生きられる社会へ:生活保護の今 「扶養義務」虐待、音信不通の親にも? 一律に押し付けおかしい
毎日新聞 2012年07月10日 東京朝刊
運転手だった父親はいつも酒を飲み、子どもがいる前で母親に性交を強いることもあった。女性が小学6年の時に父親が亡くなり、母親は遺族年金で暮らすようになったが、親らしいことをしてもらった覚えはない。18歳で施設を出る時、母親は女性の成長を喜ぶより、年金の加算が減ることを惜しんでいた。
親に巻き込まれず、自分を大切にしようと生きてきた。生活保護制度をめぐり、恵まれた家庭に育った政治家が家族の責任を強調する姿をテレビで見ると、嫌気がさす。
「親の扶養が重荷になって貧困の連鎖を断ち切れない人もいる。家庭環境に格差があっても、努力すればみんながフェアなスタートを切れる。そんな方向にこそ社会を進めてほしいのに」
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児童虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の相談件数が増え、離婚も珍しくなくなった。家族を巡る社会状況が大きく変わっている中で、家族による扶養義務を強化する動きは、逆に加速している。
お笑い芸人の母親の騒動を受け、小宮山洋子厚生労働相は5月、生活保護を申請した人の親族が「扶養できない」と回答した場合、その理由を証明するよう義務付ける考えを明らかにした。大阪市は今月から、全受給者に改めて親族の職業や年収を申告させている。親族に十分な資力があるとみなせば、改めて扶養を求めるためだ。
さらに厚労省は、今月5日の国家戦略会議に提出した「生活支援戦略」の中間まとめで、受給者を扶養できる親族に対し、必要に応じて保護費の返還を求めることなどを促す仕組みを検討する考えを明記した。
いずれも財政難のなか「給付の適正化」を目的とした対策だが、受給者とその家族への心理的な圧迫感を強めている。