ヘッドライン

■本当に児童ポルノ事件は増えているのか

今回の記事はいきなりまとめから入る。

1.「児童ポルノ事件が近年激増」と言っても、2004年の法改正によって処罰対象が広がったために新たに立件できるようになった事件の数が増加分のほとんどを占める。
2.ただ、2004年法改正以前から処罰対象であった事件の件数も増加はしている。
3.しかし、この増加も法改正によって警察が捜査に着手しやすくなったために増加したという側面はあるのではないか。
4.いずれにしても、児童買春○件、児童ポルノ○件だなんて大雑把な数字を見ているだけでは実状は見えてこない。

ここから本文

公明党の鰐淵さんが児童ポルノ事件が近年激増している、この激増を食い止めるためには法改正して規制強化をというような事を言っている。
しかし、なのだ。事件数の増加とやらは果たして実態の反映なのだろうかという疑問が湧いてきたのだ。

まず最初に思いついたのは、「児童買春事件は減少、児童ポルノ事件は増加」という事から単純に今まで児童買春でカウントしていた事案を児童ポルノでカウントするようにしたから児童ポルノ事件が増えたように見えているだけではないかと言うことだ。
2004年に児童ポルノの「単純製造」が処罰対象になったことで、いわゆる「援助交際」の際に撮影も行ったなんて事案では児童買春でカウントすることもできれば児童ポルノとしてカウントすることもできるではないか、児童ポルノとしてカウントすれば児童ポルノ激増一丁上がり…と思ったのだ。
ところが、犯罪統計細則第6条を見るとこういう場合は法定刑が重い罪で一件とすると定められている。児童買春が5年以下の懲役又は300万円以下の罰金、児童ポルノ単純製造は3年以下の懲役又は300万円以下の罰金だから児童買春の方が法定刑は重い。従ってこの仮説はボツと言うことになる。
ただし、2004年法改正で児童買春よりも不特定多数への提供目的製造の方が微妙に法定刑が重くなったので「援助交際」の際に不特定多数への提供目的で撮影したような事案は児童買春ではなく児童ポルノとしてカウントするように変更したという事はありうる。

次に思いついたのは、2004年法改正で特定少数への提供、及びこの目的での製造、運搬、輸出入などが新たに処罰対象に加えられたために、これまで検挙できなかった個人的に譲渡したりする行為を検挙するようになったのではないかと言うものだ。
また、単純製造にしてもネットで知り合った児童に自分の裸を撮影させて送らせるという事案を新たに検挙するようになったという事が考えられる。
これはあくまでも仮説だから、証明するにはデータが必要だ。
ただ、警察庁が出しているたいていの資料には児童ポルノ何件という大雑把な括りでの数字しか載っていない。

ところが警察庁刑事局「犯罪統計書」では極めて詳細な分類がなされている。2000年のものこそ「児童買春・児童ポルノ法」という大雑把な括りの数字しか載っていないものの、2001年以降「児童ポルノ頒布」「児童ポルノ販売」「児童ポルノ貸与」…と非常に細かく分類されている。
2005年以降は特定少数への提供あるいは特定少数への提供目的製造などと不特定多数への提供や不特定多数への提供目的製造など、さらには単純製造まできちんと分類された数字が載っている(分類の詳細さはこの記事の「続きを読む」をクリックしていただいた所に載せた「統計表の注」をご覧いただければよくわかります。)。
というわけで「犯罪統計書」に載っている児童ポルノ事件の検挙件数を載せてみる。ただし、ここでの考察に差し障りのない範囲で項目をまとめてあるので、細かい数字が見たい方は警察庁サイトにて「平成○○年の犯罪」(これが犯罪統計書)というものの中にある「少年の福祉を害する犯罪の送致件数・人員及び被害者数」という表を参照されたい。

年次不特定多数提供目的製造(注1)不特定多数提供等(注2)特定少数提供目的製造特定少数提供等(注3)単純製造児童ポルノ事件計
2001年15137---152
2002年30159---189
2003年43171---214
2004年49128---177
2005年322181368139470
2006年122212796260616
2007年141802479270567
2008年122281761358676
2009年143891776439935
2010年12543461176241,342

(注については「続きを読む」をクリックしてご覧ください)

グラフにするともっとわかりやすい(2010.1.2グラフ追加)。
児童ポルノ検挙件数


これはもう一目瞭然。処罰範囲の拡大によってこれまで立件できなかった事案を立件するようになったために件数を押し上げているのである。
2004年法改正以前も処罰されていた不特定多数への提供目的の児童ポルノ事件も増えてはいるが、これはあくまでも「検挙件数」。処罰範囲が広がったことにより、捜査着手へのハードルが低くなったという要因は無視できない。
具体的に言えば特定少数への提供として着手したものの捜査過程で不特定多数への提供が判明したため不特定多数への提供として検挙して終結したという事例が考えられる。

