2011年04月29日

『安藤美姫物語』 最終章

アカウンタビリティ


昨年のエントリーで私は安藤美姫選手の今季(以降)について以下のように書いた。

安藤選手はモロゾフに師事している限りは、過去の競技成績を上回ることはもはやないだろう。

この趣旨はモロゾフ・コーチの作るプログラムや指導方針に疑問を投げかけるものであり、決して安藤選手を批判し、揶揄するものではなかった。幸いにもこの趣旨は、本ブログに訪問する安藤選手のファンには概ねご理解いただいたと見えて、誤解による反論は寄せられなかった。GPシリーズまでは・・・・
しかし、GPファイナルのFSを起点に、全日本、四大陸選手権と続くビッグイベントで安藤選手が好演を連発すると、風向きが変わった。私にアゲインストが吹き出したのだ。
まず最初に噛み付いてきたのは私の悪友だ。「お前のブログを読んだが、全日本の圧勝をどう説明するのか?まさか敵失で転がり込んだ僥倖だと言い訳するんじゃないだろうな」と私の眼前で中指を立てて見せた。私はその中指を見て、逆剥けには保湿が大切であることを教えてあげようと思ったが、彼はすぐに指を引っ込めたので私も言葉を引っ込めた。
もちろん安藤選手の全日本優勝は「棚ぼた」などではない。全日本史上に残る快演だった。6年ぶりのタイトル奪還について、元・格闘技選手の魔裟斗さんがTVで、「私はスケートのことはよく分からないけれど、6年ぶりにタイトルを取ったということその間にどれほどの苦労と努力があったのかは想像できる」と言っていたが、私はその言葉を聞いて、魔裟斗さんという人がアスリートとしても人としても一流なんだなと感心した。
次に私をたしなめてきたのは私の妻だった。「あなたは普段自分でよく口にするアカウンタビリティを実行しなければいけないのでは?」と。四大陸選手権の J sports のLIVE中継を一緒に観戦し、表彰式の余韻に浸っているときだった。「あなたのあのブログは何様かと思った」という皮肉も込めて・・・・。




競技選手としての活動環境


安藤選手は小塚選手と同様、その所属先は「トヨタ自動車」となっている。このことを誤解している人が一部にいるようなので事実を書いておこう。
トヨタ自動車には多くのアスリートが在籍している(ほとんどがアマチュア選手。ラグビー等は一部プロ選手)。言うまでもなく同社は自動車製造会社であり、スポーツは事業項目の中には入っていない。あくまでも従業員の福利厚生として従業員の活動を支援している。どういう支援かというと練習環境の提供、練習・試合のための就業時間調整などである。企業の狙いは主にふたつ。主たる狙いは、福利厚生の充実が従業員の会社へのロイヤリティを向上させ、就業に良い影響をもたらすため。もう1つは最近よく言われるようになったCSR活動の一環である。企業の社会的責任を果たす一環として「生活者の文化・スポーツ支援」をすることだ。企業イメージアップや企業宣伝とは似て非なるもの。スポーツ支援をして商品が売れるなどと能天気なことを本気で思っている企業は今や1つもない。
トヨタに限らず「企業スポーツ」を抱える企業は、従業員との契約形態は2つに大別される。働きながら時間外にスポーツ活動をする「社員選手」と、社員として籍を置きながら通常の就業を免除され専らスポーツ活動をする「嘱託社員選手」の2つだ。安藤、小塚の両選手は後者だ。共に同社の「人事部スポーツ強化室」という部署に在籍する形を取っている。競技選手を引退した後は嘱託契約は解かれるので、一般社員として再契約して社会人の道を進むか、退社して別の道(プロスケーター、プロコーチ等)を進むことになるが、それは本人次第だ。就業義務がないとは言っても「TOYOTA」を所属先として活動しているので、年に数回出社し、活動報告をすることは義務付けられているようだ。

前置きが長くなったが、主旨は、両選手ともトヨタ自動車と「スポンサー契約」をしているわけではないということだ。同社は選手の「身元照会」の窓口であり、「保証人」になっているにすぎない。安藤選手の実母が同選手の自著の中で「トヨタさんに助けてもらってます」というのは、海外試合に派遣されたり、長期滞在・移動する際に同選手の保証人となり、海外での行動・生活に支障ないように「身元保証」をしてくれていることを指す。
但し、嘱託社員選手は会社に在籍しながら、他社と独自に「広告スポンサー契約」を結ぶことができる。そういう意味では「セミプロ」と言えなくもない。例えば、女子柔道の元・世界チャンピオンの谷亮子さんもかつてトヨタ自動車に嘱託社員として契約、在籍していたが(所属部署は「グローバルマーケティング部」だったが、所属部署としては珍しい)、個別に広告スポンサー契約をしていた。安藤選手が今季、広告スポンサー契約をしているのは伊タイヤ・メーカーのピレリ・ジャパンくらい。同社の広告は自動車専門誌にしか出稿していないから安藤選手の契約金は推して知るべしだ。バンクーバー五輪のとき、安藤、小塚の両選手の試合映像の一部がトヨタのキャンペーンCMに使われたが、あれはトヨタがJOCスポンサーの権利としてとしてJOC傘下選手の肖像(試合映像)を広告に二次利用したのであって、両選手に広告出演料が支払われているわけではない。確かに、自身の所属企業がスポーツ活動に理解がなく肩身が狭い思いをしているような選手から見れば、安藤、小塚の両選手の環境は恵まれているかもしれない。だからと言って、両選手とも豊富なスポンサーマネーを得ているわけではなく、まして所謂「スポンサー風」を吹かして、両選手が有利になるように連盟やメディアに対して働きかけるなどということは微塵もない。両選手の(特に安藤選手の)メディアでの採り上げられ方や露出量を見れば一目瞭然のこと。両選手にとってメディアが追い風になってくれたことなど一度もないだろう。(トヨタという会社は所属選手の対外的対応については意外と淡白だ)




