ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
誤字、矛盾点を修正しました。
第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第2話「初めての人殺し」
 あと30分くらいで目的のマイヤー村に着くというとき、荷馬車の前に20歳前後の若い3人組の男たちが道をふさぐように現れる。
 フーゴは馬車を止め、男たちの方に向かって、穏やかな表情を崩さず、

「そこを通るんだ、どいてくれないか」

と声をかけるが、真中にいる一番体の大きい男が威嚇するように大きな声でしゃべり始める。

「ここを通るんだったら、通行税を置いていってもらおうか。荷馬車と有り金全部だ!」

 俺は半ばあきれながら、男たちを見ている。

(何ともストレートな要求だ。通行税とかいう必要はないんじゃないか)

 フーゴは、こんなに村に近いところで強盗に合うとは思っていなかったようで驚いている。

 俺は強盗にどう対処するか考える時間が欲しかったので、フーゴに話を引き延ばしてくれと目で合図を送る。
 フーゴも理解したようで、強盗たちと交渉を始めている。

 その隙に俺はこっそり鑑定を使い、相手がどの程度なのか見ていた。
 
 3人ともレベル5程度で、持っている武器とスキルが一致していない。

(こいつら初めて強盗をするルーキーだな。魔法で先制攻撃を掛ければ3対1でもなんとかなるだろう)

 盗賊はマントを着た俺をただの旅人だと勘違いしたようで、俺にはほとんど注意を払っていない。

 俺はフーゴの時間稼ぎの間にファイアボールの呪文を静かに唱え、真中の男に向かい、奇襲を掛ける。
 真中の男は火の球を顔面に受け、地面に転がり、のたうち回っている。
 他の2人は、突然魔法で攻撃を受けたので、訳がわからず棒立ちとなっている。

(こいつら本当にド素人だ。攻撃を受けたら何かリアクションしないといい的だろう)

 俺は折角敵がくれたチャンスを生かすため、更にもう一発ファイアボールを撃ち込む。
 二人目も斃れたのを見て、唯一無傷の男は怖気付いたのか蒼白な顔になり、急に逃げ腰になるが、こちらに攻撃を掛けようか、それとも味方を見捨てて逃げようか悩んでいるようで動きが止まっている。

 俺はここで逃がすつもりはないので、馬車の荷物に差しておいた剣を引き抜き、三人目に悠然と近寄っていく。

 レベル的には相手の方が上だが、完全にパニックに陥っており、近づいてくる俺に向かって闇雲に剣を振り回している。
 強盗の攻撃は避ける必要もないくらい無茶苦茶で少し距離を取って相手が疲れるのを待つ。パニックになっていた強盗も剣を振り回し疲れたようで振り回すのを止め、肩で息をしている。
 俺は冷静に相手を見ながら、愛剣を突き刺すように小さく振り、強盗の首に剣を打ち込む。
 頸動脈を断ち切ったのか、ホースから勢いよく水が飛び出す時のような音を立てながら、血が勢いよく吹きあがり、強盗は崩れるように倒れていく。

 荷馬車の横で見ているフーゴに声をかけ、

「フーゴさん。まだ生きている奴もいるけど、どうしたらいいと思う?」

「タイガさん、ギルさんが言っていたけど本当に強いんだね。ああ、強盗は縛り首だから態々助ける必要は無いと思うよ」

 人の良さそうなフーゴだが、やはり強盗に対しては思うところがあるようで意外と冷静に止めを刺すことを提案してくる。

(フーゴが冷たいんじゃなく、この世界ではこうするのが一般的なのかな?確実に処刑されるのが判っているのなら、途中で逆襲されるリスクを減らす意味でも殺しておく方が合理的だよな)

 フードの提案通り、生き残りに止めを刺すため、魔法で倒した強盗を見ていく。まだ息があるので、剣で止めを刺していく。
 すべての強盗に止めを刺し終わったところで、初めて人を殺したことに気付く。

 生命の危険を強く感じたわけではない。

 強烈な憎しみもなかった。

 突き動かされるような殺意もなかった。

 それなのに人を殺めてしまった。

 本当に人の命を奪っても良かったのかと自分に問いかけてみるが、精神耐性のおかげなのか、かなり冷静に考えることができる。
 所詮強盗。
 生かして連れて行くにしても逆襲の機会を与えることになる。
 役人に突き出しても強盗は即処刑されることが多いという。
 それならここで殺しておいた方が、よっぽど手間が省ける。
 合理的な判断として強盗を殺しておくことが正しいと結論付けた。

 人権を学んだ日本人としては、強盗を人間として見られなくなっていることに若干寂しさを感じるものの、それ以上の感情は湧き上がってこない。
 これも精神耐性スキルのおかげなのだろうか。
 人間としてこれでいいのかと思わないでもないが、強盗を助けて、自分や自分が守りたい人間が殺されるのは本末転倒だという思いしか浮かばない。
 これ以上考えても仕方が無いと割り切り、このループする思考を強引に打ち切る。

 改めて強盗たちの死体を見ると、一部が焼け爛れ苦悶の表情を浮かべた顔、血塗れの防具や服。スプラッター映画のワンシーンを見ているようだが、昔の俺は映画でも目を背けていたはずだ。今は自分が同じことをしても特に感慨も無く冷静に血塗れの死体を見つめられている。
 もし、精神耐性のスキルを持っていなかったら、こっちがパニックになって逆に殺されていたかもしれない。

