小説の楽しみ方
〜『リアル鬼ごっこ』基本的突っ込み〜



『リアル鬼ごっこ』(文芸社)読了。
詳細に突っ込むのは大人げないという意見もありますが、この小説(しかも文庫本ではなく)を読んで心から感動したお子さんたちが、多少なりともいるという点を危惧して、敢えて検証させてせていただきます。ってか、ブックオフで100円とはいえ、貴重な金出したんだから、少しは遊ばせてよ、というのが本音でしょうか。
まずは、既にテンプレになってしまって、ネットで流されている突っ込みどころ。中にはこれだけを読んで、山田バッシングに励んでいらっしゃる方もいるようですが、それはさすがに卑怯というものです。

「二人が向かった先は地元で有名なスーパーに足を踏み入れた」
「騒々しく騒いでいる」
「最後の大きな大会では見事全国大会に優勝」
「愛を探すしかほかないのだ」
「十四年間の間」
「佐藤さんを捕まえるべく鬼の数である」
「ランニング状態で足を止めた」
「遠く離れると横浜の巨大な遊園地ができた」
「三人は分かち合うように抱き合った」
「営々と逃げ続けた」
「いざ、着地してみるとそこは森の様な草むらに二人は降り立っていた」
「一人の鬼が瞳の奥に飛び込んだ」
「永遠と続く赤いじゅうたん」
「この話は人々の間とともに長く受け継がれていく」

これだけでも十分な気がしますが、山田先生の超日本語はこれにとどまりません。
まずは、どう考えてもこりゃダメだろう、という基本編です。多少の「てにをは」、接続詞、句読点の間違いには目をつぶります。きりがなくなりますのでね。

「益美は幼稚園児の黄色いカバンを片手に玄関の外へと出ていた。そして、静かに扉が開かれた」(10頁)
このお家の玄関は、2重扉なんでしょうかね? 益美さんはたたきに立って、玄関の扉を開けた、と書きたかったのね。それにしても誰視点にすべきか、なんて高度なことは山田氏は全然考えていません。

「王様はある一つの事でもの凄く機嫌が悪く、不機嫌な顔をして」(14頁)
よっぽど機嫌が悪かったんでしょう。

「その場にいた大勢の部下たちは何事かと顔を見合わせ、その度に両手を上げて首を傾げていた」(14頁)
この時代、この国の習慣なのでしょうか? 推測するに山田氏は、肩をすくめるというリアクションが書きたかったのかと。それにしても変ですけど。

「その時、側近の中に拳を握り、はにかみ、ブルブルと体を震わせている者がじいの目に入った」(18頁)
はにかんでどうする?(笑) じい(笑)にはどんな感情を抱いていたのか分からなかったそうですが、読者にも分かりません。どうやら国王暗殺を企んでいたようです。はにかみながらね(笑)

「前代未聞である提案者”馬鹿王様”のいる、王国宮殿の周りにマスコミや不満を感じた佐藤さんは誰一人、宮殿に押し掛けなかった」(33頁)
この際、文の下手さ加減は大目に見てやって下さい。宮殿がダブってますね。

「その時既に短距離では部活内で一番のタイムを誇っていた」(35頁)
「部内」の間違いですね。

「初出走の翼はそれ程緊張していなかった。それは自信があったからか、緊張をほぐしていたのかは定かではないが。」(35頁)
緊張してたのかしてなかったのか、どっちなんでしょうね?

「名実と共に実力を上げていき、」(36頁)
この言い回しはあり得ませんね。実力は客観的なものです。

「翼も百メートル走が組み込まれていた。」(41頁)
翼くんが組み込まれていたんですか。そうですか。

「今や短距離走では自分が一番早い事も、そんな試合の事も、走る喜びすら今の翼は忘れていた。無理もない、下手をすれば自分の命が危ないというときに試合の事を考えられる訳がなかった。大介が言ってくれなければ走る直前まで忘れていたに違いない。」(41頁)
長く引用してしまいましたが、最後の一文が破綻してます。

「翼はリュックを片手に後ろを振り返り、それでも堂々とした歩き方で振り返る事もせず、」(55頁)
意味が分かりません。思わずヒロシ口調になってしまいますな。

「身軽なシューズ」(58頁)
ってなに? 羽でも生えてるのか?

「肩を愕然と落としながら」(65頁)
「愕然」は、驚いた様を言い表す言葉ですから、不適当。使い方も変です。

「ナイフとフォークを片手に”がつがつ”と音をたてながら、ハンバーグに食らいつき、」(86頁)
ファミレスでお食事をする場面ですが、ナイフとフォークをお箸のように使って、ずいぶんアクロバティックな食べ方だと思います。それと”がつがつ”は擬態語であって、擬音語ではありません。

「昨日は一度も追いかけられなかった翼の心の奥底は多少甘い考えは今でも持っていた。」(88頁)
主部と述部の不一致は、他にも多々あるのですが、いちいち取り上げるのは諦めました。これはとりあえず、おもしろかった代表ということで。

「翼は挙動不審をあらわにして」(89頁)
こんな言い回しは初めて見ました。念のため「挙動不審をあらわ」で検索しましたが、このような語法は一件も引っ掛かりませんでした。「挙動不審な行動で」(64頁)というのもあります。