スーパースコアの真実(1) ~ 全日本選手権


さて、本題に入る。

安藤選手は今季、5戦4勝。FSは全戦1位。唯一優勝を逃したGPファイナルでもFS1位。同SPを「普通に」滑っていれば同大会でも優勝していただろう。つまり全戦全勝。同大会の優勝スコアを見れば、十分考えられたと断言できる。それだけにあのSPは「大ポカ」。なんじゃそりゃ?という感じだったが、まあ、他の選手のファンからすれば大本命がこけてくれたので笑いが止まらなかっただろうが、安藤選手のファンはオール orz
もちろんSPで大ポカやらかしたからこそ、FSでの発奮があったと見ることもできよう。即ち、GPファイナルまでは安藤選手の「変化」は顕在化していなかった。

GPファイナルで新SP『ミッション』に変更されたことからも分かるように、実はGPファイナルは修正途中だったということが分かる。だからこそ、それからわずか2週間後の全日本に間に合ったのだ。ロステレコム杯終了直後からPGの修正に取り掛かり、4週間後の全日本に照準を合わせてピーキングを行なったのだ。但し、そのピーキングは「日本代表権」を得るための「シーズン前半のピーク」であり、最終的なピーキングは3月下旬の代々木体育館に合わせていた。

まずは、シーズン前半のピークとなった全日本を検証する。
安藤選手は2007年の全日本で当時の「国内最高スコア」をマークしているが(FSと総合点)、あまり報道されなかったが実は今回の全日本では、2007年に自身が記録したFSの国内最高スコアを更新している。私は通常、過去のスコアを比較するのは意味がないと思っている。ルールが毎年変わるからだ。ところが、例え参考に過ぎないとは言っても、今回の最高スコアの更新は価値がある。今季は点が上がりにくくなるようにルール改訂がされているからだ。(構成要素等のプロトコル詳細は各自で確認されたし)

2007年 : 204.18
SP : 68.86
  TES : 38.24 (平均GOE 0.86)
  PCS : 30.44 (平均 7.61)
FS : 135.50
  TES : 72.70 (平均GOE 1.02)
  PCS : 62.80 (平均 7.85)

2010年 : 202.34
SP : 64.76
  TES : 33.40 (平均GOE 1.64)
  PCS : 31.36 (平均 7.84FS : 137.58
  TES : 71.50 (平均GOE 1.68)
  PCS : 66.08 (平均 8.26)

注目していただきたいのは朱書きの部分である。GOEとPCSが上がっているのだ。GOEはSP、FSで、PCSはFSで顕著に上がっている。特にGOEの上昇は注目すべきだ。今年は、トリプルジャンプを中心にGOEのスコア換算率が下げられ、以前のようには上がりにくくなっているからだ。その逆風の中、以前と同価値のGOE加算を実現するためには、1.4倍以上のGOEを得なければならない。以前は、GOE+1はそのまま1.00にスコア換算されたが、今年からGOE+1は0.70にしか換算されなくなったからだ。
そして、FSの国内最高スコア更新を決定的にしたのはPCSだ。5コンポーネンツの平均が8点を超えたのは安藤選手にとって初めてのことである。特にTRが8点に達したことが象徴的だ。

全体的に「スケートの質」が上がったのだ。但し、(安藤選手も常々発言しているように)そうは言ってもこれは「国内記録」に過ぎない。ISUスコアではない。ISUジャッジにどう評価されるか。ワールド前にそれを占う方法はひとつしかない。四大陸選手権である。




スーパースコアの真実(2) ~ 四大陸選手権


日本選手が出場できるワールド前の最後のISU公式戦は四大陸選手権しかない。ワールド出場予定の選手にとって、四大陸に出場する最大の価値はそこにある。全日本の8週間後、ワールドの4週間前、という開催時期に意味がある。一方で、その開催時期が問題でもある。
ワールド代表に選ばれた選手は当然ワールドに最後の照準を合わせて、シーズン最高のピーキングをする。そのため、全日本の後に通常は意図的にコンディションを一旦下げるのだ。四大陸にピークを作ると、またそこからワールドへ向けてのピーキングをしなければならない。これが厄介なのだ。ワールド前に四大陸でISUジャッジの評価を確認したいのに、その四大陸でピークを持ってくるわけにはいかない。つまり、調整途中のコンディションで、どの程度の評価を得ればいいのかが判断が難しくなる。ただ単にジャンプが成功したか云々というのはジャッジ評価に関係なく、選手自身の感覚である程度納得できよう。

