社説:自民が補選勝利 「勢い」と勘違いするな

毎日新聞 2012年10月29日 02時31分

 次期衆院選の前哨戦として注目された衆院鹿児島3区補選は、自民党前職の宮路和明氏(公明党推薦)が国民新党の新人(民主党推薦)らを破って当選した。自民党はこの勝利により、29日から始まる臨時国会で早期の衆院解散・総選挙を一段と強く求めていくと思われる。

 だが、見逃してはならないのは、当初は宮路氏の圧勝と見られていたにもかかわらず、予想以上の接戦だったことだ。各種世論調査を見ても自民党が全国的に復調傾向にあるのは確かだが、それをもってして自民党への信頼が完全に回復したとはいえない。むしろ、民主党への失望感が日々、増幅しているという「敵失」による勝利といった方がいいのではないか。自民党はそれを勘違いしてはならない。

 「勘違い」の最たるものが、臨時国会冒頭で自民党など野党が何とも奇怪な対応をしようとしていることだ。野田佳彦首相の所信表明演説は与党が多数を占める衆院では29日に行う日程が決まったが、野党多数の参院では演説を拒否するというのである。先の通常国会終盤で、参院は首相に対する問責決議を可決したからというのがその理由だ。首相演説に対する本会議での代表質問もしないという。

 過去例のない異常な事態である。ただし、審議の全面拒否は国民からの批判が大きいことは自民党も分かっているのだろう。その後の予算委員会質疑には応じるというのだから、ますます分かりにくい。

 法的根拠のない問責決議を乱用すべきではないと私たちはかねて主張してきた。首相演説と代表質問拒否の前例ができれば参院不要論にもつながると、なぜ考えないのか。野党は直ちに方針を撤回すべきだ。

 今回の補選は野田政権発足後、初であり、自民党総裁に安倍晋三元首相が返り咲いてから初めての国政選挙だった。石原慎太郎東京都知事が新党結成を表明し、第三極の結集を呼びかけ始めた直後の投票ともなった。ここで自民党が過信して不毛な強硬路線に走るようでは、今後、民主でも自民でもない第三極に再び有権者の期待が高まる可能性がある。

 今年度の赤字国債発行に必要な特例公債法案がいまだに成立していない影響が地方自治体では既に出始めている。ところが自民、公明両党は年内解散を確約しないと成立させないとの立場を崩していない。この姿勢にも批判が強まろう。

 一方、民主党の「解散恐怖症」は収まる気配がない。しかし、もう腹をくくる時期だと改めて指摘しておく。衆院小選挙区の1票の格差是正のための立法措置など、これ以上の先送りは許されない。

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