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改稿しました。
第1章.ベッカルト村編
第1章.ベッカルト村編:第4話「転送の真実」
「・・我・・・認識しろ」

「うん?・・・ふにゃ?」

 話しかけられたような気がしたので回りを見てみると、どうやら白っぽい建物の中にいるようだ。
 だが、誰もいない。
 寝ぼけた頭でうまく考えられないので、もう一度寝ようとすると、再び声がした。

「いい加減、起きたらどうだ」

 男性の低く渋い声。それも超一級の声楽家のようなバスの響きで目を覚ます。

「うん?なんだぁ、もう朝かぁぁ」

「朝ではない。まだ、お前の夢の中だ」

(誰だ? 夢の中なら寝ててもいいじゃないか。眠いんだよ)

 理屈にもなっていないことを寝ぼけた頭で考えていると、

「我はお前をこの世界に召喚した存在だ。興味があったから来てみたが、どうも話をする雰囲気ではないな。それでは我も戻ることにしよう」

(なんか、聞き捨てならないことを言ったような...)

 少し頭が回転し始め、慌てて声の主に話し掛ける。

「ちょ、ちょっと待ってください。俺を召喚したって言いました?」

「ようやく、話をする気になったか。そうだ、我がお前を召喚した」

 死にかけた昨日の出来事を思い出し、少し切れ気味に叫ぶ。

「召喚ってどういうことだよ!勝手に人を呼び付けやがって、人権無視だろうが!こっちの都合も考えろよ!」

 声の主は俺の叫びに対し何も感じていないような口ぶりで、

「まあ、人権に関しては元々考慮する気はない。神と呼ばれる存在は古来人権など考慮した試しはないからな」

 あまりの反応の薄さに俺の方が毒気を抜かれてしまった。

(自称神様に思いっきり人権を無視するって宣言されてしまった)

 自称神は俺の感情など無視して話を続けていく。

「今回も特に魔王を倒してくれとか、世界を救ってくれなどという英雄譚に出てくる話ではない。単に我の暇つぶしに過ぎんのだから」

 あまりの言い草に再び切れてしまう。

(暇つぶしって、人の人生で遊ぶつもりか!)

「その通り。神にとって人の生は遊び、そなたの世界で言うゲームのようなものだ。お前の世界にも似たような神話があろう。神話の中には神が人を使って楽しんでいると思われる話はないか。お前の記憶を探ったが、おまえ自身も子供の頃、虫や小動物を飼ってその様子を見て楽しんだのではないか。下位の存在は、より上位の存在の戯れに付き合わされるものだ」

(こうもあっさり断定されてしまうと反論しにくい。俺としては納得できんが、不毛な弾劾をするより、情報収集の方が大事だ。しかし何で俺なんだ?)

「ほう。意外と冷静ではないか。おもしろい。先ほどの初期設定といい、中々見込みがある」

 こちらの思いとは全く関係なく話を進めていく自称神に対し、少し嫌味を入れる。

(お褒め頂き恐縮ですよ)

 自称神は俺の嫌味など全く意に介さず、勝手に話を進めていく。

「お前を選んだのは数十年ぶりにお前の世界と我の世界が繋がる穴ができたからだ。そこに偶然お前がいたからであって、決して優れた能力があるからというわけではない。よくある神隠しと思っておけばよい」

 腹が立ったり脱力したりと忙しいが、今の言葉にムッと来る。

(おれも自分のことを優秀だとは思っていないが、こうもあっさり優れていないといわれるとなんかムカつくな。うん?そう言えばさっきから思考を読まれているのか?)

「ようやく気付いたか。声に出さなくても聞こえておるぞ」

 思考を読まれているという事実から、相手が神であるという事実を認めることにした。
 もっと重要なことがあるとは思ったが、寝る前に思っていた疑問が自然と口から出て行く。

「あの初期設定ですが、もう少し何とかならないですか。取説かヘルプがないと望んだ能力が設定できないじゃないですか」

「そもそも「初期設定」などというのは、遊びで作ったものだ。いつも別の世界から連れてくる者には何らかの特典を与えてやるのだが、お前の記憶にある「RPG」というものに興味を持った。故に今回は趣向を変えてみた」

 神は更に話を続けていく。

「お前が気付かなければボーナスポイントは一日10ポイントずつ減っていき、5日後には完全になくなったはずだ。そして、特典なしのただの「迷い人」になるというのも楽しみの一つだったのだが、初日に気付くとはなかなか見込みがある」

 神の声に感情が感じられないと思っていたが、この話になると少し楽しそうに話しているように感じる。
 以前の話を聞いても仕方がないが、どうしても流れで聞きたくなった。

「ちなみに今までの召喚者の人たちはどんな特典を貰っていたんですか?ちょっと気になるので参考までに教えていただけませんか?」

「まあ、いろいろだ。聖剣を与えてみたり、強力な魔法使いにしてみたり、旅の仲間を用意したり、その時の気分次第だな」

(そんないい加減な)

