次の日、理沙子は午前中で講義が終わると、そのまま新宿まで足を伸ばした。きのうの朝母親に教わった、例のランジェリーショップに行ってみようと思い立ったのだ。
(なんだか家にいても、勉強に手がつきそうにないし…)
 結局きのうはあれからずっと、いろんな事が頭の中で空回りするばかりで何も手につかないで終わってしまった。たった1日、秋山くんに会えなかっただけで――いつの間にか、こんなにも自分の心の多くを秋山くんが占めていただなんて、驚くしかなかった。
 いっそのこと外で気を紛らわそう、そう思っての行動だった。実際、ブラジャーの事は一刻の猶予もなく必要に迫られていた。今してるのだって、きのうからどうにもきつくてすぐ息が切れてしまうほどなのだ。ここに来れば、オーダーすることなくその場で手に入るという――確かにすごいことだった。

 新宿の片隅に立つそのビルの中に一歩踏み入れただけで、理沙子はその想像以上の広さにびっくりした。それは今まで理沙子が行ったどの店とも規模が一段違っていた。いくつものフロアいっぱいにさまざまな大きさのブラジャーが並んでいる。それも普通の店じゃ絶対お目にかかれないような特大サイズのものばかりなのだ。
(これぐらいかな)理沙子は手ごろそうなひとつを手にとってサイズを確認する。しかし――一見すごく大きく見えたそれも、理沙子が今しているものよりまだ小さかった。
(もっと大きなサイズは――あ、あっちかな)
 天井に吊るされた案内板を見ながら、より奥のコーナーへと足を運ぶ。ここら辺かな?と思ったあたりに先客がひとりいた。自分と同じぐらいの年恰好でやはり眼鏡をかけている。その横顔には確かに見覚えがあった。あれは…
「あれ、理沙ちゃんじゃない。奇遇ぅー」
 一足早く、相手もこちらの姿を認めてちょっと驚いたように声を上げた。
「恋ちゃん――」
 高校時代の同級生、大塚恋がそこに立っていた。会うのは夏以来だったろうか。でも常に明るくはきはきしたその様子は相変わらずだった。自分みたいにうじうじしてない、理沙子にとっては密かにあこがれている存在だった。
 その時、恋の腰の辺りからひょっこりともうひとつ顔が現れる。それまでちょうど恋の体の影に入って見えなかったけど、弟の正太郎くんだった。
「正太郎くんも…」
 相変わらず女の子みたいにかわいらしい。ヨーロッパの方では可愛い子供の事を"砂糖菓子"なんて呼んだりするけど、正太郎くんはまさしく"砂糖菓子"だ。ふわふわと細くやわらかそうになびく髪は、本当に触れたら溶けちゃいそうな感じがする。
「ひさしぶりだね、お姉ちゃんのこと憶えてる?」
 腰をかがめて目線を合わせるようにして話しかける。けど正太郎はなぜかちょっとむすっとして向こうを向いてしまった。けどそのふくれた顔がまたかわいらしい。
「正ちゃん、最近子ども扱いされるとすぐふくれちゃうんだよね。もう中学生なのにいつまで経っても子供みたいでさ」
「え?そうなの?」てっきり小学校3年生ぐらいに思ってた。おそらくクラスでも一番小さいんだろう。でも、きっとクラスの女子にもてるだろうな。
「しかし理沙ちゃんも成長したね」
「恋ちゃんこそ…」思わずその大きく盛り上がった胸を見つめてしまう。恋の胸は高校の頃から飛びぬけて目立っていたけれど、しばらく見ないうちにさらに見違えるほど大きく膨らんでいた。
「なに言ってんの。やっぱり理沙ちゃんは一番のライバルだね。こっちもずいぶん大きくなったつもりだったけども、こうして並ぶと――うーん、負けちゃいそう。でもやっぱり理沙ちゃんもここのブラ使ってるんだ。今まで会わなかったね」
「ううん、わたしは今日が初めて」
「そうなんだ。わたしは卒業するちょっと前ぐらいからかな。いや、ここはいいよ。オリジナルブランドでわたしぐらいのサイズでもちゃんと置いてあるんだもの。その場ですぐ試着できるってのがいいね。理沙ちゃん今何カップ?」
「え…あ…」いきなりの質問にしどろもどろになってしまう。今しているブラはもうきついし、もう――2サイズぐらい上を言えばいいんだろうか。とすると…。
 こっちがとまどっているうちに、恋はさっさとそばにあったブラをひとつ手に取っていた。
「理沙ちゃんにはこれがいいんじゃない?」無造作に出してみたのは、思った以上に大きなカップのものだった。
「え、わたし、こんなには…」
「大丈夫だよきっと。実はこれ、わたしが今使ってるサイズなんだけどさ、理沙ちゃん、見たところ大体同じぐらいの大きさだから…。試しにつけてみたら?」
 理沙子はむりやりそのブラを手渡されると、勢いに負けて試着室に押し込まれた。

