第1章.ベッカルト村編
第1章.ベッカルト村編:第11話「対ゴブリン作戦」
比較的落ち着いた日々が5日ほど続いた。
毎日、ギルの手伝いをして食い扶持を稼ぎ、余った時間で剣の訓練をする。
両手剣のスキルがあるため、比較的スムーズに素振りができる。
最近、このツーハンドソードにも慣れ、ある程度使えるようになってきているが、やはり必要STRに足りていないため、少し大振りをすると大きくバランスを崩してしまうことがある。
戦闘中に起こると大変なことになるので、大振りには注意しないといけない。
村の人の依頼で治療も時々行う。治療のお礼として、必要な装備品を揃えていく。
皮製のバックパック、木製の水筒、皮製のつばのある帽子、小さな巾着を入手できた。
後は現金があれば、ほぼ準備が完了するが、現金収入を得るのは居候のみでは難しい。
ぼちぼち治療でお金を取ろうかと考えている。
この世界に来て10日目、いつものようにギルと南の森に狩りに出かける。
俺にわかるほど、森の様子がおかしい。
ざわついているというかいつもの静かな森とは様子が違う。ギルに聞いてみると、ギルもこんなことは初めてだということで、首を傾げている。
疑問に思いながらも森の奥に進んでいくと、森がざわめいていた原因がわかった。
深い緑色の肌をした矮躯の魔物、ゴブリンがいた。
俺たちはとっさに身を隠し、様子を窺う。ゴブリンは20匹くらいの群れを成しており、何かの肉を食べている。森の奥の方から出てきたようだ。
俺はゴブリンを鑑定してみる。
ゴブリン:
小型の緑色の肌の小鬼。簡単な武器を使用できる。繁殖力が強い。
HP200,AR5,SR0,DR0,防御力10,獲得経験値10
片手棍棒(スキルレベル5,AR30,SR20),アーマーなし
ギルに目で「どうする」と尋ねると、顎をしゃくり村へ戻るようなジェスチャーをする。
物音を立てないようにゆっくりと遠ざかり、急いで村に戻る。
戻る途中でギルにゴブリンについて聞いてみる。
「ギル、なんで、ゴブリンなんかがいるんだ。よくあることか?」
ギルもよく判らないらしく、
「群れを成しているゴブリンがこの森に来たのは始めてみた。森の奥でゴブリンが増えすぎると、群れを分けることがあると聞いたことがある。数十年に一回くらいこんなことがあると師匠が言っていたような気がする」
理由はともかく何か方策があるのか、ギルの考えを聞いてみる。
「で、どうするんだ」
ギルもこれと言った方策があるわけではなく、渋い顔をしている。
「村長に相談するが、正直俺たちの村の自警団だけでは荷が重い。今から町に連絡に行っても、援軍は早くて5日。援軍をあきらめて、腹を括って戦うしかないと思う」
ゴブリンはそれほど強い魔物ではないが、20匹と数が多く、棍棒などの武器も使う。普通の村人なら、一対一ではちょっと厳しい相手だ。
ベッカルト村でゴブリンに十分対抗できるのはギルを含め、樵のトニーら5人。
男衆を集めれば20人近くになるが、夜目が利くゴブリンに夜襲を掛けられるとかなりの損害を覚悟しなければならない。
村長の家で男衆が集まり、緊急の会合が開かれる。
ギルがゴブリンのいた位置、数などを報告。
鼻がいいゴブリンなら早ければ明日の夜にでもこの村を見つけ、襲ってくるだろう。
今からでは、柵などの防御施設はとても間に合わない。
村長をはじめ、なかなかいい策が思いつかない。ハンターであるギルがこういったことにもっとも適しているが、そのギルも何も思いつかないようだ。
俺は恐る恐る手を上げ、提案をしてみる。
「ここで話していても時間だけが過ぎていくだけだ。そこで俺に考えがあるが、聞いてくれるか」
村長は決断するためにどんな案でも聞きたいようだ。
「治癒師殿になにかいい案があるのか。何でもいい、考えを聞かせてくれんか」
村長が先を促す。
俺はゆっくりとしたしゃべり方で今の状況を全員に理解させる。
「まず、この人数では夜襲に対応しようとしたら、村のあちこちに戦力が分散する。しかも守るべき村から打って出るわけにもいかない。ここまではいいか」
全員に現状を認識させるため、一度話を切る。
「そこで、ゴブリンどもを俺たちの都合のいい方向から攻めさせる。ゴブリンどもも都合よくは動いてくれないだろうから、誰かが囮になり、こちらが待ち受けているところに引っ張ってくる」
ギル以外の男たちは言っている意味を計りかねているのか、先を促すようにこちらを見る。ギルは囮という言葉である程度作戦を理解したようだ。
「そして、待ち受けているところに落とし穴なんかの罠を仕掛けておけば、更にこっちには有利だろう。こうすれば、場所と時間をこっちがコントロールできるから、闇雲に戦うより有利に戦えると思う」
「タイガのいうことはわかるが、誰が囮になるんだ。一つ間違えれば、ゴブリンに袋叩きにされて殺されるぞ」
男の一人が囮の危険性を指摘する。
すぐにギルが立ち上がり、
「森に一番詳しい俺がやる」
ギルの申し出は想定していた。しかし、ギルの弓の腕は待ち伏せにこそ必要だ。
俺はギルの言葉を遮るように
「ギルはダメだ。罠を作るのにもギルが必要だし、おびき寄せたゴブリンに弓で攻撃を掛けてもらった方が効率が良く倒せる」
俺はギルの案を却下し、俺自身が囮になることを提案する。
「俺が囮になる。ここ数日森に入っているから、ある程度土地勘はできた。接近戦もできるし、魔法で威嚇することもできる。第一、俺には家族が居ないから、後に残すものの心配がない」
ギルはまだ納得できていないようで、「しかし...」と話し出すが、それを更に俺は遮り、村長に決断を促す。
「議論している暇はない。すぐにでも準備を始めるべきだ。村長さん、決断してくれ」
「わかった。治癒師殿、すまんが囮を頼む。ギル、罠の設置と準備の指揮を頼むぞ。皆の衆、一旦家に戻り、準備をしてから、うちの前に集まってくれ」
男衆は準備のため、それぞれ立ち上がり、村長の家を後にする。
俺とギル、村長が後に残る。
ギルは苦虫を噛み潰したような顔をしているが、罠を掛ける場所について村長と相談している。
立てた作戦は、大雑把なものだが、何もせずに待ち受けるより、準備で動いている方が気が楽なのか、男たちの動きは悪くない。
作戦は、
森に一番近い村の南側を防御地点に決め、森に入るための道にゴブリンを誘導する。
村に入ったところに落とし穴などの罠を仕掛ける。
というものだ。
俺は更にロープを張っておき、倒れるところに木の棒を尖らせたもの埋めておくことを提案する。
俺が通る場所については、俺が罠に引っかからないよう、かがり火を目印にしておく。
翌日の昼頃には不完全ながらも罠の設置が完了する。
年寄り、女子供は、村長の家に避難し、男衆もそれぞれ武器を手にいつでも戦えるよう準備を行っている。
これでやれることはすべてやった。後は俺がうまくゴブリンを誘導できるかだ。
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