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2012年10月27日(土)付

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秋入学―東大よ、初志を貫け

春入学・春卒業の枠は変えぬまま、始業を秋にずらす。東京大学が、構想中の「秋入学」のプランを修正した。始業の季節を諸外国にあわせるだけでも、東大生の留学や、海外からの留学[記事全文]

技術流出―「守る」態勢を立て直せ

秘中の秘だった特殊な鋼板の製造技術を盗んだとして、新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手、ポスコを相手に損害賠償を求めた裁判が東京地裁で始まった。日本企業が海外への技術流出をめぐっ[記事全文]

秋入学―東大よ、初志を貫け

 春入学・春卒業の枠は変えぬまま、始業を秋にずらす。東京大学が、構想中の「秋入学」のプランを修正した。

 始業の季節を諸外国にあわせるだけでも、東大生の留学や、海外からの留学生受け入れがしやすくなる。グローバル化への一歩として評価できる。

 しかしながら、東大が1月に発表した当初の構想は、東大だけが変わればいいというような狭い了見ではなかった。

 東大だけではやらない。他大学と手を組み、産業界にも春の新卒一括採用の慣行を改めるよう働きかける。国内だけ考えて事足れりとする社会の内向き志向を変えよう。スケールの大きな提案だから注目されたのだ。

 修正案は社会の仕組みをいじらずに東大単独でやれる。現実的な分、大学も社会も変わろうとのメッセージは弱まった。

 あくまでこれは一里塚。海外で主流の秋入学への全面移行をめざす方針はそのままだと東大はいう。ここで足を止めず、粘り強く初志を貫いてほしい。

 軌道修正の事情はこうだ。

 東大は秋入学を5年後をめどに始めたい。産業界は通年採用や秋採用に前向きで、そこに支障はない。むしろ「5年後でも遅い」とせっついている。

 ネックは医師などの国家試験や公務員試験の時期を動かす見通しが立たないことだという。政府は検討事項としているが、肝心の大学界が「秋入学」で足並みがそろわぬ現状では、省庁もすぐには動きにくい。

 要は、間に合わないから出来ることからやるということだ。しかし、まだ構想を出して1年に満たない。改革の地ならしには時間がかかって当然だ。なにも焦ることはなかった。

 残念なことがもう一つある。

 初めの構想は、合格から入学までの「空白の半年」を使い、ふつうの勉強を離れて海外生活やボランティアなどを原則、全員に経験させるとしていた。そこには「タフな人材を育てる」という理念があった。

 修正案では、これが希望者の選択制に後退した。代わりに、大学で学ぶ意味を考える導入的なプログラムを、大学側が用意するという。やらないよりはいいが、お仕着せのメニューでタフな人材が育つだろうか。

 それに、春卒業のまま秋始業にすれば、4年分のカリキュラムを3年半で学ぶことになる。そもそも学生の質を高めるのが大きな目標のはずだ。詰め込みに陥っては元も子もない。

 あちこち壁は高いだろうが、じっくりタフな交渉をして突破してもらいたい。

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技術流出―「守る」態勢を立て直せ

 秘中の秘だった特殊な鋼板の製造技術を盗んだとして、新日鉄住金が韓国の鉄鋼大手、ポスコを相手に損害賠償を求めた裁判が東京地裁で始まった。

 日本企業が海外への技術流出をめぐって、真っ向から訴訟に踏み切るのは珍しい。不正の立証が難しく、費用や手間を考えると割に合わないと考えられてきたからだ。

 今回は、ポスコ社員が問題の技術を中国の鉄鋼大手に売り渡したとして韓国の裁判で有罪となり、新日鉄からの流出だったことが表面化した。

 新日鉄側が調査を重ね、4人の社員OB経由で漏れた経緯を突き止めた。

 たとえ訴訟に勝っても、いったん流出した技術を再び秘密にすることはできない。

 ただ、法廷で不正の実態がつまびらかになれば、今後、同じような行為を取らせないよう強く牽制(けんせい)する効果を生む。

 秘密を守る緊張感に乏しいともいわれる日本企業の管理態勢を改める契機にもしたい。

 経済産業省の最近の調査で、回答した2900社のうち7%が「明らかに漏洩(ろうえい)と思われる出来事があった」としている。定年や中途で退職した技術者を通じて漏れるケースが多い。

 技術流出を警戒する企業はふつう、退職後も秘密を守るように社員と契約を結ぶが、破っても違反の事実を特定するのが難しい。

 さらに、会社の中で何が本当に守るべき秘密なのかあいまいだったため、訴訟を起こしても被害を立証できない例もある。

 韓国企業などは日本企業が不況でリストラした人材の再雇用に力を注いできた。高額報酬で誘うのも事実だが、誘われる方には不本意な形で退職し、新天地で古巣を見返したいと思う人も少なくないという。

 業界横並びでさまざまな技術を開発しながら、それを十分に製品化・事業化できず、技術者ともども抱えきれなくなるとリストラで切り捨てる――。そんな経営にも、流出を生む責任の一端があるのではないか。

 今や韓国企業の方が優れている技術も増えている。旧来のタコツボ的な開発と技術の囲い込みを卒業し、グローバルに流動化する人材を上手に活用しながら、大切な技術を守る態勢を築くべき時に来ている。

 核心的な技術は断固として守る。一方、自力で生かせない技術は、開発者の独立起業を支援するなど人材を処遇して、世の中に生かす。

 こうしたメリハリこそ企業を立て直す一歩になるはずだ。

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