以上、ざっと見てきたが、検挙件数、それも極めて大雑把な数字のみを見て事態は悪化したと言ってみても実態を反映していないと言うべきである。

統計表の注
1 2004年までは「児童ポルノ製造」。

2 2004年までは「児童ポルノ頒布」「児童ポルノ販売」「児童ポルノ貸与」「児童ポルノ公然陳列」「児童ポルノ所持」「児童ポルノ運搬」「児童ポルノ輸入(本邦へ輸入)」「児童ポルノ輸出(本邦から輸出)」「児童ポルノ輸入(外国に輸入)」「児童ポルノ輸出(外国から輸出)」の計。
2005年以降は「不特定多数に対する提供」「不特定多数への提供目的公然陳列」(2009.10.17追加)「不特定多数に対する電気通信回線提供」「不特定多数に対する提供目的所持」「不特定多数に対する提供目的運搬」「不特定多数提供目的輸入(本邦に輸入)」「不特定多数提供目的輸出(本邦から輸出)」「不特定多数に対する提供目的保管」「不特定多数提供目的輸入(外国に輸入)」「不特定多数提供目的輸出(外国から輸出)」の計。

3 「特定少数に対する提供」「特定少数に対する電気通信回線提供」「特定少数に対する提供目的所持」「特定少数に対する提供目的運搬」「特定少数提供目的輸入(本邦へ輸入)」「特定少数提供目的輸出(本邦から輸出)」「特定少数に対する提供目的保管」の計。

訂正(2009.10.17)
「不特定多数提供等」の中に「不特定多数への提供目的公然陳列」が含まれるのにもかかわらず統計表の注においてにおいてそのことを記述してませんでした。ここにお詫びいたします。
なお、統計表の注においてその旨の記述を追加させていただきました。

テーマ:児童買春・児童ポルノ処罰法 - ジャンル:政治・経済

■コメント

■ [仁平]

はじめまして。

ネット犯罪摘発過去最多…児童ポルノ135件増
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20100902-OYT1T00438.htm

今日こんな統計が発表されましたけど、児童ポルノ犯罪の増加はまだ誤差の範囲内なのでしょうか? それとも大幅に増えているのでしょうか?
よければ教えてください。

■ [資料屋]

>仁平さん
警察庁の以下の発表のことですね。
http://www.npa.go.jp/cyber/statics/h22/pdf01-1.pdf
正解は「わかりません」。
警察発表の数値は全て警察が見つけて被疑者を捕まえた数です。徹底的に児童ポルノを探し始めたり被疑者を特定し始めれば当然実際の数の増減にかかわらず検挙数は増えます。
本当のところは市民にアンケートでもとらない限り不明です。このような調査は外国では結構行っているのですが日本では見ません。実施が望まれるところです。
このエントリも参照してください。
http://toriaezumitekitayo.blog88.fc2.com/blog-entry-61.html
ただ、さすがに年間900件も検挙されればこのエントリーで触れたような処罰範囲の拡大だけでは説明がつきません。

■Re: 本当に児童ポルノ事件は増えているのか [仁平]

返信ありがとうございます。
エントリ参考にさせていただきます。ありがとうございます。
摘発数があまり当てにならないとなると、信頼すべきは被害者の数でしょうか?
色々調べてみましたが、児童ポルノ法がらみの被害者の数は割と顕著に減少傾向なんですよね。不思議です。
これ、2chのほうでまとめてあったのですが。

少年の福祉を害する犯罪の送致件数・人員及び被害者数

児童買春・児童ポルノ禁止法
H17 1750
H18 1578
H19 1419
H20 1184

>ただ、さすがに年間900件も検挙されればこのエントリーで触れたような処罰範囲の拡大だけでは説明がつきません。

以前、リンクを張っただけで児童ポルノ法違反で逮捕されたという話がありましたけど、ああいうのは影響してませんか?
取締りの基準がいつの間にか変わったとか。
統計を見ると、ちょうど2009年から倍増してるんですよね。それまでは上がったり下がったりだったのが。
今年の上半期のペースを見ると、2010年もどうやら2009年と同じような感じになりそうですが…。
一方、児童売春の方は多少上下はあるものの、児童ポルノほど極端な増え方はしてません。

http://www.npa.go.jp/cyber/statics/backup/h21/pdf01.pdf
児童買春・児童ポルノ法違反(児童ポルノ)
H17 136
H18 251
H19 192
H20 254
H21 507