 以前の人はどうやって言葉を覚えたのか気になり、更にどうでもいいことを聞いてしまう。

「ちなみに今までの人は最初からここの言葉をしゃべれるようにしてもらえていたんですか」

「それも気分次第だったな。若い女を召喚した時は敢えて言葉を教えなかった。強力な精霊を付けてやったが、なかなか大変そうだったな」

 何度目かの脱力感を感じ、ふと「ただの迷い人」になっていたらどうなっていたのか気になった。

「今回、初期設定に気付かなかったら、どうなっていたと思います?」

「本人の努力次第だろう。あまりそこで躓くようなら、この遊びを止めるだけのこと。我にとってはどちらでも構わなかった」

 予想通りだが、そのいい加減さにため息を吐いてしまう。
 気を取りなおし、今後のことを聞いてみる。

「はぁ。そんな無責任なぁ。それで神様的には俺にどうしてほしいんですか?」

「好きに生きればよい。別になにをしてほしいとも思わん。平凡に生きる人間と言うのもまた面白い」

 本当に昆虫の観察と同じだと思い、俺の人生は何なんだと力が抜けていく。
 初期設定の選択で問題がないか確認しようと思い、神に聞いてみる。

「そうですかぁ。なんか力が抜けました。こうなったらぶっちゃけで聞きますけど、俺の初期設定ってどう思います?」

「なかなか面白かったぞ。我の罠を尽く回避しておる」

「罠って何ですか?罠なんか仕掛けんなよ!」

 俺が思わず叫ぶと、神は少し楽しそうに罠について話し始めた。

「まあ、気にするな。罠はいくつか作っておいたのだが、例えば召喚能力があっただろう。あれで竜を召喚できるようになるにはレベル80以上が必要だ。この世界で英雄と呼ばれるものでもレベル70台だから、まあ死にスキルだな。他の召喚でもレベル30くらいになるまで使えないのから、使いづらいだろう。魔人化も選んでくれたら、悪魔としてどう過ごすか楽しめたんだが、あまりにも強くなりすぎたり、この世界に影響が出すぎたりしたら、我の手で処分する予定だったので、長くて数年の命だっただろう。そう言えば、復活で少し悩んでいたようだが、この世界で復活するのは、通常アンデッドのみだ。目の前で復活されたら間違いなく、アンデッドと認定されて攻撃対象になっただろうな。他にもあったが、聞きたいか」

 頭を抱えるように聞いていた俺は、再び叫んでしまう。

「もういいです!」

 神は俺の選択について講評し始める。

「お前の選んだスキルは、面白みは少ないが手堅い選択だ。我が考えた中では上の下くらいの選択だと思うぞ」

 俺は自分の選択が最善とは思っていないが、神の考える最上の選択に興味を持ち、また脱線してしまう。

「ちなみに上の上の選択ってどういう組み合わせなんでしょう?」

「今更知っても仕方がなかろう。お前の世界の言葉でいう”サービス”で一つだけ教えてやろう。「完全知識」と「才能」の組み合わせが最強だろう。完全魔法知識、属性魔法適正、属性魔法、成長速度上昇、知識系パラメータ上昇を組み合わせるとレベルアップ毎に無敵になっていく。レベル25で英雄クラスの魔法使いに相当、40以上になれば、都市を焼き尽くすほどの魔法が使える。5年もすれば無敵になっていたかもしれん。これはお前の世界で言う”チート”過ぎる能力なので、どこかで補正を入れたやもしれんがな。お前の選択もそこそこ“チート”だと思うぞ」

 少し褒められたような気がするが、素直に喜ぶこともできない。

「そうなんですか?そうは思えないんですが」

 神は突然話題を変え、俺自身どこかで言わなくてはと思っていても言い出せなかった、元の世界に帰れるかということについて、神の方から聞いてきた。

「ところで気になっておるのだが、お前は元の世界に帰りたくないのか。ここまで元の世界に帰せと言わなかった者は初めてだ」

「元の世界に帰ってもそれほど楽しかったわけでなかったですし、どうしても帰らなきゃいけない事情もないですから。初期設定が使えなかったら、切実に帰りたいと思ったかもしれませんが」

 本当にそう思っているのか自信はない。だが、どこかでもう帰れないんじゃないかということを本能的に感じていたのかもしれない。

「そうか、まあいい。どちらにしても元の世界に戻ることは諦めることだ。同じ世界・同じ時間ときに繋がるというのは確率的にはほぼ起こり得ない」

「そうですか。ではこの世界でがんばって生きていかなくてはいけないということですね」

「そうだ。もう一つ伝えておくことがある。お前はこの世界にとって異分子だ。この世界にいる限り、子孫を残すことはできない」

「子供を作れないってことですね。まあ、いいです。元の世界にいても結婚できたかどうかもわからないですし、特に子供好きってわけでもないですから。避妊しなくていい分、楽かもしれません」

 僅かな沈黙が流れ、この会話の終わりが近いことを悟った。

「そうか。それでは我は我の領域に戻ることにしよう。お前との話は面白かったぞ。”サービス”で少しだけ楽をさせてやろう。目覚めればここでの話はほとんど忘れるはずだが、どう生きるか楽しみしているぞ」

「サービスって、なんですか...」

 自称神がいなくなった瞬間、俺の意識は再び深い眠りの中に落ちていく。


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