名誉毀損

「2ちゃんねる」などのインターネット掲示板は無法地帯と
なっています。そして現実社会でも侵害され続ける人権には、
もはや回復の道はないのでしょうか?
そこで主な人権侵害たる名誉毀損に関する理解を深めるべく
名誉毀損に関する情報をまとめてみることにしました。

何が名誉毀損になり、何が名誉毀損にならないのか?
その境界を知ることにより、他人の名誉を侵害することを
未然に防ぐことができます。名誉毀損に該当する場合には
法的手段をとることで相手に責任を追及することができます。

このページでは特に名誉毀損の刑事裁判の判例を多数
紹介することで、境界を知る手がかりを提供してゆきます。
これによって人々の名誉を守り、また名誉を毀損することの
ないように心がける手助けができればとても嬉しく思います。

名誉毀損罪と侮辱罪

刑法230条
公然事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固又は50万円以下の罰金に処する。

刑法230条の2
前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

刑法231条
事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

「公然」

大正6年7月3日 大審院 大正6年(れ)第1429号 刑録23輯782頁 刑抄録71巻9376頁
不特定多数の見聞しうる状況で事実を摘示すれば、たといその当時見聞者がいなかったとしても、公然事実を摘示したものということを妨げない。

昭和3年12月13日 大審院 昭和3年(れ)第1682号 大刑集7巻766頁
人の名誉を毀損する文書を郵便により多数の人に配布した場合は、現に配布を受けた者が特定していても、これらの者に対し秘密にすることを要求し、他に発表することを厳禁したのでない限り、刑法203条にいわゆる公然というに妨げない。

昭和6年6月19日 大審院 昭和6年(れ)第628号  大刑集10巻287頁
いわゆる「公然」とは秘密に非ざる行為を指称し、いやしくも多人数もしくは不特定人に対し他人の名誉を毀損する事実の摘示を為したるときは名誉毀損罪は成立し、たとえその多数人が特定せる範囲の者なる場合と雖も其の行為は之を秘密と云うことを得ざるを以って之を公然と云うを妨げない。

昭和12年11月19日 大審院 昭和12年(れ)第1153号 大刑集16巻1513頁
多数人であっても、その数または集合の性質から見て、よく秘密が保たれ絶対に伝播の虞がないような場合には、公然ということはできない。

昭和28年6月29日 東京高 昭和28年(う)第1209号 高裁刑特報38号134頁
「公然」とは不特定または多数の者の見聞しうる状態にあることをいい、現実に見聞したものが皆無で あっても妨げない。

昭和29年5月6日 最高一小 昭和28年(あ)第3928号 裁判集刑95号55頁
道路通行人にも容易に聴取れる状況の下でどなった場合には、公然でないとはいえない。

昭和36年10月13日 最高二小 昭和33年(あ)第2480号 刑集15巻9号1586頁
多数人の面前において人の名誉を毀損すべき事実を摘示した場合には、その多数人が特定しているときであっても、公然というを妨げない。

「事実を摘示」

大正5年12月13日 大審院 大正5年(れ)第2411号 刑録22輯1822頁 刑抄録69巻9050頁
名誉毀損罪における事実は、必ずしも非公知のものであることを要せず、公知の事実であっても、これを摘示表白した場合は同罪を構成する。

大正5年12月13日 大審院 大正5年(れ)第2411号 刑録22輯1822頁 刑抄録69巻9050頁
被害者の人物の批評のようなものであっても、刑法230条にいう事実の摘示であることを妨げない。

大正14年12月14日 大審院 大正14年(れ)第1651号 大刑集4巻761頁
露骨に明言しなくても演説の全趣旨および当時の風説その他の事情によって、一般聴衆をして何人がいかなる醜行をなしたかを推知させるに足りる演説をした場合には、名誉毀損の事実を認めるのに妨げない。

昭和5年8月25日 大審院 昭和5年(れ)第1102号 新聞3192号15頁 評論19巻刑法314頁
うわさであっても、人の名誉を害すべき事実である以上、公然これを摘示した場合には名誉毀損罪が成立する。

昭和13年2月28日 大審院 昭和12年(れ)第2403号 新聞4284号7頁 評論27巻諸法269頁 大刑集17巻141頁
被害者の氏名を明確に挙示しなかったとしても、その他の事情を総合して何人であるかを察知しうるものである限り、名誉毀損罪として処断するのを妨げない。

昭和26年3月17日 名古屋高 昭和25年(う)第2235号・2236号 高裁刑特報27号59頁
侮辱罪は、事実を摘示せずして概念的、抽象的意見を発表し、もって他人を誹謗する行為を指称するものであるから、いやしくもある事実を摘示し、これを基礎として概念的、抽象的意見を発表し他人を誹謗する場合は、侮辱罪ではなく名誉毀損罪を構成する。

昭和30年2月28日 東京高 昭和29年(う)第2119号 高裁刑時報6巻2号41頁 高裁刑特報2巻4号98頁
摘示した事実が伝聞にかかるものたると無根のものたるとを問わず、その事実が他人の名誉を毀損するに足ると認めうるものである限り、名誉毀損罪が成立する。