児童買春・児童ポルノ法違反(児童買春)
H17 320
H18 463
H19 551
H20 507
H21 416

■Re: 本当に児童ポルノ事件は増えているのか [資料屋]

>仁平さん
警察発表の被害児童数もやっぱり当てになりません。検挙されたものの被害児童数をカウントしているだけですから。
なお、あなたがお示しの被害児童数は児童買春も込みの数字で、児童買春の被害者数が減ったのがそのまま反映しているだけです。
取締りの基準が変わったと言うのは考えられますが確定的な事は言えません。どっちにしても警察の活動の変化が影響している可能性は捨て切れません。

■Re: 本当に児童ポルノ事件は増えているのか [仁平]

>児童買春の被害者数が減ったのがそのまま反映しているだけです。

何で減ったんでしょうね? 

>取締りの基準が変わったと言うのは考えられますが確定的な事は言えません。

今言えることは
「今のところはなんとも言えない」
ということでしょうか。
2009年の統計が出るのは10月か11月ごろでしたっけ。

■Re: 本当に児童ポルノ事件は増えているのか [資料屋]

>仁平さん
児童買春の被害者数が減った要因は警察が取り締まりに力を入れなくなったなどいろいろ考えられます。警察の業務統計だけでは何ともいえません。

> 今言えることは
> 「今のところはなんとも言えない」
> ということでしょうか。

そうですね。何とも言えません。2009年分の犯罪統計書が出てもよくわからないかもしれないです。これには詳細な罪名別の統計も載っているんですがそれでも取締りの強化が影響したか基準の変化が影響したか特定するのは至難の業でないかと。

■Re: 本当に児童ポルノ事件は増えているのか [仁平]

また児童ポルノ摘発件数が増えそうな事件ですね。

ウィニーで児童ポルノ取得=公然陳列容疑で男逮捕―閲覧可能に「未必の故意」
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100909-00000042-jij-soci

■ [資料屋]

>仁平さん
ですね。警察がこなれてきてあの手この手で摘発するようになってきましたね。
我が世の春とばかりに捕まらないだろうと舐めきってファイル共有ソフト使って児童ポルノ拡散の片棒担いでいた連中が摘発されて涙目という大変喜ばしいニュースですが、これが件数増加となると険しい顔して深刻に考える人が出てくるというのが不思議というか何と言うか。
駐禁で切符を切った件数が増えたからと言って実際に駐車違反が増えたと考える人は誰一人いないのに児童ポルノとなるとそんな単純な考えが出てくるというのが不思議です。

■Re: 本当に児童ポルノ事件は増えているのか [仁平]

お久しぶりです。
ところで、また過去最悪だそうです。

児童ポルノ摘発、前年比4割増 過去最悪を3年連続更新
http://www.asahi.com/national/update/0224/TKY201102240222.html

http://www.asahicom.jp/national/update/0224/images/TKY201102240278.jpg

統計見ると、2009年から2010年にかけて大きく伸びてますが、これはなんなんでしょうか。
本当に増えたのでしょうか?
そういえば、強制わいせつ罪の件数が児童ポルノ犯罪に組み込まれているという話も。

http://twitter.com/okumuraosaka/status/40663023341281280
>児童ポルノの統計は、強制わいせつ罪(176条後段)の被害者を取り込んで増えたように見えるが、増減はわからない。被害者はもともとその程度いて、強制わいせつ罪(176条後段)の被害者としてカウントされていた。立法者の作りが悪くて法令適用が乱れているので、統計もみだれるわな

■ [資料屋]

>仁平さん
暗数調査をやってみないと本当に増えたのかどうかは結論出せません。
ただし、私の個人的な印象では警察が熱心に取り締まったおかげで摘発件数が増えたと言う印象を持っています。
昨年はファイル共有ソフト利用者を摘発するなど新手法も「開発」された年でしたし。実数ならば多分四桁じゃ済まず、五桁ぐらい行くのではとも思ってます。
とにもかくにも警察の皆さんお疲れ様でした、今年もバシバシ取り締まってください、というのが率直な感想です(本気ですよ)。
■コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

 

■トラックバック

■性犯罪含め少年の犯罪被害が減少している件

少し先送りになった、東京都の非実在青少年についての条例改正案について、東京都小学...

プロフィール

資料屋

Author:資料屋
ブログ名変えた(2011.4.24)。落ち着かないなあ。

アクセス解析・なかのひと

FC2カウンター