第1章.ベッカルト村編
第1章.ベッカルト村編:第12話「ゴブリン殲滅」
準備が終わったのは翌日の昼過ぎ。
俺はゴブリンをおびき寄せるため、生の肉を持ち、森に入っていく。
森の中を2時間近く歩くと森の奥からゴブリンらしき鳴き声というか叫び声が聞こえてくる。
どうやら、こちらに向かっているようだ。
持っていた生肉を投げ捨て、30mくらい離れた大木の陰に隠れてゴブリンたちが近寄ってくるのを待つ。
数分後、5匹のゴブリンが生肉を見つけ、奪い合うようにして貪り始める。
他のゴブリンたちは気配を感じるが、まだ見えるところには来ていない。
俺はできるだけ気付かれないように静かに呪文を唱え、ファイアボールを一匹のゴブリンの頭に撃ち込みすぐに身を隠す。
前回の野犬への攻撃でファイアボールはオーバーキルだったので、出力を落としている。
何度か実験した結果、通常の魔力消費量を100%のダメージとした時、半分の魔力でも70%くらいの威力があることが判った。更に魔力を落とすと発動までの時間も短縮できることも判ってきた。
威力を落としたとはいえ、ファイアボールが命中したゴブリンは一気に火達磨になり、地面を転げまわっている。
どうやら、この出力でも一撃で倒せるようだ。
他の4匹は何が起こっているのか理解できていないようで不安そうにキョロキョロと回りを見回している。
風が弱いためか、まだ俺には気付いていない。
俺はもう一度ファイアボールを撃つチャンスがあると判断し、再度呪文を唱え、更にもう一匹が火達磨となる。だが、この一撃で俺の存在は見つかってしまった。
俺に気付いた3匹のゴブリンは俺に向かって一直線に突っ込んでくる。
俺は作戦通り、村の方に向かって走り出す。
ゴブリン3匹が叫びながら、短い足で俺を追ってくる。
ゴブリンと俺では歩幅が違うので、5分もするとかなり引き離すことができる。
ここで完全に引き離しては囮の意味がないので、一旦、立ち止まり、すぐに剣が使えるよう地面に突き刺しておき、再度ファイアボールを撃つ準備をする。
魔力切れにならないで撃てる最後の一発だ。
ゴブリン3匹は縦に並んで突っ込んでくる。
先頭の1匹に向かい、ファイアボールを放つ。
先頭のゴブリンはなんとか回避できたが、後ろの1匹に命中、最後尾の1匹を巻き込んで転倒している。
先頭のゴブリンは後ろにはかまわず、俺の方に突っ込んでくる。
俺は剣を構え、突っ込んでくるゴブリンを迎撃する。
今までホーンラビットや野犬が突っ込んできたことはあったが、人間型を相手にするのは初めてだ。
冷静に見れば人間とはずいぶん違うのだが、人間を殺すような気になってしまい、わずかだが躊躇いを感じてしまった。
この僅かな隙にゴブリンは持っている棍棒で俺に先制攻撃を掛けてきた。
俺は躊躇した自分に怒りを感じながら、ゴブリンの一撃を回避する。
隙を突かれていたため、ゴブリンの棍棒が俺の左肩に命中。革鎧を着ていたおかげで骨折等の致命的なダメージは受けなかったが、かなりのダメージを食らってしまった。
ゴブリンはにやりと笑いながら、再度俺に向かってくる。
俺も剣を構え、ゴブリンに突っ込んでいくが、慎重にゴブリンとの間合いを測っている。
リーチの差を生かし、突き刺すように剣を繰り出すとゴブリンの腹に剣が突き刺さる。
ゴブリンも攻撃動作に入っていたため、棍棒を振りかざしていたが、攻撃を受けたためか勢いがなく、この一撃は容易に回避できた。
腹に突き刺さった剣を強引に引抜き、首に向かって振り下ろす。
ゴブリンの首から赤黒い血が吹出しゴブリンは仰向けに倒れる。
ゴブリンとの接近戦で体力を使い、肩で荒い息をしているところにさっきの最後尾にいたゴブリンが立ち上がり始めている。
目の前のこの1匹をどうするか。
俺は一瞬で考えをまとめ、後続との距離はまだあると判断し、こいつを倒すことに決めた。
時間は1~2分。
ゴブリンは同族との連携を考えないのか、棍棒を構え、突っ込んでくる。
ここで気付いたのは、ゴブリンは完全に猪武者だということだ。
頭に血が上ると、どのゴブリンも持っている棍棒を上段に振りかざして、突っ込んでくる。
俺は冷静にゴブリンとの距離を測り、先ほどと同じように剣による突きのタイミングを待つ。
