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第16~30話 ダイジェスト版



人間と魔物の争いが続く異世界『クラルカ』に転生し、アベルと名付けられたオレ。
長年育ての親であるじーさんこと、ヨーゼフ・アルベルトと過ごしてきたグルガの森を出て、アセナル王国の王都アルハイムに来てからそろそろ一ヶ月近くが経つ。
共に森を出てきた相棒、伝説の賢獣である王天虎ジンも街の人々にそれなりに受け入れられてきたようで、慣れた人なんかはちょっと大きなペット感覚でジンと接している。
ひょんなことから一緒に行動することになった鬼族の娘であるカザネに関しては、この世界中で忌まれている鬼族であることの弊害はいかんともしがたいようで、こちらについては好調とは言えない。が、これに関してはオレ個人でどうにかできる問題でもなし。カザネも最初から納得済みで受け入れていることなので、あまり意識しないようにしていた。
王都に来てから始めた冒険者稼業はすこぶる順調で、個人ランクならA相当であるパーティランクCの依頼を数多くこなしている。
討伐系の依頼が中心で、相応に危険な分お金も少しずつ貯まっていく。
ちなみに謁見のアレやコレや以来、王国から特に連絡はない。少し周りが騒がしくなるかなーと気構えていたオレとしては、拍子抜けした感があった。
まあ厳密には、「王国から」ではなく「王様から」というのが正確な表現で、王女様からはとんでもない贈り物があったのだが。

 ◇ ◇ ◇

現在オレ達が拠点としているのは『遥々亭』という宿屋。
そこの食堂にて、今やすっかり顔馴染となった人物が珈琲を啜っている。
「……本当に毎日来るのな。本職はどうした?」
魔術師然とした白のローブに、先端に魔石の付いたワンド。黄色っぽい髪をショートカットにしたその女性の名前はマリス・アルバ。
「むしろ私が聞きたいくらいです。一体いつになったら私はこの任務から解放されるんでしょう……正直、このままずっとほったらかしにされそうで、気が気でないんですが」
「オレに言われてもなあ」
一見するとどこにでもいる人間の魔法使いだが、頭部からは狐耳が生え、お尻からは狐の尻尾が伸びているのが彼女の特徴。
ほとんど人族だが、若干混じった狐族の血が先祖返りで色濃く出たらしい。
学園都市ディングルの魔法学院を優秀な成績で卒業し、エリート揃いと呼ばれる宮廷魔術師団に入り、その中でもトップクラスの実力を持つフィオリ・グリムに師事している――そうだ。
そんな彼女がどういう経緯か、王国からのアレコレを終えて数日経った頃、唐突に『遥々亭』を訪ねてきて、しばらくオレ達と行動を共にさせて欲しいと言い出した。
聞けば、フィオリさんと王女様に、オレが本当に英雄ヨーゼフ・アルベルトの息子であるか確かめてこい、と言われたらしい。
「確かめるってどうやってさ」と聞いたら、目尻に涙を浮かべて「私だって知りません!」と怒られた。
ちゃんと結論が出るまでは、従来のマリスの仕事が全てフィオリさんに奪われていて、教えを授かることも出来ないそうで、なんというか、ご愁傷様である。
ともあれ。そんな魔法使いのマリスとオレ、賢獣のジンに剣士のカザネ。ここ最近は、こんな編成で冒険者稼業を営んでいた。

 ◇ ◇ ◇

マリスと共に行動をするようになってしばらく。まるで達成できる目処の立たないマリスの任務とは反対に、すこぶる順調に日々の依頼をこなしていたオレは、ある日とある女性と街中で出会う。
艶かしい褐色の肌に赤い瞳。ウェーブがかかった銀の髪に長く先端が尖った耳に女性らしい豊かな身体付き。
何がとは言わないが、今まで見た中で一番大きいんじゃないだろうか。
彼女の名前はナーディア。ダークエルフという種族の女性で、オレが王都に来たその初日に向かった花街でお世話になった人だ。
オレとじーさん以外、人っ子一人いない森での生活以来の、有り余るリピドーを遠慮無くぶちまけてしまった相手なだけに、彼女との思いがけない再会は中々に気恥ずかしいものがあったが、気さくな彼女の気質も手伝って、少し話すとすぐに打ち解けた。
近況を話し合ったり初対面の際のことを茶化されたりといった会話の折、オレはナーディアさんからとある提案を持ちかけられる。
提案の内容は、端的に言ってしまえば愛人契約しませんかというモノ。
お世話になった時の、無駄に漲る猿のような若さを受けての提案で、正直カザネ一人では身が持たないだろうということもあり、多少悩みはしたものの互いに利益のあるこの提案を受けたオレ。
……いやごめん。本当は全然悩まなかった。エロいお姉さんがオレのモノとか言われてほいほい飛びついた。
そうして成り立った契約ではあるが、現状オレは宿屋暮らしの根無し草。彼女を雇うにしても、受け入れる場所が無いのではどうにも格好がつかないので、とりあえずのところはお試し。試用期間という形で彼女と付き合うことに。
このお試し期間、オレが彼女を気に入ってやはり、となれば正式に。やっぱりいいや、となれば断っても構わないという、非常にこちらに都合のいい条件であり。正直こんな好条件でいいのかな、とすら感じて尋ねたりもしたのだが、彼女の言によれば「気に入らせる自信があるから」だそうである。女ってこわい。
―――ちなみにお試し期間の結果は、案の定と言うかなんというか。流石の手練手管でした。すごかったです。