「あ、ぴったり――」その強引さに半ばとまどいながらおそるおそる着けてみると、意外なことに大きくも小さくもない。すっと自分の胸に差し込まれるようにフィットして違和感がない。なんというつけ心地だろう。胸全体をやさしく包み込むように支えてくれた。それとともに自分の胸が思ってる以上に大きくなっているのを実感させられた。というかきのう今日だけでまた2まわりぐらい大きくなってしまったのかもしれない。
「どう?」
 外から恋が声をかけてきた。
「恋ちゃんすごい。これぴったり」
「やっぱりね」
 結局そのブラをつけたまま会計を済ませる。あんまりにぴったり心地よかったのでもう外したくなくなってしまったのだ。さらにもう2着、同じサイズのブラを買うとお財布はきれいさっぱり空になっていた。
 それまでつけていたブラを、持っていたトートバックの中に押しこむ。巨大なカップがつぶしきれず、不恰好にふくらんでしまうけどしかたがない。
 それを見て恋がニヤッと笑って「やったね」と話しかけてきた。
「わたしもそれよくやっちゃうんだ。ここで買うと、あんまり付け心地がいいんでもう一刻でも前のつけてられなくなっちゃうんだよね。理沙ちゃんもきっとここの常連になるよ」
 理沙子は頬笑んだ。「ほんと。すごいですね、ここ。こんな大きなサイズが並んでるなんて…。いったいどれぐらいまで大きなサイズがあるんだろ」
「それがね、なんでもわたしたちですら思いもよらないようなスーパーサイズのブラもここにはあるんだってよ。さすがに特注だけどね」
「そんなのつける人いるの?」
「うわさだけどね。なんでもわたし達より年下で、まだ高校生だとか…」
「まっさかぁ」2人でにこやかに笑いあった。

