Spring has come

(誰だよ、布団の上にいるのは…)
 寝ている体の上にずしりとした重みを感じる。やめろよ…俺はたまらず眠い目を開けた。
「あ、秋山くん、おはよ」
「藤掛…」
 俺は目を疑った。布団の上で、藤掛理沙子が俺にかぶさるように見下ろしているのが目に飛び込んできたのだ。なんで俺の部屋に藤掛が…。しかも想像を絶したのはその格好だった。大きな眼鏡に長い髪を後ろで縛ったスタイルはいつもどおりだが、服が――なんと高校の頃の体操服だったのだ。俺の学校では今時珍しくブルマー着用で、白い体操服を形よく突き上げる藤掛の胸は男子の注目の的だったが――藤掛のやつ、その頃の体操服を無理矢理着込んでいるらしい。そんなことしたら――その胸はあの頃より優に3倍は大きくふくらんでいるんだ。そんな巨大なものを無理矢理押し込まれた体操服が、中身を詰め込みすぎた風船みたいに悲鳴を上げている。胸に貼られた「藤掛」の文字も四方に引っぱられて伸びきっているし…。視線を下に向けると、やっぱり丈が足らずに裾から下乳が大きくはみ出している。藤掛の巨大な、そして抜けるような白いおっぱいの一部が目に飛び込んでくる。ノーブラだった…。
「ど、どうしたんだよ、藤掛…。その格好は――」
 俺は信じられなかった。藤掛は自分からそんな事をするような女の子じゃない。高校の頃だって、自分の胸に集まってくる視線を恥ずかしがってほとんど消え入りそうだったのに…。
「でも、あの…」藤掛はやはり恥ずかしいのか頬を赤く染めながらも、しかし懸命にそれを振り払うように口を開いた。「男の子は、こういう格好が好きだからって――みゆきさんが…」
 また姉貴かよ! ――去年の夏以来、藤掛の存在に気づいた姉は、なにかにつけてちょっかいを出してくるようになった。それまでほとんど家に寄りつかなかったくせに、今では用がなくてもしょっちゅう実家に顔を出しにくる。特に藤掛の事がいたく気に入ったみたいで、2人でつるんでは何やらいろいろ吹き込んでるらしい。この前なんかそっと聞き耳立てたら、俺の子供の頃の恥ずかしい思い出やら何やらを(俺だってあの事は記憶から抹殺したいんだ!)得意げに吹聴してたので、あわてて止めに入った。
 もちろん藤掛はそんな事で態度を変える奴ではなかったが(少なくとも外見上は)…。ああ、俺の絶対知られたくない秘密を握られたのかもしれない、と思うと内心おだやかでない。
 そして今度はいったい何を吹き込んだのやら。純真無垢な藤掛は染まりやすいところがあるから、あんまり変な事を教えないでくれよぅ…。
 下乳からなんとか目を逸らそうとすると、その向こうからちらちらブルマーが垣間見える。そこから伸びた太腿がほどよく肉付いて以前よりむっちりしているのが目に入ってますます俺の動悸が激しくなった。藤掛は俺の視線に気づくと、ハッとなってあわてて手で裾をつかみ、力づくで体操服をひき降ろそうとする。あ、そんな無理したら――胸を覆う布地の部分が一層引き攣れていく。元々布の量が圧倒的に足りないのだ。白い布地がますます引き伸ばされて薄くなり、ぴったりとおっぱいに貼りついて胸の線がくっきりと浮かび上がってくる。もはや服を着ている意味がないのではないかというぐらいどこもかしこもむちむちと張りつめて、今この瞬間にもはちきれてしまいそうだ。
 藤掛はなおも両手を胸の下で、裾を掴んだままもじもじとさせながら、そっと俺の顔を覗きこむように訊いた。
「ね、秋山くん、こういうの、きらい? あの、きらいじゃなかったら、わたし、秋山くんと――」
 そこまでで口ごもると、そのまま何も言わずに体をこちらに倒してきた。膨らみきったおっぱいがぐんぐん目の前に近づいてくる。俺の興奮は極限に達し、たまらず股間に強烈な電撃が突き抜けていった――。

 ――やっちまった。
 俺は今度こそ本当に目を開いた。もちろん部屋はいつもの通りの散らかりぶりで、藤掛の姿はない。すべては、俺の内なる欲望が生み出した、夢、だった。
(藤掛が――こんなことする訳ないのにな…)
 下着の中にどろりとした生暖かいものを感じながら、俺は体を起こした。早いとこパンツをなんとかしないと…。
(それにしても――強烈だった)
 でも起きた頭で冷静に考えると――今の藤掛が高校時代の体操服を着たら、あんなものじゃ済まされないと思う。絶対入りきらなくて、下乳どころか乳首まではみ出しちゃって…。
 俺はまたどろどろのパンツの中で自分のものが屹立していくのを感じた。先っぽにぬるっとした感触が伝わって気持ち悪い。いかん、何やってんだよ――俺は自分が情けなくなってきた。試験まであと5日だっていうのに…。