問題は、審判の裁量対象となる要素認定とそのGOE、そしてPCSである。コンディションを落とした中での評価になるから、評価があまり高くなくても気にしなくてもいいとも言えるが、それではピークのときの評価が予測できない。理想的には、「調子がイマイチ」なのに良い評価を受けることだ。調子が上がれば評価ももっと上がると期待できるからだ。そんな都合の良い話は滅多にない。しかし、その滅多にない結果を安藤選手が出した。それが四大陸での「200点超え」である。

以下に安藤選手の四大陸でのスコアをレビューするが、普通にレビューすると雑誌『Number』の二番煎じとなる。もちろんそんなことをしても価値がない。同誌のレビュー(Number On Number)では、単純に安藤選手の四大陸のスコアと金妍兒のバンクーバー五輪のスコアを比較して「安藤選手のスコアはすごい」と評しているのだが、それでは安直だ。バンクーバーのスコアと台北のそれとを比較するには条件を合わせなければ意味がない。つまり、2011年の世界選手権に向けてスコアの価値を検証するのであれば、今季のルールに照らし合わせて検証しなければ意味がない。よって、金妍兒の五輪でマークしたPBを10/11レギュレーションで換算して仮計算。その金妍兒の「仮PB」と安藤選手の四大陸でマークしたPBとを比較し検証する。
但し、1点だけ難題がある。それは金妍兒は昨季のFSで2Aを3回跳んでいることだ。周知の通り今季からFSでは2Aは2回まで。そこで便宜上だが、昨季FSで最後に実施した2Aを3Loに置き換えて換算する。なお、3LoのGOEは1.40に設定(同じエッジ系ジャンプの3SのGOEを代用)。もちろん、金妍兒が苦手の3Loを今季マスターしたと仮定しての架空の設定なのだが・・・・。

①金妍兒の昨季PB、②金妍兒の今季ルール適用版PB、③安藤選手の現PB(全選手のSB)の順で列記する。


①金妍兒の昨季のPB (バンクーバー五輪)

Short Program :  78.50
実施要素 : 3Lz+3T、3F、2A、CCoSp4、FSSp4、SlSt3、LSp4、SpSq4
TES : 44.70 (GOE平均 1.60)
PCS : 33.80 (平均 8.45)

Free Skating :  150.06
実施要素 : 3Lz+3T、2A+3T、2A+2T+2Lo、3F、3Lz*、3S*、2A*、CCoSp4、FSSp4、SlSt3、FCoSp4、SpSq4
(*は後半実施)
TES : 78.30 (GOE平均 1.73)
PCS : 71.76 (平均 8.97)

Total Points : 228.56


②金妍兒の仮PB  (五輪スコアの10/11ルール適用版)

Short Program :  71.04 (昨対差 7.46減)
実施要素 : 3Lz+3T、3F、2A、CCoSp4、FSSp4、SlSt3、LSp4
TES : 37.24 (GOE平均 1.54)
PCS : 33.80 (平均 8.45)

Free Skating :  146.21 (昨対差 3.85減)
実施要素 : 3Lz+3T、2A+3T、2A+2T+2Lo、3F、3Lz*、3S*、3Lo*、CCoSp4、FSSp4、SlSt3、FCoSp4、ChSp
(*は後半実施)
TES : 74.45 (GOE平均 1.73)
PCS : 71.76 (平均 8.97)

Total Points : 217.25 (昨対差 11.31減)



③安藤美姫選手の今季SB=PB (10/11ルール稼動後の世界最高スコア)

Short Program :  66.58
実施要素 : 3Lz+2Lo、3Lo、2A、CCoSp4、FSSp4、SlSt3、LSp3
TES : 35.69 (GOE平均 1.88)
PCS : 30.89 (平均 7.72)

Free Skating :  134.76
実施要素 : 3Lz+2Lo、3Lo、2A+3T*、3Lz*、3S*、3T*、2A+2Lo+2Lo*、FSSp4、CCoSp4、ChSp、SlSt3、FCCoSp4
(*は後半実施)
TES : 73.03 (GOE平均 1.74)
PCS : 61.73 (平均 7.72)

Total Points : 201.34


金妍兒のバンクーバーでマークしたスーパースコアは、今季のルールを適用すると10点以上も下がることが分かる。これは別段不思議でもなんでもない。そういうルールになったのである。他の選手でも同様のことが起きる。ゆえに、今季にPBを更新することは至難の業なのである。それでもPBを更新するには方法が2つ考えられる。1つは高基礎点の要素を新たに習得、PGに加えること。但し、要素数には制限があるから実際には「加える」のではなく、低基礎点の要素と「入れ替える」ことになる。もっとも、入れ替えた効果を大きくするには大幅な入れ替えが必要だ。例えば、2A(3.3)を3A(8.5)に入れ替えるような荒療治だ。3T(4.1)を3F(5.3)に入れ替える程度では追いつかない。もう1つは、GOEとPCSの向上である。安藤選手のPB更新、200点超えの原動力もそこにある。