「ねえ、お姉ちゃん」
 ふと、正太郎くんが姉の手を引っぱる。そういえば買い物に夢中ですっかりその存在を忘れてた。お姉ちゃんと一緒とはいえ男の子がこんな所に連れてこられて、退屈してたんじゃないかな。何やら訴えかけるような目で姉の顔を見上げていた。
「なに、正ちゃん…」じっとその顔を見て、なにやら察したようにうなづいた。
「なんかすっかり長居しちゃったね。じゃあ、わたし達もうそろそろ…。理沙ちゃん、またね」
「あ、うん…また連絡するね」
 恋たちは手をつないだまま去っていった。相変わらず仲よさそう…。理沙子は、思いもかけずいい買い物ができて、気分よくその余韻を楽しむかのようにそのまましばらく店内をぶらついてみた。けど慣れない場所で勝手に動くもんじゃない、そろそろ帰ろうと出口を探してみると、自分がどこにいるんだかさっぱり見当がつかなくなっていた。迷ったのだ。広い店内で、どこに向かっていいか分からず手当たり次第に歩いてみる。
(ここかな?)とそれらしきドアに当たりをつけてみたのだが、開けた向こうはなんだか薄暗い部屋で到底出口があるようには見えない。それにどことなく入ってはいけない雰囲気に満ちていて、あわてて身を引こうとした。
 しかし――その時なんだか奥の方に人の気配を感じた。気になってもう一度覗き込む。誰かいる――?
 目を凝らすと思いもかけずさっき別れた恋の横顔が浮かび上がる。恋ちゃん、こんなところで何してんの?と声をかけようとしてハッと身構えた。いつもの恋ちゃんじゃない。その目は何かにとりつかれているかのように宙を舞い、あえぐような声すら聞こえてくる。なにより――服がブラごとずり上げられてその大きなバストがすべてさらけ出されている上、その胸に2つの小さな手がのびて懸命にまさぐっているのだ。その手の先には、必死そうに光るかわいらしい目が2つ――正太郎くんだった。
(れ、恋ちゃん…、いったい――何やってんの!)
 体がびくんと揺れて鼻の上で眼鏡が踊る。理沙子はそのまま息を呑んで動けなくなった。ただ目だけはまばたきすらせずに2人を見つめ続ける。
「お姉ちゃん、僕、もう我慢できないよ」
 押し殺したようなくぐもった声だった。それだけに必死さが伝わってくる。
「正ちゃん、ね、ここじゃ…。お家に帰ってからね、いい子だから」
 恋のなだめるような声が響く。しかしその声には力がなかった。
「僕は…僕は、もう子供じゃないよ」
「だ、だめだったらぁ…」
 そう言いながらも恋は正太郎の手を払うでもなく、思うに任せていた。頬は次第に上気して赤くなり、息遣いも徐々に荒さを増していく。その大きくふくらんだ胸はまるで生きているかのようにぐにぐにと絶えず形を変えていく。正太郎は片方だけで自分の頭よりはるかに大きいその乳房に身体ごとあずけるようにいどみかかり、両手をいっぱいに広げてもみまくっていた。
「だめ…正ちゃん、そんなにしたら…また、おっぱい大きくなっちゃう…」
 恋の言葉はますます余裕がなくなっていく。何か切羽詰っていくようだった。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんだってずっと我慢してたんじゃないの?」正太郎は小さな掌を恋の胸の先で今まで以上の力で握り締めた。「はうっ!」恋の口からたまらずうめき声が漏れる。
「おっぱい、すごい張っちゃってるよ」
「やめて…ここじゃ、ね。お家帰んなきゃ」
「僕…お姉ちゃんのミルク飲みたい」正太郎はなりふり構わず恋の胸をぎゅっと鷲づかんだ。
「あ…だめ、あ、あ、そんな――乱暴にしちゃ…おっぱい、あふれちゃうぅ」
 言うが早いか、恋の乳房の先から遂に耐え切れなくなったかのように白いものが幾筋も勢いよく噴き出てきた。正太郎はそれを見ると、むさぼるように大きく口をあけて恋の乳首を含み、ちゅぱちゅぱと音を立てて吸い始めた。
「しょ、正ちゃん、いい――お姉ちゃんのおっぱい、もっと吸って――」
 恋の表情がそれまでとはみるみる変わっていった。自らの快楽に支配されていくかのように、恍惚としていく…。
 正太郎も、姉のミルクを一心に吸いながらも、いても立ってもいられないかのようにばたばた足を跳ねさせている。息も急激に荒くなっていく。半ズボンの前はいつしか突き刺すように尖り、痛々しいほど膨れていた。正太郎は一旦口を姉の胸から離すと、一刻の猶予もないかのように手探りでベルトを外してズボンを勢いよくずり下げた。その下から、細いながらも力強いものが、天を突き上げんばかりにそそり立つ。
「お姉ちゃん…。いいでしょ…」
 正太郎の腕が姉の下半身に伸びる。恋はもう抵抗しようとしなかった。よく発達した下半身を包み込んだGパンのベルトを外すとジッパーを下ろし、そこに手を差し入れた。