 ◇ ◇ ◇

こんな調子で、全てが思い通りとはいかないまでも、昼も夜も快適なオレの冒険者生活が訪れようとしていた――のだが。
世の中そう上手く転び続けるはずもない。
しばらくして、現状のパーティランクCのままでは、普通に生活するには問題ないが、ある程度大きな額のお金を稼ぐのは難しいと気付いた。
そこでオレは、やや性急ではあるものの、パーティランクBへのランクアップを申請すべくギルドに向かうことに。
何よりこのままじゃ、ナーディアさんを雇うための金が貯まらん。

ギルドで昇級の件について話してみると、オレたちの担当であるエルフ族のマール・アスペリアさんは、異例のハイペースでの昇級について非常に困ったようではありながらも、長であるギルドマスターに相談してくれるそうで。
後日改めてギルドに赴いてこの件についての話を聞いたところ。オレの昇級は試験としては普通の昇級試験――目標であるBランクの依頼を行いつつ、一緒に依頼をこなす冒険者にオレたちの試験官を担ってもらい、彼らがオレたちのことをBランクでも充分やっていけると判断したら昇級させてくれるらしい。
依頼の内容は魔物領への物資運搬で、依頼主はアセナル王国。
隙あらば魔物領から領土を削って国土を広げていきたい王国が、その下準備として進軍してもすぐに補給や砦の設営なんかができるように、予め色んな物資を進軍予定地に仕込んでおいてね。というモノ。
まあ依頼の中身や事情なんかは、これを受けなきゃ昇級できないこちらにとって大して意味のあるものではない。情報として頭の隅に留め置きながらオレは一も二も無くこの依頼を承諾。
依頼の期間は予定では二週間ほど。場合によっては更に長引く可能性もあるということで、オレたちに帯同しているものの正規のメンバーではないマリスはこの件についてどうするかを、上司へ報告連絡相談に。
カザネは初めての魔物領ということで、武具の整備を入念に。
オレはナーディアさんに今回の依頼でしばらく会えなくなることを報告したり、ジンと一緒に依頼中の快適な食生活の為、調味料や保存食などを買いあさったり。
各々其々、思い思いの準備を行いながら依頼開始のその日を迎えるのだった。

 ◇ ◇ ◇

物資運搬クエスト初日。
待ち合わせ場所で待機していたオレとカザネとジンは、そこで初顔合わせとなる、今回一緒に依頼をこなし、オレたちの昇級試験の試験官ともなる冒険者。Aランクのパーティ『バリエッタ』と出会う。
BランクではなくAランクのパーティであるのは、近頃の魔物領から流れ込んでくる魔物の数が普段より多くなってきている為、安全面を考慮して念には念を、ということらしい。
バリエッタのリーダーで、『爆心地』の二つ名を持つ大槌使い、ゲオルグ・ハックマン。
サブリーダーで、同じく二つ名持ちの魔法使いである『慧眼』ケイムス・シーケンス。
狼族と人族のハーフで、機動型前衛のドルトムント・サーヴルフ。
猫族であり、スカウト技能のスペシャリストのミーア・ココット。
魔力を矢に変える魔道具を持つ弓の名手、人族のローザ・エルセリア。
そして全員の代役を務められる万能型戦士のクラウス・レクスリー。