顕著なのがGOEである。
安藤選手の四大陸の平均GOEはSP、FSとも金妍兒の五輪スコアを上回っている。五輪のような「インフレ」の追い風が求められるような大舞台でもなく、来場者を集めるために無料招待券をばらまかざるをえなかった、ISUチャンピオンシップの中では最も格が低いと見られている大会で、ISU自身もそれほど大きくPRすることもなかったワールドまでの日程上の隙間を埋める「ツナギの大会」で、ISUジャッジは安藤選手の演技に金妍兒を上回るGOEを与えた。これは掛け値なしに安藤選手の演技要素の「質」がジャッジに評価されたのだ。最も分かりやすいのはスピンだろう。肩を負傷してビールマンスピンを断念してから安藤選手は(SPでの)LSpを御座なりにしていたようにしか見えなかったが、今回はしっかり対策を採ってきた。姿勢変化を強調し、姿勢変化時に回転速度も上がるようになった。これは回転軸が改善されたからだ。これまでレベル2止まり、下手するとレベル1に終わることすらあった評価が、レベル3+GOE1.72(スコア換算0.86)を得るようになった。これは実質的にレベル4+GOE1.12(スコア換算0.56)に相当する。十分なレベルアップである。

そして最も賞賛されるのは、太田由紀奈さんもTVで賞賛していたFSでの演技後半の「ウィンドミル」である。このスピンは上半身を上下に大きくバンキングさせてフリーレッグを風車の如くぶんぶん振り回すダイナミックなスピン。太田さんも解説していたように上半身を大きく動かすために回転軸を保つことが難しいのだ。実際、全日本のときはまだ軸がぶれていてトラベリングを起こしていた。それがビシッと決まっていた。地道な練習を繰り返してきたのだ。太田さんの言葉がその様子を連想させる。
「安藤さんはジャンプは超一流だが、スピンは人並みだった。それがジャンプに見合うスピンになった。穴のないオールラウンドな選手になってきた。とてもよく練習してきたのだと思う」

しかし、それでも金妍兒のスーパースコアには到底追いつかない。今季ルールに当てはめると10点以上も下がるとは言え、まだまだ金妍兒のPBは安藤選手のそれを大幅に上回っている。その差はSPで4点以上、FSで11点以上、トータルで約16点だ。
それを埋める方策は明確である。3Lz+3LoをSPとFSの両方に入れることと、PCSをSPで8点以上に、FSで8.5以上に乗せることである。その両方が必要だ。

コンビネーションジャンプは可能だろう。もともとは出来ていたのである。それがセカンド3Loが目の敵にされるように回転不足を取られまくり、今は再投入を躊躇している状態だろう。例えばバンクーバーのSPでもセカンド3Loはダウングレードされたが、あれは流石に気の毒だった。あれはオーバーターンであって回転不足ではなかった。着氷で止め切れなかったために「グリ降り」と誤認されダウングレードされたのだ。それくらいセカンド3Loは厳しい目で見られてきた。それが今季少し緩和されてきた兆しがある。ジュニアでも認定されるようになってきたのだ。URで済むケースも多い。再挑戦する機会が来たと見ていいのではないだろうか。後は「安全策好き」のモロゾフ・コーチを翻意させるほどに練習を繰り返し、ジャンプの質を上げていくしかない。これは本当に練習しかない。

ここまでは計算できる。問題はPCSだ。長くなるとじれったいだろうから結論を先に書くと、安藤選手のPCSがモスクワで平均8点以上の評価をジャッジからもらうことは相当難しいと言わざるをえない。これも四大陸の結果から言えることである。
SP、FSともPCS平均は7.72である。少数第2位までぴったり同じスコアになることは偶然とは言え、ある懸念を想像せざるを得ない。それは安藤選手のPCSは「8点弱」というのがジャッジ間の定評になってしまっているのではないか、ということだ。
あの大会ではSP、FSとも安藤選手の演技は全選手中一番の出来だった。(点差はともかく)これに異論を唱える人はいないだろう。順位としては文句なく2日間とも1位だった。TESがそれを物語っている。問題はやはりPCSだ。要素数が減っているのにTESがSPで35点以上、FSで70点以上取るのは並大抵のことではない。それだけのTESに見合ったPCSが与えられていない。これは安藤選手の滑走順に問題があると思われる。

四大陸での安藤選手の滑走順は、SPでは有力選手の中でも最初の登場であり、FSでは「PCSで安藤選手を上回るポテンシャルを持っている」と予想される選手よりも前の滑走順だった。つまり、安藤選手の滑走順が有力選手よりも早かったためPCSは抑えられていた可能性がある。これは最近起きたことではなく、昔からジャッジにはそういう傾向がある。旧採点方式時代の遺産と言ってもいい。10点満点方式のPCSには相対評価の「文化」が残っているからだ。
換言すると、安藤選手のPCSは他の選手の出来次第と言えるかもしれない。他の選手がどんな演技をしようが揺ぎない評価が確立しているとは言えないのだ。安藤選手のPCSはまだ評価が上がっていない。それが四大陸のPCSが示していたと言えよう。

モスクワで安藤選手のPCSが伸びるには滑走順が鍵を握っていると私は見ている。彼女の後にまだ有力選手が控えているような滑走順を引き当てた場合は、安藤選手は髪の毛ほどのミスも許されない。PCSで救済してくれないからだ。




自立への覚醒


安藤選手の今季のPGはシーズン初めよりもだいぶ良くなってきた。コーチも振付師も変更していないのにPGが良くなってきたのはなぜか。それはモロゾフ・コーチの改心ではなく、安藤選手の成長にあると見るのが妥当だろう。それは安藤選手の言葉からも明らかだ。

