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実利論 -古代インドの帝王学 上・下 | カウティリヤ | 上村勝彦 訳 | 岩波文庫 | 1984年11月発行 |
作者は、カウティリヤ……古代インドの人かな 翻訳のサブタイトルは『古代インドの帝王学』――ビジネス雑誌に特集されそうな感じだね。あんた、働くどころか脚一本動かすのも面倒な物臭さなのに、何でこんな本買ったの? 「我々の常識としては、本書がカウティリヤ自身によって紀元前四世紀という古い時代に書かれたという結論は、どうしても承認しがたいように思われるのである。」 なによ、その「我々の常識」って。あたし知らない、そんな「常識」ママに教わってないもん。マキャベリスト入って冷たいけど渋くてステキなカウティリヤおじさまが書いたと信じたから、買ったのにさ。あたしの妄想……じゃなくてイマジネーションの世界が台無し。責任とってよ岩波! あのさあ、古典の作者なんてわからないのが普通でしょ? まあ、どーしても責任取れって言うなら、訴訟でも起せばあ? 「臣民を法により守る王が自己の義務を遂行することは、彼を天国に導く。王が守護せず不正な刑罰を科する場合は、逆の結果となる。 古代インドにしてはマトモだぞ。でも「〜彼に賠償させるべきである。ただし、バラモンの場合は除く」(第3巻第1章37)……やっぱり古代インドだわ。 ちょっと強引な展開だけど本題に入りますか。『実利論』って簡単にいうと、どんな本? 「インドでは古来ダルマ(法)とアルタ(実利)とカーマ(享楽)が人生の三大目的とされてきた。〜本書は、アルタの立場から揺るぎない権力の確保のために王が採るべき権謀術数を説いたもの。」 だって。本文の出だしからも移しちゃう。 「土地の獲得と守護を目的として、古の学匠たちに説かれた諸々の実利論(アルタシャーストラ)の大部分を一書にまとめて、この『実利論』が作られた。」第1巻第1章1 王様のための実践マニュアルだね。うっかりすると、あたしでも王様できちゃいそう♪ ……がんばってね。○○の王様って限定すれば、一つぐらい当てはまるかもよ。ヨレヨレ作文とか、情けないウェブサイトとか。 「夜の〜第三の八分時には、楽器の音とともに就寝し〜第六の八分時に、楽器の音とともに目覚め、」第1巻19章20-21 時間の単位がイマイチわからないけど、単純に12時間を8等分したとすると、睡眠時間は4.5時間。あとは基本的にお仕事みたい。 よかった。それが世の中の平和のためだよ。ところで、著者と伝えられているカウティリヤがインドのマキャベリだと言われるのは、この本が原因なんでしょ? 王様は、宮廷祭僧(プローヒタ……大臣より上位)に理不尽な命令を出します。宮廷祭僧は怒るので王は罷免。もちろん宮廷祭僧と王は、すべて事前に打ち合わせ済み。 ……こんな話ばっかり。臣下や身内の真意を探る、民を騙す、敵をかく乱する。全編に渡ってスパイが大活躍。 スパイ=美人ダンサーとは、想像力が貧困だよ。 「役者・舞踊家・歌手・演奏家・咄家・吟誦者たち、及び女のスパイたちは、高官の内的な行動を知るべきである」第1巻第12章9 もっとも、この芸能人スパイも組織の一部にすぎず、農民・商人・学生・聖者・比丘・比丘尼……ありとあらゆる職業に化けています。でも、あたしの頭にいつも浮かぶのは、美女の舞い、ほほほ。 スパイに暗殺ね。マキャベリストと言われるのか、わかったわよ。目的のためには手段を選ばずってことね。 「敵の星宿において、流星を見せるべきである」第13巻第1章10 神々の奇蹟を人工的に演出し、味方を奮い立たせ敵を動揺させる手段の一つです。神像に仕掛けをほどこす、スパイに神様の格好をさせてお告げを語らせるなど、技はたくさん。でもこの場合、流れ星をどうやって作るんだよ! 「鷲鳥(ハンサ)や帝釈鴨(クラウンチャ)や孔雀、またはその他の大きな水鳥の尾に結びつけられた葦の灯火は、夜間、流星の出現のように見える。」第14巻第2章30 ちゃんと流れ星に見えるのかわからないけどね。どっちにしても、歴史書に見える「奇蹟」的な現象のほとんどって、こういうトリックなんだろうな。 他には毒薬の話がインパクトあるぞ。 それにしても、物騒な話ばかりだね。 「本書は単なる政治の書ではなく、経済や法律に関し、更には、学問、王宮、建築、宝石、金属、林産物、武器、秤と桝、空間と時間の単位、紡績、織物、酒造、遊女、船舶、牛、馬、象、旅券、賭博その他諸々の事項に関し、多用な情報を与えてくれる、百科全書的な書物であり、古代インドの社会や文化を知る上での貴重な資料なのである。」訳者前書き 中国の絹も出てくるし、ダイヤモンドが登場する最古の文献との噂もあるの。誰でも、興味持って読める章があると思うよ。 王さまは、絶対友達できないね。こういう過激な本って、異端扱いされない? でも、仏教が生まれた世界なんだよね。ギャップを感じるなあ。 |