以上六名からなるバリエッタのメンバーと挨拶を交わしたところで、オレは彼らの紹介を行ってくれたマールさんから、今回の依頼に突如加わることになった更なる同行者を紹介される。
アセナル王国の第二王女。マルグリット王女付きの近衛騎士ランスロット・オリガと、宮廷魔術師のマリス・アルバの二名。
同行する理由は、最近魔物領がやたら騒がしいので、丁度魔物領に向かうオレたちに同行して魔物領の様子を見たり、直に魔物と対応している要塞の兵士たちから事情聴取をする為……らしいが、人選が人選なので、その理由を額面通り素直に受け取れるわけもなく。
この依頼を受けるまで、オレの身元調査の為に派遣されてオレに引っ付きまわってたマリスと、マリスにそんな任務を課した張本人の一人であろうマルグリット王女の近衛であるランスロット。
マリスはつい先日まで、ランスロットは以前王城に出会った時にちらりとではあるが、どちらもオレの顔見知りということもあり。
この二人が今回の依頼に同行するということに、オレは非常に面倒くさそうで胡散臭い気配を感じて恐々しながら、今回の依頼を開始するのだった。


◇ ◇ ◇


魔物領までの道中は、運ぶ物資を積んだ荷馬車の護衛もあるとはいえ、オレたちだけでなくAランクのパーティまでいる以上問題も起こらず、非常に順調な道程となった。

監視してます!といった様子を隠しもせず、ふと気付けばこちらを注視しているランスロットにはそれなりに気疲れさせられたが、それも次第に慣れて気にならなくなる。
オレのことを思いっきり監視してる。という点以外は、依頼について変に口出したりもしないし、道中の役割分担も依頼主だからと特別扱いをよしとせず、平等に――どころか女性陣の分も一部受け持つくらいの率先ぶりで、しかもそれらをきっちりこなす流石は王女様の近衛騎士といった有り様だから、正直以前王城で出会った時はあまり良い印象を抱いてなかったオレとしては、ランスロットに対する印象が大幅に上方修正されたくらいだ。
間を見て今回の同行の真意なんか聞きたいと考えていたものの、そちらに関しては機会に恵まれなかった。
バリエッタの面々との関係も良好で、猫族としての種族性なのかジンの正体に気付いたミーアさんを中心にそれなりに良い雰囲気で道中を過ごすことができた。
これは百戦錬磨のAランクパーティなだけあって、見知らぬ相手やワケありの相手と同道することに慣れているのか、オレと王国の関係について探りを入れてくることもなく、鬼族であるカザネのことにも特に触れることなく、ビジネスライクな淡白ではあるが交流を深めやすい空気を作ってくれたバリエッタのお陰だと思う。

そんな調子ですこぶる順調に依頼は進行し、オレたちはアセナル王国と魔物領を隔てる境い目、魔物領から王国を護る盾の一つであるティグルス要塞へと無事辿り着く。
ここで一泊し、明日からはいよいよ依頼の本番である魔物領――というその晩。
オレはここにきてようやく、ランスロットから彼が何故今回オレたちと同道したのか。その理由を聞くことになる。
とは言ってもそれは陰謀渦巻くドロドロしいものというわけではなく。要約してしまえば今回の依頼に王女様の信頼厚いランスロットを同行させることで、オレが本当にじーさん――昔アセナル王国を魔物の大侵攻から救った英雄である、ヨーゼフ・アルベルトの力を受け継ぐ息子なのかどうか。いい加減白黒ハッキリつけてやる。というもの。
そういう経緯に至ったランスロット側の事情やら何やらも色々と説明してもらったものの、ざっくりと言ってしまえばそんな感じだ。

血こそ繋がってはいないが、オレはこの世界に生れ落ちて赤ん坊の頃から育ててくれたじーさんのことを実の親だと思っているし、そのじーさんが森を出たオレに自分の全てを教えた。なんて書状を託してくれた以上、じーさんの力を受け継ぐ者だってことを否定するつもりもない。
が、その事実を確かめたい人がいるからといって、じーさんの息子である事を必死こいてアピールするのは何か違うよなあ。と思ってしまうオレ。別にじーさんの名前を笠に着て偉ぶりたいわけでもないし。
そんなことをモヤモヤと考えてしまい、どうしたもんかなあ――と。ランスロットが去った後も悶々と、この日の夜を過ごすことになるのだった。


 ◇ ◇ ◇

翌日。魔物領突入の初日
ランスロットの件について一晩グダグダ考えたものの、最終的に別にじーさんの息子だとランスロットに認められようが認められまいがどっちでもいいや。と思考を振り切り、普段通りの自分を見せることにしたオレは、この件を全て投げっ放して依頼に集中することを決める。

