聴覚障害者用字幕ガイドライン
字幕制作に関するMASCの基準
聴覚障害者用字幕の制作に関する基準(仕様書)のようなものは存在しません。放送字幕を例に取れば分かるとおり、各局バラバラの基準で制作されています。MASCは最終校正時に聴覚障害者モニターを入れる事によって、当事者に優しい字幕を追求してきました。このガイドラインはあくまでMASCの基準となります。(放送字幕の場合、様々な制限があり、この基準が適用出来ない場合もあります)
翻訳字幕 |
障害者日本語字幕 |
|
ハコ割り | 1行/14文字 | 1行/16.5文字 |
文字数/1秒 | 4文字 | 6文字 |
1ハコの行数 | 2行まで |
3行まで ただし話者・効果音・記号などを1行とする |
セリフ表示 | 要訳 |
全セリフを表示 (ただし、読み切れない場合は一部省略など) |
アウト点の取り方 | 音終わり | 翻訳よりも長くとる |
字幕と字幕の間 |
3フレーム(2コマ)以上 場合によりくっついても可 |
3フレーム(2コマ)以上 場合によりくっついても可 |
表示 | 中央合わせ が多い | 中頭 (各行頭合わせ・全体をセンターに置く) |
DVDなど 30フレーム/1秒 映画など 24コマ/1秒
(1フレーム 約0.03 1コマ 約0.04)
文字の数え方
1文字=全角1文字 0.5文字=半角1文字とする。
()などの補助記号やスペースは文字数に含まない。
文字の使い方
●かな、カナ:全角表記(半角カタカナはNG)
●英字、英語、英単語:半角表記(縦書きの場合は必要に応じ全角)
●日本国内で一般的に通用している英字略語:全角(例:DVD、CD、PHSなど)
●数字:1桁は全角表記、2桁以上は半角表記
●数字に関しての表記基準(アラビア数字か漢字数字かの判断)
・ 慣用語句となっているものは漢数字とする。
・ 数字、数量を表す場合はアラビア数字とする(ただし縦字幕の場合、状況に合わせて変更する場合あり)。
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ルビなどの使用について
○ルビは常用漢字や用字用語から外れる漢字表記のもの、あるいは地名や個人名などで判読できないと
思われる場合に付ける。乱用せず、漢字をかな表記にする工夫も合わせて考える。
○傍点は強調する言葉、注目させたい言葉に・をふって示す方法
・・
いったいなにがどうなってるの?
傍点を使わずカタカナにするなどで強調することも合わせて考える。
セリフや会話、ナレーション
1. 基本的なセリフの文字化指針
セリフは実際話されていることをなるべく忠実に再現し、かつ作品内容に合致した記述、あるいは表記とする(シナリオの記述優先の場合を除く)。
2. セリフ外の芝居での表記方法
話者が泣く、叫ぶなどで言葉外の声や音を発した場合、それに対応する文字表現は、作品内容に合致した表記に留意する。また、表記不能の場合は半角の()で囲んだ説明の形をとる。
3. 字幕配置などの絶対留意点
セリフが複雑な文章である場合、時間軸による字幕の区切り(はこ割り)と1字幕内の文意での改行を併用して、より直感的な認識度があがる工夫し、できる限り素早く理解できるようにする。そのために1字幕の長さがばらつくことや1行目と2行目の長さが不釣り合いになることは許容する。その上で、バランス的にいちばんよい文字配置を目指す(時間軸のみの優先や使用可能文字数のみを優先にした制作手法はとらない)。
4. 字幕連続記号について
通常字幕と同じく、字数や時間の関係でセリフを2つに分割表示する場合などにダーシ(1.5倍角傍線)を使用する。さらに、役者のセリフの話し方による音節が文意と一致しないために、セリフの連続が判断しにくいと予測される場合、あるいは次に続くセリフの話者を映像の内容的に見失ってしまうと予測される場合にも、ダーシ(1.5倍角傍線)を入れ、そのまま次へ続くセリフが存在することを認知させる。
5. 話者表記
セリフが、どの話者が発したものかを認識できるようにセリフに話者表記を付ける。話者表記は半角の()で囲むこととする。話者表記とセリフなどの文字が続く場合には半角空白をとる。
6. 話者表記を付ける基本規則