 理沙子はそれまで動かず――いや、動けずに2人の一挙手一頭足をじっと見つめていたが、ここに至って遂に堪えきれなくなって背を向けた。足がガタガタと震えて崩れそうになるのをなんとかこらえて、物陰に身を潜めて壁にもたれかかった。
(しょ、正太郎くんは弟じゃないんの――。姉弟で、そんなこと…)
 どうにもドキドキが止まらない。今買ったばかりのブラジャーが急激にきつくなっていくのを感じたが、自分ではどうしようもできなかった。直視しなくても、今もなお背後からは2人のますます激しくなる息遣いが聞こえてくる。もう誰もが踏み入って来れないような世界をあたりにかもし出していた。
(あ、あ、だめ…)
 理沙子は自分の胸がカップの中で急速に膨らんでいき、ブラを極限にまで引き伸ばしていくのを感じた。
 いけない!これ以上ここにいたら、おっぱい大変なことになっちゃう。動かない足をどうにか必死で踏み出してみる。感覚がまるでない。まるで自分の足じゃないみたいだ。油が切れたかのように関節がきしみをあげるのを聞きながら、どうにかその場から離れ、誰もいない建物の隅まで来てなんとか荒げた息を整えようとした。
(だめ、落ち着いて…。これ以上ドキドキしたら、わたし…)
 しかしその時、遂に耐えきれずブツンと音を立ててホックがひとつ飛んだ。ああ、買ったばっかりなのに…。ブラのホックを飛ばしたのは、今年の正月以来2度目のことだ。あの時は秋山くんに胸をさわられたからだけども、今日は一人で勝手に…。

 とにかくここを離れなきゃ、とわき目も振らずに家に帰った。しかし部屋で自分の机に向かった後になっても、緊張はまったく解けない。頭の中に焼きついた映像が何度も何度もリバースされて止まらなくなってしまった。
 つい半年前まで同級生だった、仲のいい友達の秘密…。あんな、本能のままのような表情、想像もできなかった。(恋ちゃん、なんで…うそでしょう!) とにかくショックで、他には何も考えられない。
(いやらしい――)心の中でそう叫びながら、自分の体の芯がしびれるように熱くなっていくのを止めようがなかった。自分で見る事を拒絶してその場を去りながら、あの後2人がどうなったのか、気になって気になってしょうがないのだ。
(弟って…ああいうものなの?)
 兄弟のいない理沙子には見当がつかない。あのかわいらしい瞳の奥から、野獣のような猛々しさがあふれだしていた。そしてその細い腰から思いっきり突き出したあれ――。あんなものは初めて見た。自分にはないもの――強い拒絶反応を起こしながらも、一方でのどの奥がからからに渇いていくような渇望を感じ始めていた。
(いやらしいのは――わたしだ…)

 ――――――――――――

「ずいぶんと久しぶりね。その後どう?」
「あ、はい…。ご覧の通り、です」
 ゆうべは結局一睡もできなかった。朝になったらいよいよ熱が出てきたような気がして、理沙子は大学を休んで病院に行った。そうしたら――この先生と鉢合わせしてしまった。
 結局立ち話もなんだから、と心療内科に連れて行かれて半ば無理矢理に診察されてしまう。この先生に診てもらうのは1年ぶりだ。1年前、どんどん大きくなる胸に不安を抱いた母親に引っぱられるようにこの病院に来て、結局この、若いけども優秀な女医として評判の先生に診てもらい、そして――自分の例の体質について知らされたのだった。

 理沙子は上半身裸にされて、胸を丹念に触診されていた。いくら同性の医者とはいえこのようにされるのには抵抗があって、だから1年も来なかったのに…。
 一通り診察も終わり、服を着る理沙子を観察しながら、先生は内心驚きを隠せなかった。
(それにしても、この胸の成長っぷり、想像以上だわ――。ひょっとして…)
 脳裏にふとあることが思い当たった。
「ねえ藤掛さん」
「はい?」
「あの、間違ったらごめんなさい。あなた、今――好きな人がいるんじゃない?」
 え、と短い驚きの声が上がって、そのまま顔が見る見る赤くなって恥ずかしげに俯いた。ただその一言だけで――理沙子はなんだか胸が張りつめていくようだった。
「あ、ごめんなさい、いきなり驚かしちゃった?」そう言いながらも、その反応の大きさに驚いていた。
(だいぶ重症みたいね) 先生はわずかにうなずくと、相手をはげますように言った。「あのさ、そういう人がいるんだったら、思い切って自分からぶつかってったら。藤掛さんを嫌う男の子なんてそうそういないわよ」
 そう言われて、理沙子の頬はますます赤く染まっていく。
「え、あ、あの…。その人とは、つきあってるっていうか、なんていうか…」
 なんか引っ込みがつかなくなって、理沙子は秋山くんとの事を一思いにしゃべっていた。途中相槌を入れながらも、先生は最後までじっと聞いていた。
「うーんと、それじゃあ"友達以上、恋人未満"ってとこなのかな。その"秋山くん"とは」
(まあ、一番楽しい時といえないこともないんだけど、そんな宙ぶらりん状態、この子の体質にとっては最悪だわ) 口では相槌を打ちながら、彼女の体の中で何が起こっているか、先生はじっと考え込んでいた――。

