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改稿しました。
第1章.ベッカルト村編
第1章.ベッカルト村編:第6話「治癒師」

 村に帰ってみると、なぜか村全体がざわついている気がした。
 ギルも感じているようで、少し心配そうな顔をしている。
 家に戻ると、ギルの奥さんのリサがその原因を教えてくれた。

「トニーのところのベルティが倒れてきた木に挟まれて腕の骨を折ったそうよ。かなり酷いケガみたい」

 この世界の医療技術レベルがどの程度か知らないが、日本なら即、救急車で搬送されるレベルだろうと思い、ギルに尋ねてみた。

「ギル。この村に治癒師っているのか」

「タイガ。治癒師はこんな小さな村には普通いないよ。ここには薬師のばあさんしかいないんだ」

 俺は咄嗟に治癒魔法のことを思い出し、ギルに話を振ってみた。

「ギル。俺をそのトニーとか言う人の家に案内してくれないか。たぶん少しは役に立つと思う」

 ギルも俺が治癒魔法を使えることを知っていたが、使ったことが無いという俺の言葉で少し遠慮していたようだ。
 すぐに案内してくれるとの事で、ギルと2人でトニーの家に向かう。

 ギルの話ではトニーは樵でベルティはトニーの長男で13歳。父の手伝いを良くしているそうで、樵の仕事をしている時に事故にあったのではないかということだ。

 5分ほどで、トニーの家に到着する。

 ベルティは頭に大きな裂傷があり、右腕は二の腕を添え木で固定している。良く見ると右腕はまっすぐになっておらず、明らかに問題がある。
 薬師の老婆が治療しているが、これが限界のようだ。
 ギルがトニーに俺のことを説明しているが、それに構わず、

「すまない。俺に診させてくれ」

といって、ベルティに近づく。

 薬師とトニーはよそ者ということで警戒するが、ギルの説明を受けて脇に避けてくれた。
 俺は鑑定を使いベルティの状態を見てみる。

 ”右上腕部複雑骨折。HP回復後、STR,DEXマイナス補正30%”と出ている。

 このままでは後遺症が出るようだ。トニーに治療の許可を確認する。

「このままではベルティの腕がまともに使えなくなる。トニーさんだっけ。報酬は要らないし失敗しても責任は取れないが、治療してもいいか」

 憔悴した顔のトニーは藁にもすがる気持ちなのだろう、すぐに承諾してきた。

「あんたが何者か知らないが、ギルが信用してみろっていうから信用する。どうみたってこのままではベルの腕は直らねぇ。あんたに任すよ」

「わかった。全力でやってみる。ギル、トニーさん手伝ってくれ」

 ギルとトニーに治療の手順を説明し、手伝ってもらう。

「治療の手順なんだが、まず添え木の包帯を一旦緩める。それからどちらか片方が体を押さえ、もう片方が腕を引っ張り真直ぐにする。その間に俺が治癒魔法を掛ける。うまく行けばそれで腕は真直ぐになるはずだ。ベルティが痛がると思うが、力一杯やってくれ。ベルティ。死ぬほど痛いがすぐに終わる我慢してくれ」

 ベルティは痛みでほとんど聞こえていないが、ギルとトニーは頷く。
 準備完了と判断し、添え木の包帯を緩め、二人に合図をしてベルティの腕を引っ張って伸ばす。
 ベルティは大声で悲鳴をあげるが、俺は悲鳴を無視してベルティの腕に右手をかざし、治癒魔法の呪文を唱え始める。
 一度も使ったことはないが、なぜか頭の中に呪文が浮かんでくる。

「かの者の体内に宿りし魔力よ。治癒の力となり受けし傷を癒せ」

 かざした俺の右手から光が出て行き、ベルティの腕に吸い込まれていく。
 ベルティの表情は少し楽になったようで、ギルとトニーに力を緩めるように指示する。
 すぐに添え木を付け直して固定。鑑定で確認すると複雑骨折の表示はなくなり、”右腕上腕部不完全骨折”となっている。

(不完全骨折?ひびのことか)

 とりあえず頭の裂傷にも治癒を掛けておき、腕の方にもう一度治癒を掛けてみたが、治癒が発動しない。
 俺のMPはまだ十分あるのにと思っていたら、ベルティのMPがゼロになってベルティは気絶している。
 呪文にもあったように被治療者の魔力を治癒力に変えているようでこれ以上は無理のようだ。
 周りを見ると声が出ない状態で固まっている。

「トニーさん。ベルティの腕はとりあえず治りそうだよ。まだ完全に骨が付いていないので添え木はしたままで」

 不安そうなトニーを見て、

「今は魔力切れで気絶しているけど、そのうち起きると思うよ。頭のケガは治しておいたから包帯は外しても問題ないと思う」

と安心させるように付け加えておく。

「明日の朝、もう一度治癒を掛けたら完全に直るはず。また明日来るのでそれまでは絶対無理させないように。それじゃ、ギル、帰ろうか」

といって家を出ようとした時、トニーが泣きながら俺の手を取って

「本当に助かった!俺が見てもベルの腕はもうだめだと思っていた。俺の不注意でケガをさせちまったから、ベルが不憫で仕方なかったんだ。ありがとう!できる限りの礼をさせてくれ!」

 俺としては初めて使った治癒魔法だったので、実験台というか賭けみたいで礼をされるのも気が引ける。

「俺は昨日ギルに助けられた。その礼を兼ねて村のために治療しただけだよ。気にしないでくれ。そう言えば名乗っていなかったな。俺の名はタイガだ」

 俺とギルはトニーの家を後にする。ギルから「本当に治癒魔法が使えたんだな」と言われ、

「俺も使えるとは思っていなかったよ。初めて使ったにしてはうまく行ったと思うよ」

 ギルは初めて使ったという俺の言葉を聞いて、

「本当に初めてなのか。それにしちゃ呪文もすらすら言えていたように見えたが」

「俺自身驚いているよ。これで少しはこの村にいさせてもらえるかな」

 ギルは笑いながら、

「当たり前だ。さっきも言ったが治癒師は貴重だ。逆にこの村から出ていかないでくれって言われるぞ」

「まあ、その時はその時だ。帰って仕事を済ましてしまおう」


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