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第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第7話「後輩?」

 いつものように明日のクエスト予定を立てていると、10代半ばの少年が声を掛けて来た。後ろには同年代の少年1人と少女2人がいる。

「あの、ちょっといい?」

(子供じゃないか?こんな子供も冒険者になるのか?)

「なんだ」

 少年は少しびくついた感じで話を始めた。

「あの、僕達2ヶ月前に冒険者になったんですけどまだGランクなんです。どうやったらあんなに早く採取ができるか教えてもらえませんか?」

(面倒だな。しかもこんなに他の冒険者がいるところでそんなこと教えられるわけないだろう。体よく追い払うか)

「報酬は」

「えっ!」

 少年は全く想定しなかった言葉に固まっている。

「1日で金貨1枚分近く稼ぐ方法をただで聞こうと思っていたのか。別にカネじゃなくても情報でもいいが、釣り合うものを持っているんだろうな」

(ここまで言えば引き下がるだろう)

「ありません...でも、僕達もうすぐ手持ちの資金がなくなりそうなんです。どうしても稼がないといけないんです」

 少年は消え入りそうな声で俯きながら事情を話してきた。

「悪いが、それはお前さんたちの事情だ。俺には関係ない」

(そういう事情は静かなところで先に話して欲しいもんだ。これじゃ俺が悪者じゃないか)

「そうですか、お邪魔してすいませんでした」

 俺は掲示板から離れるようにして、少年の横を通り過ぎる。

「知りたいなら、明日の朝、南門を出たところで待っていろ。俺より先に来ていなければ、この話はなしだ。それと」

とここまで小声で言い、

「こんなところでそんな話をするな。冒険者として生きていくなら情報の重要性くらい理解しておけ。」

と少し大きな声で周りに聞こえる様に言ってからギルドを出る。

 俺としては教えてやるつもりはなかったが、本当に困っていそうなので同情してしまい、教える気になっていた。
 最後は、他の冒険者の前で言う話でもないし、俺のノウハウを狙う奴がいそうなので少し芝居をうってみた。

 翌朝、俺はEランクの採取クエストを選択。
 西の森の中での採取クエストだ。
 西の森は灰色狼グレイウルフ赤熊レッドベアなどCランク対象の魔物が出るため、危険度は草原の比ではない。
 その分報酬も倍以上と大きく、うまく採取ポイントを見つければ、草原以上に稼ぐことができる。

 それともう一つの理由は、森の中は見通しが効かないため、ファイアボールの練習ができることだ。
 いい加減、剣を振り回しているだけの自主トレーニングに飽きてきていた。

 いつものようにメモ帳に西の森にある薬草採取クエストをメモしておく。
 さすがに数が多く20件くらいある。
 30分ほどでメモを取り終わると、南門に向かって歩いていく。

 昨日の少年たちは南門の外ですでに待っていた。

 本当は張良の逸話のように夜明け前に南門行っておき

「教えを請う方が遅いとは何事か」

 とやってみたかったのだが、俺自身、西の森のデビュー戦を控えているので遊んでいる余裕がなかった。

 少年たちは声をかけてきた少年がアントン、もう一人の少年がベリエス、少女2人がキャサリンとダニエラと言うそうだ。
 4人とも、10代半ば、いや10代前半の子供と言っていい年頃だが、かなり疲れているのか、思いつめたような、いや、諦観したような歳不相応な表情が印象的だ。

 アントンはくすんだ金髪で身長は俺とより少し低い170cmくらいの少年で、かなり痩せている。顔にニキビがあり幼い印象だが、この4人のリーダー格だ。

 ベリエスは栗色の髪によく日焼けしたそばかすの多い顔の少年。人見知りをするのかほとんどしゃべらず、表情の変化も少ない。身長は俺と同じ175cmくらい。アントンに比べると少しがっちりしているように見える。

 キャサリンはきれいな金髪で少し鼻は低いが、かわいらしい顔付きの少女。ただ少し消極的な感じがする。身長150cmくらいで体形は発展途上。田舎の女の子って感じだ。

 ダニエラは明るい赤毛でキャサリンとは反対に活発そうな感じのボーイッシュな少女。身長はキャサリンと同じく150cmくらいで、こちらもまだまだ発達途上の体形だ。

 正直、最初はお遊び気分の子供たちの相手をするのかと思っていたが、話を聞くと、4人は皆13歳で、3ヶ月前に村が盗賊に襲われ、食料や家畜を奪われたそうだ。
 幸い男たちは無抵抗を貫き、女たちは村の外に隠れていたので人的被害は出なかった。
 秋の収穫期まで食糧がもたなさそうなので、奴隷商に売られるよりはと、自ら口減らしのために着の身着のまま、冒険者になったとのことだった。