 理沙子の体質は、性的な興奮状態が高まるとそれに反応して乳房を発育させるエストロゲンが一時的に大量分泌されてしまうというものだった。確かに精神の状態で各種ホルモンの分泌量が増減するのは普通のことだったが、ある特定のホルモンが、これほど急激にあふれ出るなんて症例は今だ聞いたことがない。その作用で、興奮すると乳房が劇的なまでに膨張してしまうのだ。さすがにその膨張自体は一時的なものだが、分泌したホルモンがなくなる訳ではないので、結果的に乳房は人並みはずれた成長を遂げることになる。
(思春期特有の現象と言えないこともないけど、これほど急激な例って聞いたことないわ。でも、一番の問題は、彼女が一貫して成績優秀な優等生できたことなのよね。いわゆる「よい子」なのよ。本人も気がつかないうちに、その"よい子"の枠にがっちり収まって今だ一歩も抜け出せないでいる。体はもう充分成熟した大人になっているのに、精神はいつまでも子供の殻を破れないで――というか性的なものに関心を寄せること自体に強い拒絶反応を起こしてしまっている。そのために頭と体の間にギャップが生じて、そこに大きなフラストレーションが発生しているんだけども…。だから今、彼女はちょっとした事ですぐ興奮しやすい状態にあるのに、頭ではそれを無意識のうちにさらに内に押し込もうとしている。結果として欲求だけが解消されずにどんどん溜まっていって――経験がないから、自分がどんなに欲求不満かってことが、きっと分からないでいるのね…。言ってみれば、そうして溜まりに溜まった性的な欲求が胸からあふれ出そうとして膨れ上がっているようなものなのに。それを開放してやれば、この胸の急激な成長も少しは落ち着くと思うんだけどなぁ)
 この状態をどう打開すべきなんだろう、と先生は考えあぐねていた。(いっそのこと、ちょっと荒療治だけど…) ある決意を胸に、表情を引き締めて再び理沙子と真正面に向き合った。

「藤掛さん」
「はい?」
「いい、これから話すこと、ちょっとショッキングかもしれないんだけど」
「はい…」何を言われるんだろう、とつい身構えてしまった。
「女の子にだって、ちゃんと性欲はあるのよ。もちろんあなたにもね」
「え、わ、わたし…そんな――」
 予想通りだ。認めようとはしない。しかしさらに必死で抵抗しようとするのを手で制した。
「聞いて。あなたのような真面目な子が、認めたくない気持ちも分かる。でもね、あなたはもう立派な大人の体なの」
 俯いたままじっとしている。
「ね、藤掛さん。あなた、自分のおっぱい、どう思う?」
「あ、はい…すごく、大きいと思います」
「でしょ。普通の人と比べてもずばぬけて大きい。これはもう、あなたの体が充分立派に成熟してる証拠なの。なのにあなた自身が自分の中の大人を否定して、子供の殻の中に自分を押し込めようとするから、体のほうが抵抗して、そうじゃないよ、ってどんどん自己主張しているの」
「この胸が…?」
「そう。だからね、あなたが、自分が大人であることを認めない限り、そのおっぱいはこれからもますます、際限なく大きくなってっちゃうわよ」
「そんな…」
「ほんとよ。すぐには分からないと思うけど、今先生が言ったこと、帰ってからじっくり考えてほしいの。きっと分かる日が来るから」
 それだけ言うと、先生はにっこりと笑った。
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