第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第4話「準備」
午後4時くらいになり冒険者たちがギルドに集まり始めたので、邪魔にならないよう退散することにした。
宿泊場所について、受付嬢に安全で食事のうまいお勧めの宿を聞いてみると「暁のドラゴン亭」という名前の宿を紹介してくれた。
ギルドから歩くこと約5分で「暁のドラゴン亭」に到着。
2階建のこぢんまりとした宿で名前負けしているような気がする。
中に入り、フロントで宿泊手続きをする。
ギルドカードを見せ、ギルドの紹介で来た事を告げると2割引で1泊2食8Sとのことだった。
2食付だが意外と高い。とりあえず3泊分支払う。
「部屋は2階の23号室だ。外に出る時は鍵をフロントに預けること。外出時には服や毛布といったものはいいが、現金や貴重品は部屋に置いておかないでくれ。無くなっても責任はとならない。夕食は午後6時からで8時に取ってくれ。8時以降は別料金になる。酒は別料金で都度払ってもらう。朝は午前5時から8時までで8時を過ぎると食堂を閉める。弁当がいるなら前の日にいってくれれば銀貨1枚で作っておく。何か聞きたいことはないか」
と宿の主人であるマルティンが説明してくれた。
マルティンは宿の主人にしてはまだ若く30歳くらい。この世界では背は低いほうで170cmくらいだ。
日本のホテルのように敬語ではなく、ぶっきらぼうな感じだが、誠実そうな雰囲気の男だ。
俺はとりあえず思いつくことを聞くことにした。
「体を洗いたいんだが、湯はあるか」
「一応、浴室がある。1時間以上前に言ってくれれば準備する。前金で銀貨3枚だ。たらいの湯でよければ銀貨1枚でいい」
「洗濯はできるのか」
「洗ってほしいものがあれば、フロントに持ってきてくれ。物によって料金が変わるから一概には言えないが、リネンのシャツなら1枚小銀貨5枚が相場だ」
「わかった。ありがとう。それじゃ湯の用意を頼む」
と言って銀貨3枚を渡す。
どの程度の浴室かはわからないが、1回3000円はかなり高い。
毎日はちょっと厳しいようだ。
小物類と下着を買いたかったので、マルティンに店の場所を聞いてみる。
「ところで、近くに服や小物を売っている店はないか」
「裏に服を売っている店がある。いろいろ見たいなら町の中心の方に行った方がいい。小物はここを出て北に500ヤード(約460m)くらい行った所にある」
「ありがとう。1時間で戻ってくるから部屋の鍵はその時にもらう」
「わかった。気をつけていって来い」
下着の予備がないことと手拭いがほしかったので、とりあえず服屋に向かう。
この町には綿の服がなく、亜麻か毛織物しかなかった。
仕方がないので、下着はリネンのトランクスと丸首のTシャツを2着ずつ購入。靴下はウールのものを3足購入した。
全部で銀貨50枚、5万円の買い物だ。新品を買ったのが高くなった原因のだが、下着や靴下のユーズドはちょっと嫌なので高くても我慢した。
そのまま、小物屋に向かい、木のコップ、歯ブラシ、歯磨き用の塩、手拭い2枚、石鹸らしきものを買う。
全部で銀貨10枚、石鹸らしきものが銀貨8枚もした。
宿に戻って、部屋に荷物を置きにいく。
部屋には、ベッドと簡単な机といす、クローゼットがある。
ベッドは清潔なシーツが掛けてあり、結構当りの宿だと思った。ちなみにトイレは階段横の共同トイレだ。
荷物を置き、浴室に向かう。
浴室に入ると直径1mくらいの大きめのたらいに30cmくらい湯が貯めてある。
排水溝がある石畳のところがあり、桶がおいてあるのでここで湯を流すのだろう。
日本人の感覚では、湯を沸かして運ぶ手間とはいえ、銀貨3枚はかなり高い気がする。
小物屋で買った石鹸を使ってみる。
なんとなく泡は出るが、あまり汚れが落ちる気がしないが、久しぶりに本格的に体を洗ったのでかなり垢が落ちた。
石鹸は10回くらい使えるかなといった感じ。値段が値段なだけに微妙だ。
いっその事、自分で作ってしまおうかと思えるほどだ。まあ、何はともあれ頭も洗え、すっきりした。
湯が余ったので、下着の洗濯も済ませてしまう。
部屋に戻り、荷物の整理をしてから食堂に向かう。
こういうときは防具をどうするんだろう。着けていくのが普通なのだろうか?