 死体について、フーゴにどうしたらいいか聞くと、このまま放っておくと魔物のえさになるので、マイヤー村まで運んだ方がいいと言われた。
 俺は強盗たちの装備を外し、懐の持物をすべて回収したあと、荷馬車の後ろに載せた。
 さすがに荷馬車に血が付くと悪いと思ったので頭側を外に出すようにして積み込むことにした。

 再出発して30分、無事マイヤー村に到着。
 フーゴがマイヤー村の顔役のところに話をつけに行ってくるそうなので、荷馬車で待っている。

 10分くらい経ったころ、フーゴと40前の男と共に小走りでやってきた。

 フーゴと共に来た男が、「強盗の死体を見せてくれ」と言ってきたので、荷馬車から降ろしておいた死体を見せる。
 その男は苦い顔をしながら、

「やっぱりか。こいつらはうちの村のゴロツキどもだ」

 話を聞くと、ゴスラーにでも行って冒険者にでもなれと2日前に村から追い出したが、ゴスラーには行かず、村の近くで強盗を働いて糊口を凌ごうとしたようだ。

 俺はその話しを聞き、死体の処理と村としての責任について交渉する。

「で、こいつらの死体をどうする。あと、殺されそうになった俺達への賠償は?」

 男は即断できないのか、少し決まり悪そうな感じで、

「詳しい話は明日の朝まで待ってくれ。とりあえず、こいつらの持ち物はすべてあんたたちのものだ。当然、死体はこっちで処分する」

 俺もフーゴも依存はなかったので、共に頷くと

「フーゴ、済まなかった。今からでも商売はできるか?」

「こっちは、そこのタイガさんに守ってもらっただけだから、いつも通り商売をさせてもらうよ。」

 フーゴは手馴れたもので、村の中央にある広場で商売を始める。
 村人が家から続々と出てきて、フーゴと交渉を始めている。さすがに行商人は逞しい。

 商売を見ていても仕方がないので、広場の端の方で強盗たちの装備品を検めることにした。
 ロングソード1本、ツーハンドソード1本、ハンドアックス1本、ダガー2本、スローイングナイフ3本、ハードレザーアーマー1式、レザーアーマー1式、レザーガントレット1式、バックパック3個、ロープ、火打石、松明その他もろもろ。
 ハードレザーアーマーはかなり状態がよく、俺の体に合いそうだ。
 ツーハンドソードも今のものよりかなり大きいものの質はよく、特に損傷もないのでこれも貰っておこう。
 ロングソードは曲がっているし、ダガーも錆びているなど、状態のいいものは少ない。スローイングナイフは革のベルトとセットなので一応貰っておく。
 その他の装備で使えそうなものだけ手元においておき、後はこの村か、ゴスラーで売ってしまうつもりだ。

 仕分けも終わり、フーゴに売り払う予定の装備類について相談する。
 フーゴは助けてもらったお礼に無料で仲介をしてくれるそうで、村人とどんどん交渉していってくれた。
 さすがに武器と防具は売れなかったが、その他の道具類はほとんど売れた。
 売上は銀貨20枚分ちょっと。これで現金が銀貨80枚分くらいになったので、10日は楽に、無理をすれば15日は食っていける。
 まだ武器と防具があるので、もう少し楽になるだろう。

 フーゴの商売も終わり、村の居酒屋兼宿屋に向かう。
 ベッカルト村は小さすぎてこういった宿はなかったが、大抵の村には居酒屋と宿屋が一緒になったところがあるそうだ。
 1泊夕食付で銀貨5枚とかなりリーズナブルだが、今回はフーゴが出してくれるため、出費はない。
 酒も銅貨2~3枚で出されるようだが、知らない土地で酔っ払うのは危険なので止めておいた。
 今日殺した強盗の縁者が夜中に襲ってこないとも限らない。寝ずの番をする気はないが、酔って動けなかったでは話にならない。

 今日は慣れない馬車の旅だったので夕食を取ったらすぐに部屋に戻り、早めに寝ることにする。
 部屋は狭いが思っていたよりきれいでちゃんとした寝台も備えてあった。
 こっちの世界に来ていつも藁の上で寝ていたので10数日振りのベッドだ。疲れが出たのか、部屋に戻り体を拭いたところですぐに眠りに落ちていった。

 翌朝、フーゴと朝食を取っていると、昨日の男がやってきた。
 この男はこの村の村長の息子だそうで、フーゴに言わせると実質的な村長だそうだ。
 ゴロツキ達の親族と話を着けてきたとのことで、現金は銀貨50枚分、その他に麦や豆など数袋を用意したので、それで勘弁してほしいとのことだ。
 フーゴに聞いたところ、役人に盗賊を突き出すと、盗賊が処刑されるだけでなく、盗賊の親族にも罰金が科せられることもあるそうで、その金額もかなり高いとのこと。これで、こちらが納得すれば向こうにもメリットがあるとのことだった。

 フーゴにどうするか聞くと、今後の商売のこともあるので、俺がよければこれで手を打ってほしいとのことだ。
 俺も異存はなかったので村長の息子にこれで手を打つと伝える。
 朝食を食べ終わった頃、現金と食料の入った大きめの袋が届けられる。俺はフーゴと山分けしようとしたが、

「僕は助けてもらっただけで、何もしていないから、タイガさんが全部受け取ってくれよ。それに普通護衛が全部受け取るものだよ。食料が邪魔なら、買い取らせてもらうけど」

とフーゴは受け取らないので、100kg以上ある食料を銀貨20枚で買い取ってもらい、合計銀貨70枚が俺のものになった。

 銀貨で150枚もあるとかなりの重量なので、フーゴに両替してもらう。フーゴも小銭の方がいいそうなので、半金貨2枚と銀貨100枚を交換する。


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。