「翼の目には自分等、佐藤さんを捕まえるべく、”鬼”が映っていたのだ。」(90頁)
「捕まえようとしている」でしょう、普通。

「真下に立っている翼に貧相な明かりが照らされていた」(94頁)
受動態と能動態の違いが分かっていないようです。

「ゆっくりと歩いていた為か、かなりの時間を費やし、自宅に戻る為に通らなくてはならない、大きな坂を上り、突き当たりを左に曲がれば自宅はすぐ目の前だ。」(97頁)
ちょっと長い文を書くと、このようにめちゃくちゃになってしまうのですね。句点の使い方もひどいもんです。

「角を曲がった途端に、自宅はすぐに目の前だ。」(98頁)
短くてもだめだった。

「翼は唇を噛みしめ言った。」(99頁)
噛みしめたら、唇が開きません。腹話術でも使うんでしょうか。

「翼もこれまた益美の言葉に一瞬とまどったものの、この際、母さんがいればどちらでもいいかと翼は靴を脱ぎ捨てて、」(111頁)
主語の重複の例です。

「ハッと後を振り返った翼の目に映っていたのは、輝彦と同年代ぐらいの紳士がこちらを向いていた。」(116頁)
こういう気持ちの悪い文章が、とっても多いんです。あくまでもこれは一例。そのために、なかなか読み進めることができません。

「正座で座った。」(116頁)
こういう二重の言い回しも本当に多い。

「ここから淀川区は距離的にそう遠くなく、近いようだ。」(126頁)
遠くないなら、近いのは自明の理(笑)。

「『ち! しつけーな』戻した。」(129頁)
吐いたわけではなさそうです(笑)。どうやら視線をもとに戻したらしい。主語がダブる場合と、省略してわけがわからない文になってしまう場合とが混在してます。

「口元を浮かせた。」(129頁)
感覚だけで言葉を操っていませんか?

「目を仰天させる」(137頁)
仰天するのは心であって、目ではありません。

「テーブルの上で人さし指をコツコツ叩く。」(153頁)
文法は間違っていませんが、この動作になんの意味があるんでしょうか? 翼くんがいらついている場面です。

「もの凄く寒いという記憶は鮮明に覚えている。」(154頁)
なんで普通に書けないのだろう? 山田氏は「頭痛が痛い」というギャグを理解していないのかもしれません。

「翼は落ち着かせようと心臓に手を当てて、」(158頁)
痛そうな場面です。激痛で落ち着くどころではありません。

「一軒目とは違った今度はメロディーが家の中に響いている。」(159頁)
語順がとんでもなく変です。

「このままでは情報は愚か、」(162頁)
最低限の校正はしたのか、誤字は比較的少ないのですが、うっかりミスでは済まされませんよね。

「その子の格好を見ると、上は汚れたドレスのような物を、下は女の子が気に入る様なフリフリのついたスカートを。」(163頁)
レイヤードファッションというわけではなさそうです。ドレスがどういう形状をしているかなんて、幼稚園児でも知ってるでしょう。

「アスファルトでできた、高い壁めがけて」(175頁)
アスファルト製の壁(塀らしい)なんてあるんでしょうか? 壁はかなり薄いようです。体当たりすれば壊れそうなものです。

「エプロンを羽織って、」(209頁)
エプロンは羽織れません。

「お父さんのおじさんに何不自由なく育ててもらったから」(213頁)
お父さんの弟じゃなかったでしたっけね。

「床も全部はがされて地面がむき出しになっており、」(234頁)
念のために申しますと、ここは二階です。

「危機に感じた翼と愛は火事場の馬鹿力、ここで二人は足を早めた」(240頁)
「火事場の馬鹿力」という慣用句は知っていたけれど、使い方を間違った例ですね。

「翼の瞳が大きく見開かれた」(267頁)
瞳は要するに瞳孔です。見開かれるものではありません。

「これ程までの犠牲者を出した計画が今日で最終日とあれば、大スクープ。」(282頁)
開始日も最終日も、途中経過も公表されています。スクープの意味が分かっていません。今や常識じゃないんでしょうかね。

「”死にたい”
 この肝心の言葉は一度も発しなかった。」(292頁)
肝心の意味すら分かっていないようです。

「最終日の時間が少しずつ少しずつ音もなく近づいてきた」(292頁)
音なんてするわけがないではないですか。やかましくてしかたないわい。「時間」は「時刻」の間違いですね。

「大画面のスクリーンがじいの合図で一気に映し出された。」(293頁)
スクリーンが、何に映し出されたのでしょうか?

「一人が先頭に、もう一人がやや後に陣取って追いかけてくる。」(300頁)
陣取ると追いかけるいう行為を合体させる力業も見せてくれます。

「裏の王国で必死に逃亡を繰り返していた王国中の生き残りの佐藤さんが一人。」(302頁)
裏の王国ってなんでしょう? 表の王国もあるはずですよね。

「九人の足跡がピタリと止まった。」(311頁)
「足音」の間違い。

「最終日に捕まっていった佐藤さん達の王国が管理している一人ひとりのデータは消されていき、それに六日間までに消されていった全データを付け加えた。」(314頁)
消されてしまったデータは付け加えることはできません。六日間というのは、時間の長さですから、これも不適切。

「王子以外を除く佐藤姓」(331頁)
ややこしいです。わけがわかりません。

「もう一度首を右に左に素早く後ろへと回し、ぐるりと体を反転させた」(頁数不明です)
エクソシストですか?

斜め読みでこれだけ見つけました。まだ決定的な間違いはあると思います。後半は慣れてきたのか、破壊的な文法間違いはかなり減っているようです。しかし、だからこそ稚拙な表現が目につくことになります。次回は、設定・世界観をに突っ込みを入れることにしましょう。

『リアル鬼ごっこ』 山田悠介著 文芸社 2004年1月1日 初版第19刷

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