生きられる社会へ:生活保護の今 「扶養義務」虐待、音信不通の親にも? 一律に押し付けおかしい
毎日新聞 2012年07月10日 東京朝刊
人気お笑い芸人の母親が生活保護を受けていたとして批判されたのを機に、政府は親族による扶養義務の強化を検討し始めた。だが、生活保護制度は命を守る「最後のとりで」として、家族の支援が得られないさまざまな事情も考慮して運用されてきた面もある。家族への「責任回帰」は、現代の家族関係にどんな影響を及ぼすのだろう。【稲田佳代】
◇家族への「責任回帰」に心理的圧迫
「母や兄にはお金のことで振り回されっぱなし。もう嫌です」。東京都内に住む女性(24)はため息をついた。
生後2カ月で、兄とともに児童養護施設へ預けられて育った。父親は知らない。
21歳の時、一度は会っておかないと一生後悔する気がして、母親と連絡を取った。「私のことを心配していてくれるかも」という淡い期待は、すぐに裏切られた。連絡先を交換すると、携帯電話に何度もメールが来た。「今いくら稼いでいるの」「家賃の督促状が来た。追い出されちゃう。お金貸して」
捨てられて憎いのに、心のどこかで母親とつながっていたい気持ちが消せない。だから、苦しい。嫌悪感と「自分が何とかしなきゃ」という気持ちの板挟みになった。施設で育った仲間に相談し、母親を着信拒否にしたが、しばらくうつ状態に陥った。
母だけではなく、ともに施設で育った兄にも悩まされている。他人の財布を盗んで逮捕され、被害者へ返すお金を女性が立て替えたこともあった。家族のお金の問題は、結婚を考えている男性の親との関係にも影を落としている。
「縁を切りたいけど、『家族だから養うべきだ』と言われたら、すごく悩む」
小学4年から児童養護施設で育った別の女性(28)も「一律に『養うべきだ』と押し付けるのはおかしい」と訴える。