そうしてティグルス要塞に詰める兵士に見送られながら突入した魔物領は、序盤こそ要塞の人々が事前に露払いしてくれていたお陰で穏やかな道のりだったものの、その後すぐに魔物領、と呼ばれるに相応しい姿をオレたちに見せつけた。
正に魔物の支配する領域。と言わんばかりの魔物の群れをバリエッタの面々と共に目的地を目指し突き進む。
その道中は、魔物の尋常じゃない多さに驚かされたのは勿論のこと。Aランクのパーティというものの実力にも驚かされた。
バリエッタのリーダー。ゲオルグさんの人外じみた膂力を筆頭とした戦闘能力の高さもさることながら。
単純な戦闘以外の部分、偵察の重要性や、それを元にした効率の良い魔物領の進み方。
彼らバリエッタの姿は戦闘以外の経験に乏しいオレには非常に学ぶところが多く、今のオレと、オレのパーティに足りないものを気付かせてくれる得難い経験となった。

恐らく、オレたちのパーティのみだったらひたすら連戦連戦でかなり疲弊させられたであろう魔物領での行程は、そんなバリエッタのお陰で魔物領突入前程とまではいかないものの、各自それなりに休息もとれる余裕のある進行となり、数日後には全員が怪我らしい怪我をすることもなく、今回の依頼の目的地である魔物領の小山、その山頂まで辿り着くことができたのだった。

◇ ◇ ◇


―――が、しかし。
そんな順調な魔物領探索も、ここまで。
目的地に辿り着き、運んできた物資を保管しようと作業していたオレたちは、そこで強力な魔物たちの奇襲を受けることになる。

山頂一帯を焼け野原に変えてしまう、凶悪なブレス攻撃を持つ獅子型の魔物――グサルガレオ。
規格外の膂力を誇るゲオルグさんを上回る豪腕の巨大猿――ガガールン。
カザネたち鬼族が忌まれる原因の一つともなっている、チームランクAクラスの悪鬼――オーガ。
そのオーガに引けをとらない威容と、膨大な魔力を宿す白骨の死神――リッチ。

その他強弱様々な数多の魔物の群れの襲撃を受けたオレたちは、それなりに損害を受けたものの、それぞれの奮闘もありどうにかこの窮地を退けることに成功する……のだが。
オレやAランクのチーム、バリエッタの面々が全力戦闘を行わなければ凌げない魔物の攻勢という、いくら魔物領とは言え比較的浅く、そこまで危険な魔物が出現しないと想定されていた地域での、この想定外の事態を鑑みて、協議の結果オレたちは依頼を放棄して魔物領から撤退することを決断。
Bランクへの昇級がかかっている依頼とはいえ、こんな明らかな異常事態が起きている以上はそんなことに拘ってられない。
全員で襲ってきた魔物を払い除け安全を確保すると、躊躇無く全力で撤退を開始するのだった。

 ◇ ◇ ◇

最低限の荷だけを積み、来た道を引き返す馬車の中で、オレはバリエッタのサブリーダー、ケイムスさんから現在発生している異常事態について、魔物の大侵攻が始まっている可能性がある。と説明を受ける。
過去じーさんがアセナル王国の英雄と呼ばれる切欠にもなった、この世界で最大の災厄。魔物の侵攻。
現在、魔物領から侵攻が始まる原因というものはどこの国でも解明されておらず、原因不明、周期も不定期ということもあり、今現在このタイミングで起きたとしても、なんら不思議ではないのだとか。
撤退中にジンを利用して行われた広範囲の偵察でも、その予想を裏付ける程度には大量の魔物が周辺に分布しているようで。
当然侵攻ってほどではなく、偶然ここらに魔物が寄り集まっただけ。という可能性もあるにはあるが、大侵攻の最中に魔物領で孤立するリスクを考えると、そんな希望的観測に縋って余裕こいてるわけにもいかず。
可及的速やかに王国への撤退を。という方針を再確認して、オレたちは強行軍を続けるのだった。


◇ ◇ ◇

馬が潰れない程度に、かなう限りの速度を維持しつつ、そんな速度で走る馬車を各員交代しながらではあるものの、並走しながら四方八方から襲い来る魔物から護衛する――などという中々にハードな強行軍を行ってきたお陰で、撤退を開始したその日の内には、オレたちは行きに利用した魔物領とアセナル王国の国境、ティグルス要塞の近くまで辿り着くことが出来た。
そう。出来た――出来たのだが。

