入ってしまうのは少し性急な気がしてしまうんだ。だからパーティじゃなく、別々にクエストを受け、やる時は一緒にという形で頼みたいんだが」
デニスは特に何も気にせず、
「ああ、俺は構わない。バルド、エルヴィンどうだ」
バルド、エルヴィンも頷き、3人とも了承してくれた。
「それでだ、ゴブリンの群れを見つけた。最初は40匹以上いたんだが、毎日数匹ずつ倒し、30匹を割るくらいになった。そろそろゴブリン達が逃げていきそうなんで、一気に決めたいと思っているんだ。一枚噛まないか。」
「ゴブリン30匹か。俺たちでは荷が重くないか。タイガの戦力がどの程度かわからないが、俺達3人だったら、最大10匹までだと思うが」
意外と冷静に自分たちの戦力を把握している。
確かに俺の魔法がなければ一人三匹くらいが限界だろう。
だが、俺には魔法という切り札がある。
「その点なら大丈夫だ。俺が魔法である程度倒してしまうんで残りを叩けばいい。俺も15匹くらいなら魔法で倒す自信はあるんだ。残りに襲われると倒しきる自信がない。そこで、魔法で15匹くらい倒しておき、残りの10匹くらいを4人の近接攻撃で倒してしまう作戦なんだが、どうだろう」
デニスは深く考えるタイプではないようですぐに話に乗ってきた。
「うん、おもしろいな。本当に魔法で15匹も倒せるのか」
ゴスラーに魔法を使う冒険者がいないことから、さすがに魔法の威力については確認を取ってくる。
「ああ、それについては自信がある。毎日5匹くらいしか倒していないのは多すぎると倒しきれなかった時に袋叩きに合いそうでやめていただけだ」
今日覚えたファイアストームが既に使えているような口振りで説明する。
最近、俺がゴブリンの討伐をやっていることを知っているのだろう。乗り気になってきている。
「わかった。バルド、エルヴィン、この話に乗るか?」
「俺は面白いと思うし、タイガができるというならできるんじゃないか。これだけの成果を上げているやつだ。自信がなければやらないだろう」
「俺も賛成」
と2人とも賛成してくれる。デニスもうなずき、
「明日はゴブリン討伐で決まりだ。タイガ、集合は7時でいいか」
「OKだ。では明日の夜はいい酒を飲もう」
と言って、3人と別れる。
少し騙しているようだが、一人でもある程度やれる自信があるので騙しているうちには入らないだろう。
翌朝、デニス達3人もゴブリン討伐のクエストを受け、俺もソロでゴブリン討伐のクエストを受ける。
いつものように南の森に向かう。
3時間ほどでゴブリンの群れのいる場所の近くに到着。
俺が偵察に行き、ゴブリン達がいることを確認する。
数は29、ほぼ全数とみて間違いない。
デニス達のところに戻り、作戦を説明する。
風下に移動し、デニス達は50mくらい離れたところで待機。
俺が静かに接近し、20mくらいまで近づいたらファイアストームを撃つ。
ゴブリン達がパニックになっている間にデニス達が突撃し、一気に勝負を決める。
もし、俺がしくじった時は、デニス達はそのまま撤退、俺は自力で脱出する。
ゴブリンの群れを見てやや怖気づいていた3人だったが、俺が成功しても失敗してもリスクが少ないことに安心し、今はかなり落ち着いている。
俺はこれなら大丈夫だろうと思い、作戦開始を告げる。
木々の間を静かに移動していく、じりじりと近づくため、30m進むのに10分以上掛けている。
ようやく予定の場所に到着し、後ろのデニス達に魔法を撃つと合図をする。
ファイアストームは、発動までに1分、一発撃ったら、ファイアボールは三発しか撃てない。ゴブリン達は15匹くらいが固まっているグループを中心に2,3匹ずつ離れて座っている。
俺は最も多く目標が攻撃範囲に入るよう攻撃点を定め、ファイアストームを発動。直径10mくらいの炎の渦が現れ、ゴブリン達を焼いていく。
17匹にダメージを与えることに成功、すぐに3人に合図を送る。
3人は茫然としていたが、俺の合図に気付き突撃を開始する。
特にデニスはかなりハイテンションになり、奇声を上げながら突撃していく。
ゴブリン達はまだパニック状態だったが、デニスの奇声に気付いた数匹は棍棒を持って、3人に突っ込んでいく。
俺は心の中で「馬鹿野郎、静かに近づいて最後に鬨の声を上げろよ。奇襲効果が減るじゃねえか。」と思ったものの大勢に影響はないと思い返し、デニス達の突撃ルートからずれる様に横に静かに移動を開始した。
3人は20秒ほどでゴブリン達に接近し、それぞれ思いっきり振りかぶって攻撃する。
どうも戦闘の経験はほとんどないようだ。
剣のスキルも訓練で上げたようだと考えながら、横からファイアボールで支援する。
このファイアボールで生き残りのゴブリン達も完全に浮き足立ち、右往左往している。
俺も剣をとり、ゴブリンの群れに向かう。
デニス達と違い、いつものようにリーチ差を生かした突きを中心とした攻撃で一匹ずつ倒していく。
10分後、ゴブリンをすべて倒し、デニス達と合流した。3人はまだ興奮しているようで、
「タイガ、すごいじゃないか。こんなに魔物を倒したのは初めてだ。これからも一緒に魔物を倒そうぜ!」
と3人で喜び合っている。
魔物を大量に倒して、うれしいのはわかるが、「やることをやってから喜べよ」と思いながら、本当にうれしそうなのでしばらく放っておいた。
俺はゴブリンの討伐証明部位を黙々と採取していたが、いい加減鬱陶しくなったので、
「お前らいい加減にしろ!血の臭いを嗅ぎ付け、他の魔物が来るかもしれないんだ。早く討伐証明部位を切り取ってくれ」
デニス達もようやく剥ぎ取りを開始する。
俺は7匹分を取り終え、次のゴブリンに向かおうとしていた。
その時、
「グォアガァァ!」
と魔物の咆哮が辺りに響く。
咆哮が聞こえた方を見ると豚面をした魔物がこちらに向かってくるのを見つけた。
噂に聞くオークの姿に似ている。
オークは身長180cmくらいで豚面の醜い人型の魔物だ。
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