判らないし、重たいので防具は部屋に置き、念のため剣は肩に掛け、食堂に向かう。
食堂では帰ってきたばかりの冒険者たちが食事を取り始めている。
防具はまちまちで帰ってきたら外すのが普通のようだ。
武器は携行している人が多い。
なんとなく正解だったようだ。
一人なのでカウンターの一番端に座り、鍵を見せて食事を頼む。
食事はメインを1皿とスープと野菜が少しにパンが3つ。飲み物はない。メインは何かの肉の煮込みで結構おいしい。
パンはパサついているのでスープに浸して食べる。
のどが渇くので、酒を給仕に頼む。
赤ワインとエールが基本だが、蜂蜜酒や果実酒もある。エールを頼み、小銀貨5枚を支払う。
1リットルは入りそうな陶器製の大ジョッキにホップの効いていない常温のビールが入っている。
個人的にはキリキリに冷えた日本のビールが好みだが、ベルギービールも割りと好きだったので、抵抗なくおいしく飲める。
食事を平らげ、エールをちびちび飲みながら、周りの様子を見てみる。
食堂はテーブルが10台、カウンターが10席ほど、最大50人ほど入れそうだが、今は半分ほど埋まった状態。照明はランプの明かりだけだが、思ったより明るい。
あまりじろじろ見るのも警戒されるので、給仕を探す振りをして回りを見渡す。
5人くらいのグループが3つと3人くらいのグループが3つ、カウンターにはお一人様が俺を含め4人、テーブル席はかなり盛り上がっているところもあるが、他は日本の居酒屋のようなガヤガヤ感はそれほど強くない。
まあ、毎日の食事でいつも盛り上がっていたら逆におかしいか。
年齢層は30歳代が多く、ベテランっぽい雰囲気の人が多い。
受付嬢に安全な宿をと頼んだので、中堅どころが泊まる宿になったのかもしれない。
男女比については、思ったより女の人が多い。9対1以下かと思ったが、7対3位の割合だ。この宿は冒険者御用達だそうなので、客のほとんどが冒険者と考えると女性冒険者は意外に多いのかもしれない。
女性も30歳以上が多く、俺のストライクゾーンからは少し外れている。
年齢的にはそれほど違和感はないだろうが、今日登録してきたばかりのルーキーがいる雰囲気ではない。早々に退散しよう。
フロントで翌日の弁当を頼んでおき、部屋に戻る。
部屋に戻り、装備の点検をする。両手剣はかなり大型になったので取り回しが難しい。明日から自主トレーニングをしようと思う。
ツーハンドソード(大)
攻撃100、命中40、必要STR500、レンジ6ft、長さ5.0ft、重量6.5lb
持ち運びは背中に背負う形にしているので、それほどではないが、重さも倍近くになり、振り回す時にかなり力がいる。
相変わらず必要STRに足りていないので、当分振り回すことは出来ない。早く筋力を付けなければ。
ハードレザーアーマーは前の革鎧に比べかなり防御力が上がっている感じだ。
どうやって皮をこんなに硬くしているのかはわからないが、叩くと木かプラスチックみたいな硬い音がする。
昨日のうちに調整は終わっているので違和感はないが、肩の動きが若干制限されている気がする。アーマーを着込んで剣の鍛錬をした方がよさそうだ。
明日からの依頼、ギルドではクエストと言うそうだが、クエストの選択について考えてみる。
受けられるクエストは、GランクかFランクになる。
Gランクは1クエスト当り1Sくらいが相場だ。かなり安いのでできるだけFランクのクエストにしたい。
Fランクは採取系と配達系が主体だ。
配達系は時間が掛かるので採取系がいいだろう。幸い鑑定が使えるので近くに行けば適当に草を鑑定すれば目的のものを見つけられる。
Fランクへの昇格のためには50のクエストをクリアする必要がある。
一日に2つずつとしても1ヶ月近く掛かる計算だ。
なにかいい方法がないか、常に考えておこう。
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