予感と言うのは、悪い予感ほどよく当たるもので。
国境付近まで辿り着いたオレたちを待っていたのは、地平線を埋め尽くし、そろそろ見えてくるはずのティグルス要塞の姿を覆ってしまうほどの壁のように膨大な魔物の群れだった。
魔物の大侵攻が始まっているかもしれないという、悪い予感は見事に的中し、更に最悪なことにその進行は既に国境まで迫っていた。
ここに来るまでの強行軍で大分消耗してしまっていたこちらの面々では、今までと同じような方法でこれらの群れを突破できるとは思えず。
かといってこのままでは群れに飲み込まれるのを待つのみ。
侵攻が国境に迫る前に撤退しようとしていたバリエッタの面々には、この状況を打破する妙案は無く。
この窮状にオレは、オレとジンで突破口を切り開くことを、決意する。

 ◇ ◇ ◇

流石に無茶だなんだと他の面々から制止されたりしたものの、最終的にはこれを敢行。そして成功。
更にこの敵中突破の際にオレが行った魔法が、くしくもじーさんが魔物の大侵攻を退けた際に使ってたものと同じ魔法だったようでランスロットなんかには驚かれたりもした。
特別狙ったわけではないが、オレに戦い方を叩き込んだのはじーさんだし、同じ状況ならじーさんも同じ方法で打破したんだろうな。と思う。

ともあれ。そうしてどうにか全員無事にティグルス要塞まで辿り着いたオレたちは、王都からの応援が来るまでそれぞれ要塞防衛の支援を行った後、要塞内部に撤退。
代わりに出撃する王国の騎士団や、王様の命によって全力出撃となったらしい宮廷魔術師の戦いっぷりをしばし見届けた後、一足先に休ませてもらった。

ちなみに、今回の侵攻は彼ら王国の誇る『剣』と『魔』の出撃によって決着したらしい。
この早期決着の理由は、初っ端から王国の主力投入という理由の他に、大侵攻の中でも今回の進行は規模の小さいものだったということや、オレとジンが敵中突破の際に暴れ過ぎたのが要因だそうな。
翌日の要塞から王都への帰り道、宮廷魔術師の一員として出撃し、何故かオレたちと一緒に馬車に乗って帰ってるマリスの師匠、フィオリさんからそんな説明を受けたオレ。
その他にも、この帰途の最中に今回の依頼で多少腕が立つでは済まない働きを見せたオレに対し、バリエッタのメンバーからオレの素性――というか正体について軽く問い質されたりしたものの、そちらについてはさらっと、軽く、超強い親にグルガの森の天然闘技場で育まれた、程度の説明で流しておいた。
このタイミングでわざわざじーさんのことやらを説明するのは少々蛇足、というものだろうし。
その他、今回の件の顛末について語り合いながら行われた、ティグルス要塞から王都への帰り道は、行きの王都からティグルス要塞への道と同様、非常に穏やかに恙無く、終えられたのであった。


 ◇ ◇ ◇

王都に着けば、後はお楽しみ?の今回の依頼の結果報告と昇級試験の結果発表である。
王都に戻って来たその足でオレとカザネとジンにバリエッタ。そしてランスロットやマリスにフィオリさんの王国組も加えて冒険者ギルドに向かったオレたちは、そこで待っていたギルドマスターへと今回の依頼の顛末を報告する。

どんな事情があったとはいえ、依頼を放棄しての魔物領撤退となった以上、依頼は失敗と言う事実は変わらない――のだが。
魔物の侵攻が起きている最中での魔物領からの脱出。そしてその脱出の最中でのオレたちの活躍などもあり、パーティランクB以上の冒険者としての能力は充分と評価され、依頼は失敗となったものの、オレたちのBランク昇級試験は合格、と判断されることになった。
正直依頼失敗の時点で再試験を覚悟していたので、ギルドマスターから合格と言い渡された時には喜びよりも驚きの方が大きかった。いや勿論嬉しかったが。

こうして晴れてチームランクBへと昇級したオレたちは、その後バリエッタの面々と、王国組も巻き込んでの今回の依頼の打ち上げへ。
そこでのドンチャン騒ぎには、残念ながら酒には激烈に弱いオレは十全に楽しむことは叶わなかったが、これぞ冒険者!とばかりに依頼の疲れも忘れて騒ぎ明かすみんなの姿は中々に貴重で面白いものだった。


