■無国籍化で身を守る
それを踏まえれば、日本企業の戦略は、輸出型生産拠点の中国からの脱出、中国内需向け生産拠点の維持と中国国内販売の強化だろう。だが、中国のなかに工場を残し、販売を強化するのは簡単ではない。いつまた「反日」の標的にされるかはわからないからだ。「反日」回避のひとつの戦略は「無国籍化」だ。どこの国の企業かわからなくなれば「反日」には巻き込まれにくい。そういう企業は少なくない。スイス発祥の食品大手、ネスレをスイス企業と知る中国人は少ないが、ネスレ商品は中国のスーパーの棚で大きなスペースを占めている。フランスの化粧品メーカーのロレアル、英蘭系日用品メーカーのユニリーバ、ドイツのアディダスなど中国市場で国籍をあまり認識されずに売れている商品は多い。日本企業も無国籍化がひとつの選択肢となる。
■ASEANの「帽子」
一方、からめ手から行く手法もある。日本から中国に投資するのではなく、日本以外の国に設立した現地法人から中国に投資、進出する迂回(うかい)戦略だ。台湾、シンガポール、マレーシアなどの現地法人を対中投資のプラットホーム化するわけだ。もともとは日本企業であってもシンガポールの法人が投資すればシンガポール企業として活動できる。こうした戦略を「帽子をかぶる」という。中国ではかつて江蘇省、浙江省あたりで多くの民営企業が国有企業待遇を得るため、実質的に破綻した国有企業を買収するなどして、国有企業を装った。これを「“紅い帽子”をかぶる」と呼んでいた。日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)企業の帽子をかぶり、ASEANで生産し、中国とASEANの自由貿易協定(FTA)を活用して中国市場に商品を供給するという道もある。
さらにすでに一部の企業は90年代から行っているが、米国法人から対中投資をし、米国企業の待遇で「反日」に立ち向かう手がある。自国企業を守ることを米国ほど重視し、力もある国はほかにない。言葉は悪いが、米国を“用心棒”とするアイデアである。
日本企業にとって、中国の事業環境は変質した。新しい現実に向き合い、踏み出す勇気が問われている。
「私が見た『未来世紀ジパング』」はテレビ東京系列で毎週月曜夜10時から放送する「日経スペシャル 未来世紀ジパング~沸騰現場の経済学~」(http://www.tv-tokyo.co.jp/zipangu/)と連動し、日本のこれからを左右する世界の動きを番組コメンテーターの目で伝えます。随時掲載します。筆者が登場する「中国の行方~反日デモの裏で起きていたこと」は10月29日放送の予定です。
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