竹島、尖閣騒動からこっち、週刊誌の見出しは、目に見えて下品になっている。
私の記憶では、週刊現代が「中国が攻めてくる」という大見出しの特集を組んだ同じ週に、今度は週刊文春が「中国をやっつけろ」という見出しを打っている。
いずれのヘッドラインも、電車の中吊りの中では最大級の活字で印刷されていた。
で、いつしか、尖閣関連以外の見出しもその絶叫調に追随するようになった。
私は、今回の「ハシシタ」の見出しの勇み足は、この2カ月ほど相互作用の中でエスカレートし続けていた中吊り絶叫化傾向と無縁ではないと思っている。
爆弾リレーみたいなことをやりながら、雑誌の世界は、結局、それをやめることができなかったのである。
さかのぼれば、雑誌の頽廃は、もう何年も前から観察されていたことだ。
調査報道が目立たなくなり、独自取材の記事ページが減少し、その代わりに、誌面には、やたらと扇情的な政局記事や、意味なく警鐘を乱打するタイプのエセ科学記事が座を占めるようになっていた。
はやい話、週刊朝日の編集部のスペース自体が、私が同じフロアにあった「Asahiパソコン」誌に出入りしていた当時と比べて、半分に減ってしまっている。おそらく、データマンやアンカーマンといった取材記事を担当する人々や、様々な外部スタッフに与えられていた机が取り上げられ、予算規模の縮小に合わせて、人員が削減されたからだ。
だからこそ、麗々しく大見出しを打った大型看板企画が校閲を経ていないみたいな淋しい事態が起こってしまったと、言えば言えるのだ。
* * *
あるラジオ局のディレクターは、この事件について、「他人事ではない」と苦笑しながら、こんな話をしてくれた。
彼によれば、ラジオの世界も、週刊誌の世界と同じく、奇妙なチキンレースに巻き込まれていて、「テレビで言えないことを言わないといけない」「もっと過激な企画を通さないと勝負できない」という空気が、知らず知らずのうちに現場を支配しているのだという。
「だからこそ、狼少年みたいな人間をキャスティングする誘惑と戦わないといけないわけです」
と、彼は、私の顔を見て笑いながらそう言ったわけなのだが、私は遠吠えをすべきだったのだろうか。
ガルル。
(文・イラスト/小田嶋 隆)
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小田嶋さんの名文、名ジョークを、ぜひ、お手元で味わってください。
記事掲載当初、本文5ページ目で「見出しを売って」としていましたが、正しくは「打って」、また「尖閣関連意外の」は「以外の」です。よりによってこんなお話の回で見逃し、地下鉄の中で悲鳴を上げました。今、ホームで修正しております。深くお詫びして訂正します。本文は修正済みです [2012/10/26 10:00]