「英語で円滑にコミュニケーションが取れるようになってきたので、今は言われたままに滑るのではなく、自分の意見も言って、自分のアイデアも入れるようにしている」

つまり、今季から与えられたPGを忠実にこなすだけではなく、自分で工夫を加えていると言うことだ。モロゾフの振付けの最大の欠陥である「マイム」は目立たなくなり、要素間のつなぎの滑りにも工夫が見られるようになった。モロゾフ・コーチの提示する振付けは幹と大きな枝があるだけだ。そのままではスカスカの樹だ。そこに枝を付け足し、葉を生い茂らせ、花を咲かせることを安藤選手が自分の意志でやっている。そういう変化が今季後半のPGに見られる。コーチの言いなりではなく自分の意志で自分のスケートを滑る。自己表現とは最終的に自己責任である。その自覚が芽生え始めているのではないか。
いつもは演技終了後に「ドヤ顔」を見せるモロゾフ・コーチが、全日本のFS終了直後は涙を見せた。単に演技に感動したからではなく、安藤選手が自分の教えを超えようとしていることに感極まったのではないか。モロゾフ・コーチは感激屋の側面もあるという話も聞いたことはあるが、少なくとも安藤選手の演技の後はいつもドヤ顔である。彼が予想外に見せた涙が安藤選手の自立の覚醒を予感させるものだとしたら、それこそが安藤選手のこれからの最大の伸び代になるだろう。

安藤選手は1年遅れで中京大学を卒業した。今年は「卒業」の年なのかもしれない。
尾崎豊が亡くなったのは19年前の1992年、4月25日。あれから間もなく20年になろうとしている。




最終章


安藤選手は今季がシーズンインする前から、「東京ワールドの後は休養したい。ソチを目指すかはその後で考える」と公言していた。モロゾフ・コーチも「トウキョウの後は休養させる」と言っていた。私が目にした翻訳が正しければ、彼の「~させる」という使役動詞を使った発言には思い上がりを感じざるを得ない。安藤選手はあなたのペットではないだろう。休むか、休まないかは選手が決めることだろう。鶏が先か卵が先かという問題はあるが、とにかく安藤選手は今季終了後の休養を考えていたことは事実だろう。
そして、恐らく休養からそのまま復帰しないでコーチに転進することは十分に予想できる。休養から戻ってきてトップクラスを争えるほど今の女子は甘くはない。今ちょうどジュニアからシニアに上がってくる世代は才能の宝庫だ。この中からさらに絞り込まれた選手がソチ五輪の中心となるだろう。その主役は正に今ワールドが開催されているロシアから出てこようとしていることは、既にスケート界の常識になっている。そういう中で競技に復帰することは相当の覚悟がいる。そして一番の問題はその覚悟を支えるモチベーションにある。達成感があった後の競技復帰を実行するには強いモチベーションが必要だろう。
自己表現に目覚めつつある安藤選手に、休養明けで競技会に戻ってくるモチベーションは残っているだろうか。

そんな空想や危惧も、3.11がすべてぶち壊してしまった。すべてが無に帰してしまった。
母国開催のワールドで納得する結果を出し、休養するというシナリオは根底から崩れてしまった。日本で再度ワールドが開催されるのは早くても2015年であることをISUが明らかにしている。


私が今回のエントリーのタイトルに「最終章」という言葉を入れようと考えたのは、実は3.11よりも前のことだった。そのシナリオが崩れた状況でもなお私は「最終章」という言葉をタイトルに入れることを決めた。
それはモロゾフ・コーチに心酔し、同コーチに従う関係の中から生まれた「安藤美姫物語」から卒業し、自分自身で描く「新・安藤美姫物語」を安藤選手自身が語り始めてほしいと言う思いからなのである。




Epilogue


四大陸選手権では表彰式まえに優勝者インタビューが行なわれた。髙橋大輔選手のインタビューはBSフジでオンエアされたが、なぜか安藤選手のインタビューは放送されなかった。日本語で答えた髙橋選手と違って、安藤選手が英語で流暢に答えているので翻訳テロップをつけるのが面倒だったというわけでもないだろう。理由の詮索はしないが、J sports ではきちんと放送していた。安藤選手のインタビューは大変ウィットに富んでいて、チャンピオンにふさわしい受け答えだったので、その大要を最後に紹介する。(J sports LIVE より)


MC 「それでは優勝者インタビューを行ないます。四大陸選手権、女子優勝の安藤美姫選手です」

安藤 「你好(ニイハオ)」

MC 「おめでとうございます。演技はいかがでしたか?」

安藤 「会場に応援に来てくれてありがとうございました。謝謝(シェーシェー)。少し疲れていて完璧ではなかったけど、初めての台湾での大きな大会で良い演技ができたと思います。応援ありがとうございました。皆さんが大好きです」
(アドリブで中国語を混ぜている。地元観客は大喜び)

MC 「初めての台北はいかがですか?」

安藤 「台湾はとても暖かくて、台湾の方も素敵で、快適に過ごせました。台北と台湾がとても気に入りました(わざわざ台湾と付け加えている:筆者註)。今度は試合ではなく遊びでも台湾に来たいです」

MC 「それはいいですね。最後に台北のファンにメッセージを」

安藤 「また台湾で、別の試合とかアイスショーとかでお会いしたいですね。また近いうちに会いましょう。ありがとうございました」


私はこのインタビューを聞いて、世界中のオーディエンスに向けてインタビューに答える選手として、今、日本で最も相応しいのは安藤選手だと確信した。是非とも代々木体育館でまた安藤選手のインタビューを聞きたいと思った。その望みは3.11を境に実現することは叶わなくなったが、会場がモスクワになっても、優勝者インタビューは行なわれるようだ。安藤選手であれば、今度は英語だけではなくロシア語も混ぜてインタビューに答えてくれるだろう。