 俺の2度目の受験は目前に迫っていた。第一志望は――もちろん藤掛が今通っている大学だ。思えばこの1年、俺はこのことが心のどこかにひっかかり続けていた。どうしても藤掛に引け目を感じている気が――2人の関係がいつまでも進展しないのもそんな所に原因があるのかもしれない。合格することによって、初めて藤掛と対等な関係になれるんだ――そんな感じが頭の片隅から離れなかった。だからこそ今はすべての雑念を払って目の前の試験のみに集中しなけりゃならないのに――ちょっと気を抜くとすぐこの体たらくだ。このような夢精も一度や二度ではなかった。
(こんなんじゃ――去年の二の舞だよ)
 俺の実力じゃ、ほんとに必死こいてやらないと正直合格は危うい。模試の結果は常にボーダーライン上を行ったり来たりして、最後まで合格ラインに安定する事はなかった。
 ただ、当の藤掛本人に最後に会ったのはいったいいつだったか…。ここに来て急激に会う機会が減ってきた。かつては毎日のように会って一緒に勉強してたのに、いつからだろう――。

 そう、あれは――法事で3日ほど家を空けていた時だ。夜も遅くに帰ってきたら家の前に藤掛が待っていて――俺を見るが早いか一目散に飛びついてきて…。まるで自分から体をぐんぐん押しつけてくる感じで、明らかにそれまでと様子が違っていた。
 もっとも、しばらく抱きつかれているうちに相手の体が妙に熱いことに気づいた。一旦引き離して額に手を当てたら、藤掛の奴すごい熱で、もうふらふらだった。「ふつーだよ」いつにないテンションでそう言い張っていたけども、そう言う呂律もちょっとおかしい。だんだん足許もおぼつかなくなってきて到底ひとりでは帰れそうもなかった。だからほとんど抱きかかえるようにして家まで送っていったんだけど――。
 藤掛の両親に会ったのはこの時が初めてだった。母親はやさしそうな普通の人だったけど、父親の方が――まるで俺を目の敵のようにじっと見据えていたのが忘れられない。
「えーと」
 その目に射すくめられて俺が状況説明に窮していると、いつの間についてきたのか、姉貴がとっさに後ろから割って出た。
「はじめまして。わたし、理沙子さんの友達の秋山みゆきって言いますけど――、あ、これ弟で、ちょっとわたし一人じゃ大変なんで手伝わせました。理沙子さん、なんか具合が悪いみたいでしたので…」
 てきぱきとした状況説明に父親の顔があからさまにほっとしたのが伝わってくる。この時ばかりは姉に感謝したくなった。「それはそれはどうもありがとうございます」その時になって娘の様子がおかしいことにやっと気づいたらしく、途端におろおろし始めた。「理沙子、どうしたんだ――やっ、すごい熱じゃないか。母さん、おい母さん…」

 藤掛はそれから2日ほど寝込んでいた。それからだったと思う、彼女の態度がどこかよそよそしくなったのは。一緒にいてもなにか考え事をしている事が多くなり、どこか近よりがたいような雰囲気が感じられた。嫌われている訳ではなさそうだが、常に一定の距離を置いて、どうしてもあと一歩が踏み出せないかのようなもどかしさがあった。――そうするうちに冬が来て…年明けにはまた例の天神様に2人で行ったのだが、今度は何事もなくあっさり終わった。何より藤掛が妙に無口だった。何度となく何かを言い出そうとしたのに、結局言い出せずに口ごもっているかのような…。

 俺と藤掛の間は、受験が近づくにつれてますます疎遠になっていった。俺自身、受験以外の事を極力頭から放り出したかったこともあるが(そこら辺の集中度は去年とは比べ物にならなかった)、藤掛の方も、あんなに頻繁に来てたのに近頃は電話すらほとんどしてこない。もちろん、ひょっとしてこのまま…と不安にさいなまれる事がないでもない。だけど、一方でありがたくもあった。もし藤掛がそばにいたら――いつまた俺の欲望が暴発するか分かったものではなかったから。以前のように頻繁に会っていたら、とてもこんな風に勉強に集中できなかったろう、藤掛もそれが分かっているから来ないんだ――不安でたまらなくなった時、自分を無理矢理そう納得させていた。しかしそんな晩は、必ず藤掛が夢に出てきた。そして実際には見たこともないような肢体で俺に迫り、朝必ずパンツを汚して目が覚めてしまう…。