話者表記は、その話者が話し始めた最初の字幕に必ず入れることを基本とする。その後連続する字幕が同じ話者のセリフ場合、話者表記は省略する。(仮に2人のセリフが1字幕ごとの切り返しであれば、すべての字幕に話者表記が付くことになる。)続く字幕の間隔が大きく開いたために続きであると認識できない場合や、セリフの内容に前後の脈絡がない場合、あるいは映像の伝えるシーケンスやシーンが完全に変わった場合は、同じ話者のセリフが連続していても、再度話者表記を入れることとする。
7. 話者表記の省略
話し始めの最初の字幕でも、例外として画面内で明らかに話者が判別できる場合(話者の口の動きや手足のジェスチャーが明らかに判った上で、話者の完全1ショット、あるいは3ショットまででバストショット以上のアップまでを省略判断基準とする。)、話者表記を省略できることとする。ただし、会話のテンポが速い上に映像がアップと引きショットなどが繰り返している場合、あるいは会話が交錯して いる場合、モノローグなどが重なるなどの特殊な場合には省略しない。
8. 複数セリフの一括表示
セリフが短く表示時間を確保できない場合、2人以上のセリフの同時表示は可とする。この場合、各セリフの話者表記を必ず入れた上で、時系列順に上行から並べる。同時に発したセリフの場合は、セリフの流れで重要な人物のものから並べる。またこの同時表示を行う場合、その前から話していた話者のセリフが続きとして上に存在しても、誤認識を防ぐために必ず話者表記を入れる。また、同時表示の一番下にある話者のセリフが、その後の字幕に続いていく場合、その続き字幕の最初の話者表記は省略しない。
9. 話者表記の留意点
一定法則を破った話者表記は逆に混乱を招く傾向にあるので、単に話者の口が見えないから、口元がわかるからなどの親切心だけで話者表記を操作しない。
10. 話者表記における役名の設定方法
物語によっては人物名が途中から判明するなどの場合があるので、全体の流れをよく把握した上で、可能であれば状況に合わせ、話者表記で表す人物名などを変化させていくこと も考える。不可能な場合は各登場人物の初出かつ容易に判別できる場所に、人物紹介として役名を話者表記として入れ、その後は通常のルールに則った表記を入れる。それらがどれも難しい場合は作品ごとに対策を考える(顔が見えない初出セリフでいきなり話者名を出されても、初めて観る人はそれが誰かを決して判断できないことを忘れずに)。
11. セリフの音質などの変化を表す場合
声質の変化(電話、無線、壁向こうから聞こえるなど)の識別が必要であれば、それを斜体化することで表現する(話者表記部分も斜体とする)。ただし、それでは内容的に理解できないような場合には、正体にした上で、補足を付けた話者表記を加えるか、<>などの記号で囲むこととする。
12. 特殊なセリフなどに対する補助記号
モノローグ、心の声、ナレーションなど、セリフ以外の言葉は通常話者表記や斜体表示で判別できるようにするが、全体的にセリフや音情報と頻繁に交錯するなどで煩雑になる場合は、<>などで囲むことでよりわかりやすくする。ただし、音質の変化などで囲みをすでに使用している場合は、同じ記号にならないよう留意する。
記号の使い方
●再現不能になる可能性があるため、特定機種依存文字は絶対に使用しない
● 句読点は使用しない。字幕途中の句読点は半角スペースで代用する
●表現補助記号:1桁は全角表記、2桁以上は半角表記 全角例:? !など 半角例:!? !!など
●中黒「・」は半角を使用する
●セリフ内での引用的部分、また強調として“”で括る場合がある
●セリフ内で固有の作品名や地名などを表す場合「」か『』で括る。
ただし原則「」と『』の両方を作品内で併用しない。「」は半角、『』は全角を使用
●記号の文字表記注意点
・字幕の途中に記号類がある場合、そのあとは半角開ける。
●行頭に記号類がある場合(頭合わせ字幕における、行頭記号の頭出し処理)
・ 1行目にある場合、文字の行頭がそろうように、2行目はその記号分の空白を入れてずらし、
文字の 頭合わせにする。
例1
“ラ・フェスタ”なら
_その角を右へ行けばすぐよ
例2
(理奈) 由綺は
_女神じゃないのね
斜体の使い方
- 声質の変化(電話、無線、壁向こうからなど)の識別が必要であれば、それらを斜体などで表現する。
- 劇中使用歌の歌詞内容を表示する場合に使用することがある。
- モノローグや外国語混在など、特殊さゆえに他の字幕と区別したい場合に使用する。
効果音、状況音の表示
- 出演者の発する声以外の音情報に対する説明が必要な場合は〔〕で囲んで表示する(現在ほとんどの障害者用字幕は話者表記と同じ()で囲んでいる)。