昭和34年3月31日 東京高 昭和33年(う)第1836号 東高刑時報10巻3号228頁
名誉毀損罪における事実の摘示は、他人の名誉が毀損されるものと認めうる程度にされれば足り、必ずしも事実の内容につき詳細にわたってこれを明示する必要はない。

「名誉」

大正4年6月4日 大審院 大正4年(れ)第1081号 新聞1024号31頁
名誉とは、人が他人間において不利益な批判を受けない事実をいう。

大正5年5月25日 大審院 大正5年(れ)第922号 刑録22輯816頁 刑抄録65巻8668頁
名誉とは、人の社会上の地位または価値をいう。

被害者

大正5年12月13日 大審院 大正5年(れ)第2411号 刑録22輯1822頁 刑抄録69巻9050頁
背徳または破廉恥な行為のある人であっても、名誉毀損罪の被害者となりうる。

昭和2年5月25日 大審院 昭和2年(れ)第472号 評論16巻刑法300頁
名門大家でなく、または素行の善良でないことが周知の人物であっても、名誉即ち利益な批判を受けるべき社会上の地位を有する。

昭和13年5月21日 大審院 昭和13年(れ)第479号 新聞4288号17頁 評論27巻刑法114頁
徳義または法律に違反した行為をなした者であっても、名誉毀損罪の被害者となりうる。

「目的が専ら公益を図る」

昭和35年12月9日 横浜地横須賀 昭和35年(わ)第139号 下級刑集2巻11・12号1506頁
事実が真実であっても、終始人を愚弄する侮辱的な言辞をこれに付加摘示した場合には、公益を図る目的に出たものということはできない。

「真実であることの証明」

昭和37年1月31日 東京高 昭和36年(う)第1810号 東高刑時報13巻1号25頁
被告人が事実を真実と信じていたとしても、そのように信じたことが相当であると認められるに足りる客観的な状況が存しないときは、故意を阻却しない。

昭和41年10月7日 大阪高 昭和41年(う)第952号 刑集23巻7号995頁
被告人の摘示した事実につき真実であることの証明がない以上、被告人において真実であると誤信していたとしても故意を阻却しない。

その他の重要判例

明治44年3月9日 大審院 明治44年(れ)第131号 刑録17輯332頁 刑抄録47巻4812頁
名誉毀損罪を構成した記事の材料を与えた通信員または投書者は、右罪の従犯の責を免れない。

昭和12年6月5日 大審院 昭和12年(れ)第478号 大刑集16巻906頁
告訴状に被告訴人として指定されていなくとも、共犯であれば告訴の効力は及ぶ。

昭和13年2月28日 大審院 昭和12年(れ)第2403号 新聞4284号7頁 評論27巻諸法269頁 大刑集17巻141頁
名誉毀損罪は、公然、人の社会的地位を貶すに足りる具体的事実を摘示して名誉低下の危険を発生させることによって既遂となり、被害者の社会的地位が傷付けられたことを必要としない。

昭和13年6月6日 大審院 昭和13年(れ)第558号 新聞4303号7頁 評論27巻刑法143頁
名誉毀損罪は、人の名誉を毀損すべきことを認識しながら、公然事実を摘示することによって成立し、名誉を毀損しようという目的意思に出る必要はない。

昭和30年3月25日 大阪高 昭和29年(う)第2247号 刑集10巻4号547頁 高裁刑特報2巻6号180頁
名誉毀損の告訴があった場合には、侮辱の告訴としての効力をもつ。

略称

刑録     ―  大審院刑事判決録
新聞     ―  法律新聞
評論     ―  法律学説判例評論全集
大刑集    ―  大審院刑事判例集
裁判集刑   ―  最高裁判所裁判集刑事
高裁刑特報  ―  高等裁判所刑事裁判特報
東高刑時報  ―  東京高等裁判所(刑事)判決時報
下級刑集   ―  下級裁判所刑事裁判例集
刑集     ―  最高裁判所刑事判例集

おわりに

多数の判例を読み込んでいくうちに、境界が見えてきたのでは
ないでしょうか?たかが悪口といっても、限度を超えるものは
許されません。名誉毀損はれっきとした犯罪です。
泣き寝入りするぐらいなら警察に相談して、告訴状を提出する
のも手です。はじめは面倒くさがる警察も、被害者の告訴権
の行使を妨げる事はできませんから、きっと何らかの結果を
もたらすはずです。

法務省も動き出しています。人権擁護局 は20年ぶりに人権侵害
調査処理規定を大幅に見直しましたので被害の申告をするのも
有効です。また、「プロバイダー責任制限法ガイドライン等
検討協議会」では法務省が被害者本人に代わりプロバイダー側に
削除を求めることができるとルール化されました。

今まで「2ちゃんねる」などの掲示板で名誉を傷つけられ、
プライバシーを侵害され、その影響で社会でも同様の被害に
遭われている方が大勢いらっしゃいます。目に見えない心の傷
の痛みは他人にはなかなか伝わるものではありませんが、この国の
法律はそれを決して見過ごしているわけではないということを
このページで知ってもらえれば幸いです。


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