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電力・エネルギー

福島事故胸に復興後押し…東工大特任准教授・大場恭子さん 

2012/09/20

東京電力福島第一原子力発電所事故がきっかけとなり「性根を据えて原子力に関わっていく覚悟が生まれた」と話す、東京工業大学グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院の大場恭子特任准教授。事故に対する深い反省と痛みから様々な形で復興支援に取り組み、公私を問わず何度も福島を訪れている。原子力学会の一員として、2児の母として、どのような思いを抱いているのか聞いた。(藤田 忠)

東京工業大学グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院の大場恭子特任准教授

被災地で線量情報提供 原子力人材育成にも力

--まず、グローバル原子力安全・セキュリティ・エージェント教育院とは。

「東工大原子核工学専攻の教育資源を基盤に、核拡散、テロ、原子力災害といった原子力を巡る課題の解決に貢献できる幅広い知識と視野を持った国際的リーダーを育てる狙いで昨年設立しました。深い専門性、広い社会性を併せ持つ人材の育成を目指したユニークな教育プログラムとなっています。学生は全寮制の『世界原子力安全・セキュリティ道場』に入門し、寝食を共にしながら切磋琢磨します。私は技術者倫理、リスクコミュニケーションを担当しています」

--福島の事故はどう受け止めましたか。

「私は活動の中心が原子力学会です。2001年から倫理委員会に携わり、倫理規程に原子力技術の負の側面をどう書き表すか検討を重ねてきました。ただ、念頭にあったのは技術が未熟な国や核兵器。日本でこれほどの大事故が起こるとは想像もしなかった。全電源喪失と聞いた時も、必ず解決できると信じて疑いませんでした。学会の一員として深く反省し、痛みを感じています」

--事故直後から放射線の影響などについて情報発信をしたそうですが。

「私自身、福島に駆け付けて何かしたい思いは強かったのですが、4歳と2歳の子どもが地震で不安を感じている中、夫に任せて行っていいものか…。悩みました。その時できることとして始めたのが、ママ友のネットワークを使ったメールでの情報発信です。3月15日、約200人に向けて1通目を送信し、質問を受けながらほぼ毎日、1カ月余り続けました」

「皆さん不安な日々を過ごしていて『東京の放射線量を見る限り、私は避難しない』『私は福島の野菜を食べている』と伝えると、『安心した』『質問できる相手がいてよかった』という返信がありました。『子ども思いの大場さんだから信じられる』と言われた時は、とてもうれしく思いました」

--この情報発信がきっかけとなり、福島でも講演されているようですが。

「放射線の人体影響について話してほしいと依頼されることが多いです。講演では決まって、『データは示しますが最後の判断は皆さんで』と言います。子どもが心配な気持ちは、よく分かります。ただ、身の回りのリスクは放射線だけではありません。トータルで考えて行動すべきです」

放射線とエネルギーに関するシンポジウムで発言する大場さん(壇上右)

「昨年11月、いわき市にある楢葉町の仮役場で講演しました。直前にチェルノブイリを視察し、現状を受け入れてどう生きていくのか知恵を絞らないと前に進めないと感じていたため、腹をくくることが大切だと訴えました。反感を買うのではないかとも思いましたが、役場の方は『言ってもらってよかった』と前向きに受け止めてくれました」

--福島と向き合い、感じたこと、考えたことは。

「教育の大切さです。福島には、もう子どもを産めないと思い込んでいる人もいます。誤った知識による差別が起こらないように、差別が起こっても負けずに生きていく強さを持てるようにしなければいけません。社会の変化に教育が追い付くことが必要です」

「私はそもそも社会科学系なので、学会では原子力の人間ではないと言われることもあります。以前は気にしませんでしたが、事故後、情報発信や講演をするうちに原子力人という意識が強くなり、性根を据えて原子力に関わっていく覚悟が生まれました。だからこそ、これからも福島の事故に正面から向き合い、自分なりに復興を後押ししたい。一緒に過ごす時間が減っても、子どもたちにはそういう母親がいいと思ってほしいです」(本紙10面より)



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