- 音情報を表示する必要があるものとして、ストーリー進行に不可欠な、画面に見えていない場所で発した音、また、登場人物などの反応の直接原因となった音があげられる。
- その他にも、映像に付いている音に明らかな意味づけがある場合は、字幕として表示することがある(心情表現、時間や季節、場所の表現として使われている情景音など)。ただしそれらの中でも、抽象音や動きに対しての補助音であれば基本的に表記対象としない。
- 音の聞こえた感じをそのまま文字にする表音表記(ドカン・プルルル等々)は、音を知らない人にとっては内容の理解につながらないことが多いので基本的には使用しない。ただ、近年におけるマンガ表現の普及により、経験的にではなく知識的に理解できる人もいるので、作品内容によっては過度にならない範囲で使用することはある。
- 音情報の表現はなるべく平易で簡潔明りょうなものとする。しかし必要な場合は形容詞などを付けて補う。(例:心象を表す場合であれば、激しく吹く風の音と柔らかく吹く風の音では、まったく意味が異なる。)健常者が陥りがちなのが文学的な高尚な表現を入れようとする試みだが、それらは音を知らない人には理解できない場合が多く、理解しようとすると逆に作品内容を阻害してしまうこともあるので十分な配慮が必要となる。
- 効果音ではない状況音(公演会での会場拍手など)に対する説明が必要な場合は、半角()を使用して表記する。
- 繰り返しの音などを1字幕内で表記する必要がある場合は、改行して行頭をずらすなどの表現で、繰り返しであることを理解できるよう工夫する。
- 効果音なのか現実に発生している音なのかの区別が必要な場合(例:舞台演劇で会場の拍手なのか、舞台上で効果音として流れている拍手なのかなど)、判断できるような表記区別をつける。
音楽
- 音楽や音程がある音声が流れていることを示す場合に♪を使って表記する。
- すべての音楽に対してその有無や内容、受けるイメージなどを文字にして伝えることは大変難しく、また無意味なので、特に印象的に使われている場合、作品を支える必要要素となっているのみ字幕として表示する。また、その際も他の字幕内容を圧迫しないよう留意する。
- ストーリー展開上や音楽の前後のセリフ内容から、流れている音楽の種類やテンポなどの説明が必要な場合は、♪の後ろに〔〕で囲んで簡潔な説明を記述する。
- 劇中使用歌の歌詞内容を表示する場合は、全体を斜体とし、字幕の頭に♪を付ける。歌詞と♪の間は半角空白をとる。
- 劇中のシチュエーションやミュージカルなどで、出演者が伴奏付きできっちりと歌を披露するような場合の歌詞表記も劇中使用歌と同じ扱いとする。
- 完全な音楽歌詞の場合は、行頭をずらすことで(チドり)表現する。
- セリフの延長でメロディーを付けて口ずさむ、あるいは放歌、鼻歌の場合はセリフに♪を付けるが、この場合は劇中歌などと区別するために斜体にしない。あるいは、よりわかりやすいように♪をセリフ最後に付けるなどの工夫も可能とする。
- BGMなどの場合、大きな意味がなければ音楽表記は省くが、場面進行が音楽だけで進むような構成でセリフを含む他の字幕が長時間存在しない場合、なぜ字幕がないのかなどの不安感を持たせないよう、音声が音楽のみで構成されていることを示すために♪マークを入れる場合がある。
- ケース別の、より具体的な記述方法としては以下を基本として作成する。
ケースA
- ・話者が演技途中で歌う時
- (伴奏がしっかりついている場合、映像内にバックバンドの存在がわかるものを含む)
- ・効果音としてレコードやラジオ扱いで歌詞が流れ、ストーリー的に意味がある場合。
- ・挿入曲歌詞、エンディングタイトル曲歌詞もこれに同じとする。
- 全体を斜体とした上で、
- ♪_歌詞
- ♪_歌詞歌詞歌詞
- __歌詞歌詞歌歌詞
- 2行の場合はチドる。全体バランスをみて頭を何文字ずらすかは、歌詞内容に依存する。
- ただし、2行目の最後が1行目最後より短くならないように。
- 話者表記がつくことはまれのはずだが、どうしてもつく場合は
- (話者)
- _♪_歌詞歌詞歌詞
- ___歌詞歌詞歌歌詞
ケースB
- ・話者が歌っている場合
- ・伴奏なしだがしっかり歌っている。あるいは、出演者がみんなで一緒に伴奏なし歌っている場合。
- ・出演者の中にギターなど手慰み程度の楽器、鍋を叩いて歌う人がいてもこちら。
- この場合は斜体にしない。
- ♪_歌詞歌詞歌詞歌詞
- (話者)