 試験の前日。俺はとうとう居ても立ってもいられなくなって藤掛の家に出かけてみた。しかし、玄関の前まで行ったところでどうしていいか分からず立ち止まってしまう。まったく連絡もなしに勝手に来たのだ。家にいるかどうかも確認してないし、ベルを鳴らしてもしあの父親が出てきたら――あの目は、俺の存在を歓迎してない事は明らかだった。――いや、なによりも、藤掛に会っても何を話していいかわからなかったのだ。おそらく今の俺、すごい情けない顔してるだろうな…。
 迷っているうちにいきなり玄関が開く。予期せぬ展開にあたふたと身を隠す場所を探していると、中から当の藤掛が出てきた。藤掛は、なすすべもなく立ちすくむ俺を見つけて目を丸くした。
「秋山くん、どうしたの?」
「あ、や、やぁ、元気?」
 我ながら情けない返事だった。さらに情けないことに、俺の目はそれでも藤掛の胸に釘付けになってしまったのだ。
 久しぶりに見る藤掛は、まさに夢に出てくる以上だった。着膨れしているのにも関わらず、胸がおそろしいまでに盛り上がっているのがはっきりと分かる。服の下にどれほど大きなふくらみが隠されているのか、想像もつかない。俺はそれだけでのどが鳴りそうになるのを必死でこらえた。
 それきりどちらが話すでもなく沈黙が流れる。藤掛の視線が痛い。いかん! こんなことじゃ、また勉強に手がつかなくなっちまう。俺はむりやり口を開いた。
「いや、ちょっと久しぶりに一緒に勉強でもどうかなーと…」
「なに言ってんの。だって…明日はいよいよ本番でしょ。試験会場にわたしがついて来れる訳ないし…ひとりでがんばんなきゃ」
 藤掛の声はいつになく冷たかった。それはそうだが――どこかいつもの藤掛じゃない。自分が受験する訳でもないのに、妙にぴりぴりしている。
「じゃ、ごめん。わたし――急いでるから。――またね」
 それだけ言うとさっさと俺の前を通り過ぎていってしまった。とりつく島もない。俺はただ呆然としてその後姿を見送っていた。

 明けて試験当日。俺はひとり藤掛の通う大学に向かった。眠い。きのうのあの態度が忘れられず、夜、どうにも寝付けなかったのだ。試験前夜は早めに寝るのが鉄則だけど、眠れもしないのにじっとしてるのは時間がもったいない、と、思い切って机に向かい、参考書をでたらめに開いた。そんなことをしていたもんで、結局明け方の2時間ほどしか寝てない。
 冬の低い太陽が目に入ってまぶしい。自分が受ける教室を探しながら目をこすっていると、いきなりよく見知った顔を見たような気がした。
(え? 藤掛…?)
 その大きな眼鏡に長い髪――なにより胸から山のように突き出した超特大のバストが藤掛を思い起こした。まさか、な…。俺は頭を振った。受験のこの時期、すべての講義は休みになってるはずだ。そうだよ。彼女が試験会場にいる訳ないじゃないか。念のため見えたと思った方向にじっと目を凝らすが、それらしき姿はもうどこにもない。
(やっぱり自分の妄想か…) 一目でも会いたいと思う願望が勝手に目を錯覚させたのだろう。
 また妄想が頭の中いっぱいに拡がってくる。俺は手を上げると自分の頭を思いっきりこずいた。バカヤロ、少なくとも今日1日は、そういうのは全部締め出せ! でないと――このまま1歩も先に進めなくなるぞ。
 最初の試験は苦手な世界史だった。開始のベルが鳴る。あくびをかみ殺しながら問題用紙をめくった途端あっと声を上げそうになった。ゆうべ、眠れずにやけくそになって復習したところが並んでいたのだ。ヤマを張るつもりはなかったが、問題を読むそばから勝手に回答が浮かんでくる。
 ついてる! いけるぞ!! 俺はようやく目の前の答案に集中していった。

 ――――――――――――

「なんだ、また来たのかよ。今日は大学ある日じゃなかったっけ?」
 次の日から俺は、糸が切れたように家でふぬけていた。一応試験は終わった。だからなんだというのだ。合格が決まった訳でもないし、落ちればこの1年はまったくの無駄骨に帰す。受験が終わったような終わらないような宙ぶらりんな気持ちのまま、何もする気が起きなかった。しかしそんな自堕落な空気を蹴破るように、姉貴がまたいきなりやって来て俺の部屋を襲撃してきた。
「ざーんねんでした。うちのガッコも今受験で休みだよ。で、理沙ちゃんはどうしたの?」
「え、来てないよ、近頃。もうここしばらく会ってない」
「えーっ、どうしたのあんた。まさかまたケンカしたんじゃないでしょうね」
「しらねーよ。ま、なんとなく…」
 毎度のことにつきあってらんねーやとぞんざいな返事をすると、姉貴は珍しくまじめそうに眉をひそめた。
「信一。ちょっと…それ、やばいんじゃない?」
 真剣な口調が俺の神経を逆なでする。わかってるんだ。けど――ようやく試験が終わり、思った以上に疲弊した今の状態で、そんなことを考えること自体が苦痛だった。
「どーすんのよあんた、理沙ちゃんみたいないい子、もう絶対現れないよ」
 姉の言葉がさらにのしかかってくる。不意に試験前日に見た冷たい顔が目に浮かぶ。ひょっとしてあれが最後かも…という考えがちらついた。
 ――だめだ。考えようにもその気力がない。無理矢理姉貴を部屋から追い出すと、天井をただ見つめた。
(もうだめなのかな、俺…)
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