それが叶ったときに、安藤選手には一つだけお願いがある。
今度は是非日本語でも答えてほしい。遠く日本から復興の希望を託して声援を送り続けてくれる被災地にも向けて・・・・。

posted by pbq1447 |21:53 | コメント(9) | トラックバック(0)
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はるさん!4

コメント投稿者ID : pbq1447

返信がすっかり遅くなってしまいました。

某選手についてはこれ以上ここでは書けません。
はるさんの投稿は非表示にできても私の投稿は非表示にできません。ですからこれ以上具体的には書けないのです。
直接メールでご連絡できれば情報はクローズドになるので具体的な言及が可能になりますが、こういうオープンな場ではこれ以上は抽象的な話に終始せざるをえないのです。
これも某選手を心配してのこととご理解、ご容赦ください。


モロゾフとアモディオの件ですが、私がつかんでいる情報では「今まで通り」とにはならないようです。
最終的には契約解消するだろうということです。
但し、これについては確度が曖昧な伝聞情報なので、ブログ本編では触れずに、コメント内の「つぶやき」程度に捉えてください^^;
モロゾフはガチンスキーに食指を伸ばしているという情報もあるくらいですから・・・・

「モスクワ派 vs. サンクトペテルブルブ派」という抗争がソチへ向けて始まっているという視点は興味深いですね。
ただ、そうだとすると、はるさんも危惧されているように川口選手のことがちょっと気がかりですね。
(自民党が与党だった時代に例えると)どうやらモスクワ派が主流派で、サンクトペテルブルブ派は非主流派でしょうから・・・・(溜息)


またお気軽に遊びに来てください。
ではまた。

posted by pbq1447 | 2011-06-15 22:42

めのこさん!

コメント投稿者ID : pbq1447

はじめまして。管理人のpbq1447です。
返信が遅くなってすみません。


>フリープログラムは(中略)確かにあまり「面白く」はない作品だったとは思います

そうですね。私個人の嗜好から言えば、SP「ミッション」の方が気に入っています。
安藤選手のパフォーマンスもSPの方が良かったと思います。


>彼女自身が決めることではありますが、もう1シーズン、彼女の演技がどう変わっていくか見たい気持ちがあります。

まったく同感ですね。
彼女は今季、またもや新しい引出しをSP「ミッション」の表現面で見せてくれました。
また、技術的な向上はSPだけではなくFPでも見せてくれました(特にスピンのレベルとジャンプの質向上)
まだまだ競技会での安藤選手を見たい、いや寧ろこれからが見せ場だろうと思うスケートファンは多いでしょう。


>あとは、モロゾフ自身が「他人を尊重する」というのがどういうことかちゃんと知っているかということの問題になりますが。ここが一番どうにもならない問題かもしれません。

ハハハ・・・・
多分彼は本質的には今後も変わらないでしょうね。
ただ環境の変化が彼に「躾」を与えることになるかもしれません。
彼はロシア連盟からソチ五輪に向けて、相当の大仕事を任されました。これは彼の将来を左右する大商いです。
その仕事が最優先されるはずですので、安藤選手に割かれる時間は減ると予想されます。
そうすると結果的に彼は安藤選手の自主性を今季以上に尊重することになるだろう、
私はそう予測しています。(というよりも個人的な希望的観測ですが^^;)



安藤選手については「2010-2011シーズン総括」でまた言及します。
これかもよろしく。気軽に遊びに来てください。

ではまた。

posted by pbq1447 | 2011-06-15 22:18

はじめまして

コメント投稿者ID : OOH00028608

初めてコメントさせていただきます。

こちらのブログを読み始めたのは最近ですが、興味深く拝読いたしました。

安藤選手の今季の活躍、非常にうれしく見ていました。
今季、初めて安藤選手のプログラムが目に見えて「成長」したように思います。
これまでも技術的な部分がなじむとかそういう面での向上はあったと思うんですが、その時の本人の調子によらずプログラムそのものがどんどん良くなっていく印象を受けたのは今回が初めてでした。
フリープログラムは、音楽をあまり的確に表現していないなんていう批判も海外であったようですが…。確かにあまり「面白く」はない作品だったとは思いますが、ああいうプログラムであるなりにディテイルはこれまでになく作り込めたのではないかと思います。
安藤選手の成長によるものなら、本当にうれしいですね。

彼女自身が決めることではありますが、もう1シーズン、彼女の演技がどう変わっていくか見たい気持ちがあります。
そのためには、安藤選手とコーチとの関係は、今後変化していくべき、というか、このままでいいと思うことが私にもできません。
今だから言いますが、以前の彼女は他人の言葉を通してスケートというものを見ていて、いろんな意見に翻弄されては失敗しその結果コーチの言葉に依存していったような印象がありました。
でも今の彼女は自分の目でスケートというものを見始めていると思います。であれば、その目から見える風景をコーチは尊重すべきでしょう。
以前モロゾフは安藤選手にそういう意識が芽生えることを願うようなことをときどき話していたように思います。実際、今の安藤選手とは仕事がしやすいとも話していますね。
あとは、モロゾフ自身が「他人を尊重する」というのがどういうことかちゃんと知っているかということの問題になりますが。ここが一番どうにもならない問題かもしれません。
教師は生徒から教わることがたくさんある、とよく言います。モロゾフコーチが安藤選手から何か大切なことを学んでくれれば、今回のプログラムの進歩がその兆しであればと願わずにいられません。