- _♪_歌詞歌詞歌詞歌詞
- 2行の場合チドらないで頭は歌詞内容あわせ
- ♪_歌詞歌詞歌詞歌詞
- ___あれは初恋 真鶴岬
- (話者)
- _♪_歌詞歌詞歌詞歌詞
- ____あれは初恋 真鶴岬
ケースC
- ・話者が放歌、鼻歌的に歌う場合(歌ではあるが何となく歌っている)
- ・あるいはセリフの一部がメロディーをもつなどの場合
- 正体でセリフ扱いとし、そのうしろに音符をつける
- 歌詞歌詞歌詞歌詞_♪
- (話者)_歌詞歌詞歌詞歌詞_♪
- 2行の場合は
- 歌詞歌詞歌詞歌詞
- 歌詞歌詞歌詞歌詞_♪
- (話者)_歌詞歌詞歌詞歌詞
- _歌詞歌詞歌詞歌詞_♪
- この場合、飾りとして音の伸ばし表現に”〜”を使用してもよい
- さらば ちきゅうよ〜♪
- さらば ちきゅうよ
- たびだ〜つふねは〜♪
- 一部がメロディーを持つセリフ
- (伝助)
- _あれは初恋 真鶴岬_♪
- _ってな歌ですよ
ケースD
- ・流れる音楽に対する説明が必要な場合
- ♪〔説明〕
- ♪ 「タイトル」
- ♪〔説明「タイトル」〕
- のような仕様とする。
ケースE
- ・歌詞がある曲表示とセリフが同時進行した場合の関係
- ・セリフ進行中に歌詞BGM的な感じで入る場合
- セリフはそのままの位置で進行。歌詞を第2位置に表示
- ・メインで歌詞のある音楽が進行中に 補助的なセリフが入る場合。
- 歌詞はそのままの位置で進行。セリフを第2位置に表示
- ・セリフと歌詞内容のどちらが優先か判断がつかない場合は、
- 前後のつながりで、セリフの字幕位置が移動しないほうを選択する。
- ※注意
- 何らかの歌詞入り音楽が流れたときに、基本的にはその曲の題名を入れることはしない。
- 仮に映画の題名と同じ曲名だからといえ、入れる必要はない。観客は興ざめする。
- 健常者が観ているときも、流れた曲の歌詞を聞いてどういう題名かは通常わからない。
- また、挿入曲などはたいていの場合、曲名がエンディング等に出てくる。流れる以上は、その曲の歌詞
- のみに意味があるかと考えるべき。(ないものもあるが、その場合歌詞表記の必要も疑問)
- 逆に、歌詞なしの音楽が、ストーリー的に意味を持つ場合は題名表記が必要な場合が多い。
表記の統一について
- 使用漢字は基本的に常用漢字とし、かな送りなどは本則とする。
- 難しい漢字表記、常用外漢字でも、固有名詞や専門用語に関してはルビ対応でそのまま使用する。
- 同じ漢字でも、字幕中に読み方が異なるものが混在する場合は、読みやすさを考慮して、一方を
- らがな表記とすることがある。
- 作品中出現数が多い語句で、全体的にまんべんなく字数を減らすのに有効な場合、認識に差し支えない範囲でのみ、かな送りを通則とするか、慣用句扱いで送りを省略することがある。
- 例 〔慣用句例〕呼び出し音→呼出音 〔通則例〕待ち合わせ→待ち合せ
- 既存の歌詞や他の既存文章からの転記した内容の場合、その部分は別と考えて、原文の文字使いをそのまま使用することが多い。あるいはそちらに合わせて字幕全体の表記を統一することもある。
- シナリオの文字表現や作品内に出てくる文字使い重視、あるいは映像の権利者から指定があった場合に、作品イメージを維持するため、あえて通常は使用しない文字使いで統一する場合がある。
- 判断に迷ったときのガイドとして、市販の用字用語集を参照する。
- (特に指定がない場合、MASCでは「朝日新聞の用語の手引き」「NHK用字用語辞典」を使用)
最終的には作品の内容に合わせた制作者の判断となるが、あくまで基本を理解した上で行って欲しい。
その他
- 文字列や単語の組み合わせにより、字幕として読みにくい状況が発生する場合は、わかりやすさを優先し、全体統一が崩れない範囲で、空白や記号、漢字とかな表記、カタカナ表記の組み合わせを変更し、読み難さを解消するよう心掛ける。
- 字幕制作を行う場合、必ず作業開始前に作品ごとに文字の使い方やルール決めを行う。シリーズの場合は特に全体統一のために、ルール設定が不可欠となる。制作にあたって、作品の内容を重視するために、表記などのルールを一部変更することがある。ただしそのようなルールを決定した場合は、その作品内で徹底し、基本ルールなどと混在するなどのばらつきがあってはならない。
- 制作担当者は必ず申し送り事項として、文字の変更や出現した統一語句、不明点についてをできる限り記した公的なメモを残すことを必須とする。