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第2章ゴスラー編です。
この章で、主人公がようやく冒険者になります。

誤字、矛盾点を修正しました。
第2章.ゴスラー編
第2章.ゴスラー編:第1話「ゴスラーへの道」
 ベッカルト村を出発してすぐに行商人のフーゴは俺に話しかけてきた。
 少し湿っぽくなっていたので気を使ってくれたようだ。

 フーゴは今年35歳、家族は妻と子供が3人、ゴスラーの町に家を持っている。
 行商をやっているため、月の半分は家を空けることになるが、もう15年以上、行商を続けているそうだ。

 ゴスラーから近隣の村を10ヶ所くらい回って商売をしているため、この辺りの情報に詳しい。ベッカルト村のような辺鄙なところでは商品とともに噂などの情報も運んでいる大事な存在なようだ。

 最初のうち、1回り以上も年上のフーゴに対して敬語を使っていたが、フーゴから

「タイガさん。俺みたいな行商人にまで敬語を使ってくれるのはうれしいんだけど、冒険者になるならあまりへりくだったしゃべり方をしない方がいいよ」

 疑問に思った俺は、

「どうしてですか?冒険者は実力が大事で、態度は関係ないと思うんですが」

「う~ん。なんて言ったらいいんだろうね。冒険者っていうのは一番下のランクの連中でも、のし上がってやろうっていう気概の人が多いんだよね。その中で今みたいな話し方をしていると侮られるというか軽く見られるというか、あまりいいことはないと思うんだよ。イメージみたいなものが大事ってわかるかな」

 俺は未だ納得できず、

「そうすると冒険者は偉そうにしている奴が多いから、負けないように肩肘張っていろってことですか?」

 フーゴは俺が少し理解できてきたと思い、更に補足する。

「それに冒険者になるような連中は、貧しい村か貧民窟スラムのような下層階級地区の出身者が多くてね、上層階級に反発している人が多いんだ。だから、丁寧に話す人を見ると上層階級の人間に見えて、嫌がらせを受けるかもしれないよ。無理にとは言わないけど少し練習しておいた方がいいよ」

 フーゴのアドバイスを聞き少し考えさせられた。
 確かに腕一本で生きていく冒険者はしゃべり方やイメージより実力の方が遥かに大事だ。だが、知り合いもいないこの世界で冒険者という職業を選択するなら、冒険者に溶け込みやすいように自分を変える必要がある。
 うまく言えないがイメージ戦略の一環と思えばいいだろう。後はTPOを考えればいいだけだからフーゴのアドバイスを実行することにした。

 フーゴとそんな話をしながら荷馬車は進んでいく。
 ベッカルト村からマイヤー村はおおよそ12マイル=20km弱。道が悪いのと一頭立ての馬車なので時速2マイル=約3kmが限界だそうだ。それも1時間に1回くらいは休憩を入れるため、8時間は掛かるそうだ。

 最初は、こっちは乗っているだけだから、楽なものと思っていたら、とんでもなかった。

 まず、道がひどい。
 村の近くはまだマシだが、森の中に入ると、舗装していないから石や木の根などがそこら中にあり、乗り上げるたびにガタンガタンと揺れる。馬車の車軸が折れないのが不思議なくらいだ。
 馬車にはサスペンションや空気入りのゴムタイヤなんて親切なものはないから、路面の荒れがそのまま振動になって乗っている人間に襲ってくる。
 座面にマントや予備の服などを敷いたが、ほとんど焼け石に水。
 1時間に1回休憩を入れるのは馬のためより、人のためじゃないかとさえ思えてしまった。

 最初の方の休憩ではほとんどしゃべる元気もなかったが、後半は多少慣れてきたので世間話をすることもできた。

 ゴスラーの町の話や近辺の治安状況などとても役に立ちそうな情報だ。
 王国の南部は、所謂”ド田舎”だそうで、農業以外に大した産業がない。
 小さな村が点在するが、大したものが取引されるわけではないので、ここで襲ってくるような暇な盗賊は少ない。その代わり討伐する守備隊の規模が小さいため、魔物が多く住んでいる。
 このため、通常の旅人は野宿せず、日があるうちに次の村に到着できるよう計画するそうだ。
 この辺りの街道で一番危険な魔物は赤熊レッドベアで10フィート=3m近い体躯と鋭い爪を持っており、守備隊でも10人がかりでようやく倒せるかどうかだそうだ。
 しかし、最近は定期的な討伐のおかげで、野犬程度しか出てこない。魔物に荷馬車が襲われて行商人が死亡することはほとんど無くなったそうだ。

 今回も途中で休憩中に狼っぽいものが襲ってきたが、ファイアボール一発で退散していった。ファイアボールを見たフーゴはしきりに感心し、剣と魔法を使える魔法剣士に初めて会ったとはしゃいでいた。

 俺はフーゴの態度に危惧を覚え、

「フーゴさん、済まないが当分俺が魔法を使えるって話は伏せておいてくれないかな」

「どうしてだい?ゴスラーに行っても魔法が使えると仕事には困らないよ」

 フーゴは不思議そうに俺に聞き返す。

「俺が記憶を失くしている話をしただろう。今の俺は誰が言っていることが正しくて誰がだましてくるのか判らない。ゴスラーには魔法を使える冒険者がほとんどいないって聞いた。魔法が使えるっていう話が広まると俺をだまそうとするやつが出てくるかもしれない。だから、当分目立ちたくないんだ」

 フーゴも俺の説明に納得したが、なにか引っ掛かることがあるようで、

「そういうことか。わかったよ。黙っておく。しかし、タイガさんは魔法を使うときに鉄の剣を持ったまま使うんだね」

 俺はフーゴが言っている意味が判らない。

「どういうこと?」

 魔法を使っている俺が聞き返してきたことに逆に疑問に思ったのか、フーゴは少し不思議そうな顔をしている。

「いや、昔聞いた話だと魔法使い、魔術師っていうのかな、魔術師は魔法の効果が下がるから、ミスリルみたいな特殊な金属以外、できるだけ金属製の物を持たないって聞いたんでね。まあ、俺の聞き間違いかもしれないけど」

(どこかで魔法について教えてもらわないといけないな。ゴスラーは期待出来そうにないし...)

 その後もゴスラーの街の話や近隣の村の話を話しながら、馬車を進めていく。


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