 事情がわかったので、やり方を説明しようと思ったが、そう言えば、俺以外に鑑定を使えるやつはいない。場所と見分け方を簡単に教え、後はなんとか自分たちだけでなんとかやっていってもらおう。
 この4人は誰にも頼らず自分たちだけで3ヶ月間過ごしてきたんだろう。助け合って生きていく田舎の村の生き方が抜けていない。
 これでは俺のノウハウを教えても、すぐに誰かに奪われて元に戻ってしまうだろう。

「先にお前たちに言っておくが、もっと周りの状況を見ておけ。昨日のような状況で俺に話を聞いたとしても他の冒険者が聞いていればお前たちにチャンスはない。今も誰も後ろを気にしていないが、つけられていたら、どうするつもりだ。冒険者は皆食うためにクエストをこなしているんだ。少しでも有利になるためには少々汚い手を使うことも辞さないぞ。お前ら自身が食いものになりたくなければ、もっと周りを見ることだ」

と実際には冒険者7日目の後輩が偉そうに先輩面して講釈をたれる。

「これから、俺が知っている薬草の群生地に連れて行ってやる。場所は自分で覚えろ」

 勝気そうなダニエラが俺に

「報酬の話はどうなったの?何も持っていないわよ。それとも私たち2人の体目当て?」

とキャサリンと自分の体を見ながら、トンでもないことを聞いてくる。

「俺は23だ、お前らみたいなお子様をどうこうしようとは思っていない。そういうことはもう少し女らしくなってからほざいてくれ。折角だから、お前らが俺に支払う報酬について言っておく。俺がこのゴスラーにいる間は、お前らには俺の耳になってもらう。町やギルド内での噂話を集めろ。それを俺に伝える。それが、お前らが支払う報酬だ。」

 ダニエラは真っ赤な顔をしているが、とりあえず無視しておく。

 アントンが不思議そうな顔で

「噂話だけでいいんでしょうか。どこかに情報を取りにいかなくてもいいんですか」

「お前らにそんなことはできないだろう。それに噂話は馬鹿にできない。それも同じところではなく、いろいろなところで集めた話を分析すると意外と面白い話が出てくることもある」

 4人はポカンとして話についていけていない。出来るだけ具体的に指示した方がいいだろう。

「屋台のおっさん、宿の手伝いのおばちゃん、ギルドの受付嬢、武器屋の親父、誰とでもいい、どんな詰らんことでもいいから、俺に伝えろ。だが、ギルド内ではできるだけ話を聞かれたくない。伝え方は週に1回俺の泊まっている宿のドラゴン亭の食堂で飯を食いながらにする。飯代は俺が出してやる」

 俺自身、この世界の常識がない。
 自分で情報を手に入れに行くと逆に常識の無さがばれるかもしれない。その点、この4人なら常識外れの質問をしたとしても子供だからと気にされないだろう。
 特に子供の方が手に入れやすい相手もいるし、俺としてもいい情報源になってくれればノウハウと食事代など安いものだと思っている。

「わかりました。なんか俺たちが無茶苦茶得をしているみたいですが、甘えさせていただきます」

 そんな話をしながら、第一のアカヨモギ草ポイントに到着する。

「場所の見極め方を教える。まず、街を見ろ。町の監視塔があるだろう。あれと後ろの山の稜線の重なり方を覚えろ。次は南を見ろ。西の森の端と南の山の稜線の重なりを覚えれば、かならずこの場所に着ける。よく見ておけよ」

といって、三角法の要領で位置を覚えさせる。

「次にアカヨモギ草とニセアカヨモギの見分け方だが、葉の付け根の形をよく見ろ...」

と説明していく。

 3時間ほどして西の草原の採取ポイントをすべて教える。

「後は好きに管理しろ。俺はできるだけ採り尽くさないようにしておいた。場所は他の冒険者に見つからないように、後ろを付けられていないことを頻繁に確認すれば、見晴らしがいい草原なので多分大丈夫だろう」

 4人はようやく収入の目途がついたと喜んでいる。

「本当にありがとうございました。これで当面の資金を確保できましたし、Fランクに昇格もできそうです」

「まだ礼を言うのは早いんじゃないか。少なくともFランク上がるまでは気を抜くなよ。それから今日は1種類だけにして、明日以降ソロで別々の採取にした方が目立たず儲けられるんじゃないか」

といって、俺は自分のクエストに向かうため、一旦街道に戻ってから西の森に向う。


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