 ◇ ◇ ◇


「――で、その後王様からの表彰を受けて、その褒賞で私を雇うことにしたと」
「そんな感じです」
「王国からの褒賞に加えて、国内に入り込んだ魔物の掃討依頼の報酬を合わせれば……まあ、あそこまでの金額にもなるのかしらね。はー、でもこんなに早くとは予想外。ありがたい話だから否やはないんだけど、思い切ったわねえ、少年」
そんなこんなのランクアップ試験から一月ほど経ったある日。
オレは部屋に遊びに来たナーディアさんに、改めて騒動の顛末を話していた。
一連の騒動を通して改めて感じたのだけど、この世界においてオレやじーさんの力はどう見ても規格外だ。
そのうえジンという伝説にまでなっている賢獣と共に生きていくとなれば、いくら足掻こうとこの先目立たずにいるのは難しい。
打ち上げの時の酒場で聞いた話によると、どちらにしても遅かれ早かれ自分のことは世に広まってしまうだろうし。ならいっそ、こちらから全て明かしてしまおうとオレは決断した。
王女様や王様、それにギルドマスターからは本当に良いのかと確認された。
けど、今後オレの力や素性をこそこそ探られるよりは、あいつはじーさんの息子だからという理由で納得してもらった方が面倒が少なそうだから、と説明しておいた。
そして、魔物の侵攻時に武勲を挙げた者を表彰する式典を通じて、英雄ヨーゼフ・アルベルトの息子、アベルの名は王国中に知れ渡ることになった。
後で聞いた話だが、オレとじーさんの関係について探りを入れてきているヤツが、既にかなりいたらしい。
王国の方にも、ギルドの方にも。
話を広めないと約束した手前、面倒な駆け引きをして情報を開示しないように努めなければいけない……と頭を悩ませていたところに、公表してOKという話がオレからあったので、王国やギルドからすれば心配事が減って渡りに船だったとか。
表彰後、王様から直々に、オレの好きに生きて良い、との言葉ももらった。
かつてじーさんが失踪したことを国民がまだ根強く覚えているので、今回はそんな過ちは犯さないと国民にアピールする必要もあったらしい――とは、最近顔を合わせる機会の増えたランスロットの談。
あの依頼が終わってからも、マリスはちょくちょく、ランスロットはたまーにオレの住んでいる遥々亭に顔を出していた。
マリスは相変わらずオレ達と一緒に冒険者の依頼をこなし、ランスロットはオレやカザネと軽く模擬戦闘などをしていく。
冒険者としての暮らしは、その後も順調にBランクパーティの冒険者としての活動を続けている。
細かい変化を挙げるとすれば、ギルドに所属する冒険者達がオレをパーティに勧誘したり、逆にパーティに入れてくれと志願してくる人が一気に現れた、というところか。
実力は既に証明済みなうえに、英雄の息子というネームバリューまであるせいか、内容を考慮するのも困難なくらい多数の冒険者が言い寄ってくるので、とりあえず全て断ることにしている。
バリエッタと一緒に行動して、ミーアさんみたいなスカウト的な役割の出来る仲間は欲しいと感じていたけど、そういった仲間を探すのはもう少し落ち着いてからになりそうだった。


 ◇ ◇ ◇


グルガの森を出てから数ヶ月。
たったそれだけの期間で、今まで緩やかに流れていた時間が、急に全力疾走を始めたかのようにいろんなことが起きた。
森に住んでいた頃から何となく理解していたが、オレの持つ力はやはり異常で。
ここまでの力を持っているんだから、オレは何か意味があって、もしくは何かを為すためにこの世界に生まれ変わったんじゃないか――という思いも多少なりとも芽生えてくる。
誂えたようなオレの境遇は、どう考えたって出来すぎている。
国を救った英雄の息子という環境、最強のパートナーの存在、さらにハイスペックな身体能力……それらの要素が最大限活きるこの異世界。
この状況が何より雄弁にオレに語りかけているように感じる……何かを為せと。
その何かの意味までは分からないけど、オレじゃないと出来ない何かが、この世界にはある―――のかもしれない。
「くあー……!」
真面目くさく考えていたテンションを振り切るように、オレは大きく伸びをして空を見上げた。燦々と輝く太陽に掌を翳し、にんまりと笑ってみせる。
「どこのどなたがオレにこんな天命を与えたか知らないけど、覚悟しろよ……オレは好き勝手暴れ回るぞ、この世界で!」
そんな決意を胸に、オレは気ままな冒険者生活を今日もまた続けていくのだった。




―――――オレが異世界で獣とランペイジ 第一部ダイジェスト ―了― 


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