1秒1秒が長く感じられる中、突きを放ち、ゴブリンの首に剣を突き立てる。
ゴブリンの首から血が盛大に吹出す。
ゴブリンの血が俺に掛かるが、構ってはいられない。
後続のゴブリンはおよそ10匹。さっきの肉を食べているのか数が少ない。
どちらにしても10匹の相手はできないので、当初の計画通り、村に誘い出すため、俺は走り出した。
30分ほどゴブリンたちの速度に合せて走っていく。時々休憩し、体力を回復させているがかなり疲労が溜まっている。
更に日が落ち始め、深い森はかなり薄暗くなってきている。
ゴブリンを待つため、立ち止まっていると、突然横から1匹のゴブリンが襲い掛かってきた。
どうも回り込まれたようだ。
ゴブリンは猪武者だと侮り、後ろしか警戒していなかった。
回避が間に合わず脇腹に棍棒の一撃を受けるが、ゴブリンも勢いが付き過ぎ転倒している。無防備な背中が見えるが、他に回り込んでいるゴブリンがいないとも限らないので、無視して村の方に走り出す。
ゴブリンの集団は計画通りに俺の後ろ50mくらいのところを固まって追いかけてきている。
ようやく、村まで100mくらいのところまで来た。
辺りはすでに闇に包まれ、村の明かりがよく見える。
もう一度後ろを見て、鑑定を使って確認すると、12,3匹のゴブリンが俺の20mくらい後ろにいることがわかる。
向こうは俺が見えるのか、真直ぐ全速で走ってくる。
囮作戦はここまではうまくいっている。
後は俺が自分たちの罠に掛からないよう注意しながら、ゴブリンを罠に誘導するだけだ。
俺は最後の100mを走り、目印の松明の横を走り抜ける。
ギルたちも既にゴブリンに気付いており、物影に隠れて罠にはまるのを待っている。
俺は目で成功だと合図をした。
その直後、疲労のため足がもつれ転倒してしまう。
転倒し立ち上がれない俺を見たゴブリンたちは更に叫び声を上げながら突っ込んでくる。
一瞬の間があり、ゴブリンたちは次々と罠に掛かっていく。
それを見たギルたちが満を持して攻撃を開始する。
俺の目の前には運良く罠に掛からなかったゴブリンがたどり着いたが、ギルの放った矢が胸に突き刺さり、その後のトニーの斧の一撃で瞬時に殺される。
他のゴブリンたちは罠で何らかのダメージを受けているようで明らかに勢いがない。
村の男たちが次々と武器を持って現れ、ゴブリンたちを屠っていく。
俺も立ち上がり、生き残りのゴブリンの止めを刺していく。鑑定で確認すると既に生きているゴブリンはいない。
「ギル、みんな。ここにいたゴブリンは全部殺した。ケガをしたやつはいないか。それとゴブリンの死体は集めておいてくれ」
と村の男たちに指示を出す。
ギルが近寄ってきて、
「タイガ。よくやってくれた。けが人は3人だ。腕を折ったのが一人と頭から血を出しているのが2人だ。治療できるようなら頼みたい」
「けが人のところに連れて行ってくれ。あと、この臭いゴブリンの血を何とかしたい」
「わかった。村長の家に行ってくれ。そこにけが人がいる。俺は討ち漏らしたゴブリンが襲ってこないか警戒しておく」
村長の家に行き、けが人の状態を見る。骨折していた人も薬師のヤネットの治療で添え木が当てられており、それほど酷くなさそうだ。
頭を殴られた二人も骨にはダメージがなく、切り傷だけのようだ。俺の魔力も限界に近いので3人に簡単に治癒魔法を掛け、応急処置をしておく。明日魔力が復活したら、本格的に直すつもりだ。
魔力がほとんどなくなり、立っていられないので、皮鎧と服を脱ぎ、村の女たちに体を拭いてもらった。
ギルが村長に報告に来た。
「ゴブリンは14匹倒した。今のところ近くに潜んでいる風でもなさそうだ」
と報告。俺は自分が倒した分を言っていなかったことに気付き、
「ここで倒した分以外に俺が5匹森の中で倒している。ギルと最初に見たとき20匹くらいだったから、ほぼ全滅と考えていいんじゃないか」
村長の家の中に女たちから喚声が上がる。
俺は戦闘と1時間くらいの追いかけっこのせいで疲れきっていたので、知らない間に眠り込んでいた。
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