まあ、私の考えも「いろんな意見」の一つにすぎないので、言っても仕方ないことではあるのですが。
なんだかこちらのブログを読んでいて「そうだよなぁ」と思うことがいろいろあったので、コメントさせていただきました。

posted by めのこ | 2011-05-23 23:44

はるさん!3

コメント投稿者ID : pbq1447

はるさんの某選手に対する心配は、私が知りえている情報、事情と恐ろしいほどに符合します。正直驚きました。
かなりの確率でその心配が的中するのではないかと私も、私の友人も心配しています。
やっかいなことに、某選手本人は「必ずしもハッピーエンドで終わるわけではない」ということを察知していながら、その中へ飛び込んでいこうとしていることが、事情をさらに複雑にしています。
一般的にはなかなか理解、共感、同情しがたい話だと思います。

はるさんがご指摘の通り日本のマスコミは残酷で、雨後の筍のように現れたフォロワーのファンは表層的で移り気ですから、かかる事態が現実になった時には、某選手は日本ではスケートを続けられないほどにバッシングを受けてしまうのではないかと気が気でなりません。
心底、杞憂に終わってほしいと私も切望しています。

ただ、この件については、間もなく重大な発表が正式にあるかもしれません。某選手の今後のキャリアに関する重大な発表です。それはただ単に「今季休養」とかそんな簡単な話ではないことです。
プライバシーに関連する話なので、本来は放っておけばいいことなのでしょうが、確実にキャリアに重大に影響する話でもあり、恐らく某選手のファンを二分してしまう話に発展するのではないかと私は危惧しています。


災い転じて福と成す
怪我の功名
雨降って地固まる
晴れない空はない

私は、思いつくだけのありとあらゆる格言が実現することを願って止みません。

posted by pbq1447 | 2011-05-22 11:45

『安藤美姫物語』 最終章

コメント投稿者ID : yuuyake

こんばんわ

回答ありがとうございます

>ご返信も最後になったという次第。決して無視していたわけではありません。

イヤイヤ、もう、そういう部分は十分過ぎるほど分かってますよ。逆にフォローとして書いてあったのでビックリした^^

アシスタントの件はそうでしたか。よく分かりました。

以前のエントリーを読んで、モロゾフさんに対して僕は

「この人ってコーチというより代理人、エージェントのような一面を持ってるな」

と感じました。欧州リーグのメルカートに飛び交う噂の類もチームや代理人がワザとリークするってパターンがありますよねぇ。

アメリカのエージェント達はバブルのように選手の年俸を跳ね上げてるんやけど、何だかんだで自分と契約している選手に関しては外敵から全力で守りますよね。選手を商品として割り切ってる部分もあると思うんやけど、商品価値を自ら落とすような事は絶対にしない。こういう部分がやっぱプロって事なんでしょうネ。

そういう意味では、モロゾフってエージェントっていうより、元日本代表監督のフィリップ・トルシェぽいと言ったほうが自分的にはスンナリくるかも知れません^^

posted by 夕焼け | 2011-05-20 18:09

夕焼けさん!

コメント投稿者ID : pbq1447

ご無沙汰しています。管理人のpbq1447です。
ご返信遅くなりすみません。

昨日の投稿はすべて届いていますのでご安心ください。
一応、順番というものがありまして、夕焼けさんの投稿が最新だったものですから、ご返信も最後になったという次第。決して無視していたわけではありません。


ええーーと、何について返信しましょうか?
安藤さんとモロゾフの件ですか?
結論から言うと、あの情報は半分事実で、半分憶測です。

半分事実というのは、情報源がモロゾフ本人だということです。つまり、あれは「モロゾフの希望」だそうです。
モロゾフが安藤さんに自分のアシスタントをやってくれないかとオファーしているとのこと。
それをさも決まったかのようにメディアに漏らすのは、モロゾフ一流のリークです。
安藤選手だけではなく他の選手もモロゾフのリークには立腹しているということです。
モロゾフはそれを笑ってごまかしているらしいですが。(モロゾフはこういうことには真剣に耳を貸さないそうです)

半分憶測、というのは、そのモロゾフリークを真に受けた記者が憶測を交えて書いたということです。というのもその記者は安藤さん本人に裏取り取材していませんから。
他の選手でも言えることですが、選手に裏取りできていないモロゾフリークの記事は話半分に解釈するのが正しい読み方です^^;


一方で、安藤さんが今季を休養するというつもりだったということは本当らしいですが、それもあの3.11で白紙に戻ったらしいです。
安藤さんは長期計画を立てて物事をこつこつと進めていくタイプではないということ。そのときどきの状況で判断していくタイプだそうです。
ですからソチを目指すことは視野に入っているかもしれないけど、決断したわけでもないそうです。
来季も競技生活を続けるという意志はある、でもそれがいつまで続けられるかは本人も分からない、というところでしょう。

Tomorrow never knows.

