特集ワイド:原発の呪縛・日本よ! 文芸評論家・川村湊さん

毎日新聞 2012年10月26日 東京夕刊

文芸評論家の川村湊・法政大教授=中村藍撮影
文芸評論家の川村湊・法政大教授=中村藍撮影

 「3・11前、原発の問題を提起した文学が少なかったのは先ほど述べた通りですが、よくよく読み返してみると、きちんと警鐘を鳴らしている作品があるにはあるんです」。代表的な短編3点を挙げてもらった。水上勉「金槌(かなづち)の話」(集英社「コレクション 戦争×文学 19 ヒロシマ・ナガサキ」所収)▽林京子「収穫」(講談社文芸文庫「希望」所収)▽野坂昭如「乱離骨灰鬼(らんりこつぱいおに)胎草(ばらみ)」(水声社「日本原発小説集」所収)−−。

 「戦争×文学」は川村さんが編集委員の一人として関わり、「日本原発小説集」には解説を寄せている。「水上さんは、故郷の若狭(福井県西部)に『原発銀座』と呼ばれるようなグロテスクなものが造られたことへの怒りや悲しみを、声高に叫ぶのではなく低い声で書いています。一時的には地域振興になったかもしれないが、それと引き換えに人々が失ったものがある、と。こうした作品にもっと関心を持つべきだったと、今となっては思うんです」

 そして、自分に言い聞かせるように続けた。「今からでも遅くはない。こうした作品を改めて評価していくことは必要な作業です。歴史をきちんと踏まえたうえで、今後の日本のありようを考えることが大切です。再び原発事故を起こすようなことがあれば、この国は終わりですから。もう彼らに負けるわけにはいかないんです」

 「文学ムラ」の一住民が「原子力マフィア」に立ち向かおうとする、力強い決意と覚悟を感じた。【大槻英二】

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 ■人物略歴

 ◇かわむら・みなと

 法政大国際文化学部教授。1951年、北海道生まれ。同大法学部卒。昨年の3・11後、ネット情報を基に原発事故の原因を探った「福島原発人災記」、戦後の核を巡る精神史をつづった「原発と原爆」を出版。

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