ちょっと達観しているところがありますね。公私ともに波乱万丈のキャリアを歩んできた選手ですから「約束された未来など何もない」という心境になっても不思議はありません。


ではまた。

posted by pbq1447 | 2011-05-19 18:19

うにさん!(その2)

コメント投稿者ID : pbq1447

(その1より続く)


>モロゾフの弟子への態度が横柄でペットではない、とか安藤はモロゾフに心酔していた、自立、という表現でかかれると、

この辺のうにさんの解釈というか、価値観、感情、言葉の解釈については、私とは決定的に異なるようです。
総じて言うと、うにさんと私とでは基本的に「文化」が違うようです。まあ、何事も十人十色なので違って当たり前であり、その違いを認めて受け入れることが肝要ですから、気にはしません。
但し、いくつか言葉の使い方で誤解があるようなので、その点だけは反論しておきます。

私は「横柄」という言葉は使っていません。「思い上がり」と書きました。
「ペット」という表現はもちろん比喩として使っているわけですが不適切だとは思いません。ペットとは自活できない愛玩動物のことです。
選手自身が結論を出していないのに、選手のスケートキャリアに影響する重大な決断を、その選手がいない場で勝手に言及することは、その選手の「生殺与奪権」をコーチである自分が握っていることを誇示したいからとしか思えません。
ですから、モロゾフコーチが安藤選手をペットのように扱った発言は思い上がりだ、と書いたのです。

「心酔」、「自立」という言葉に反感を覚えられたようですが、まったく理解できません。
「盲信」、「逃避」というような言葉を使ったのであればともかく、心酔や自立にはネガティブな意味はありません。私はポジティブに使っています。
心酔とは「心から感服し尊敬する」ことであり、自立とは「他からの支配や助力を受けずに存在する」ことです。他意はありません。
それとも、うにさんは安藤選手がいつまでも自立せずにいつまでもモロゾフコーチへ強く依存した選手でいてほしいと願っているのですか?
私は安藤&モロゾフの関係だけではなく、トップクラスのシニア選手とプロコーチとの関係は、すべて自立したものでなくてはならないと思っています。トップアスリートは人間的にも成熟していなければならないからです。
そういう意味で「自立」と言ったのです。コーチ契約の継続・解約というような形式的なことを言っているのではありません。


>ちょっと安藤が気の毒で悲しくなりました。

もしかしてうにさんは、安藤選手とモロゾフコーチの関係に「美しい師弟愛」とか「師弟を超えた友愛」とか「国境を越えた人間愛」みたいなロマンスを感じ、そこに美を見い出していますか?
もしそうであれば、先日来の私のモロゾフ関連のエントリーは不快に思われても無理からぬこと。
二人の関係を美化するのは個人の感性の問題でしょうから口を差し挟みませんが、残念ながら私は違います。実態がどういうものであるかを知っているからです。それは決して「美しい関係」と一言で言えるものでは到底ありません。(実態の詳細についてはプライバシーの観点からも明らかにできませんが・・・・)


いろいろ書きましたがお約束できることは、いい加減な、流言飛語と大差ない情報しか得ていない場合は、私は選手に不利益に働く可能性があるようなことは決して書かない、ということくらいでしょうか。
また、確かな情報だとしても選手本人のプライバシーに関わるようなことには言及しません。
但し、コーチ、振付師、審判、連盟、メディア、行政と言った権力側、圧力側にある立場の人々に対してはこの限りではありません。選手の不利益につながると判断した場合は批判、攻撃することもやぶさかではありません。(もっとも批判や攻撃を目的にブログを書きたいとは思っていませんが)

それが私のブログポリシーであり、それは開始以来変わりません。
後日、新情報が入り、訂正すべきことがあると判断した場合は別ですが、今現在(2011年5月19日)は、先日のエントリーを訂正しなければならないような情報を私は入手できていません。
一方で私は自分の過ちを認めることに躊躇するような人間でないことも忘れずにお伝えしておきます。但し、そのためにはそれなりの根拠が欠かせないことは言うまでもありません。


(了)

posted by pbq1447 | 2011-05-19 17:43

うにさん!(その1)

コメント投稿者ID : pbq1447

はじめまして。そして返信遅くなってすみません。
管理人のpbq1447です。

うにさんのコメントのどの部分にどう回答していいのか、明瞭な整理はついていませんが、うにさんがせっかく投稿してくださったので、私もできる限りの誠意をもって回答します。
少々長くなるので2回に分けて回答します。最後までお付合いください。


まず、私の立ち位置を明らかにしておきます。
私は選手を応援する者であり、コーチや指導者、組織・団体を応援することに関心はありません。彼らを支持する場合は、当該選手の応援の助力になると判断した場合に限られます。
逆に、当該選手の不利益になると判断した場合は、例え当該選手のコーチであろうと批判することに私は躊躇しません。もちろんそれなりの客観的根拠を提示しての上ですが。
まず、この立ち位置がうにさんとは異なるのだと思います。それを理解した上で回答します。


>安藤とモロゾフの師弟関係の関わりかたや演技以外の彼らの練習内容や人格などについて、我々が把握できる事は砂粒のように少ないです。

恐らく、というかほぼ間違いなく、私はうにさんよりも多くの正確な情報を保有しています。
それはメディアの記事報道、ネット上の情報や第三者からの伝言のようなものではありません。
その程度であれば「把握できる事は砂粒のように少ない」と言ってもいいでしょう。
うにさんの情報はその程度なのでしょうから、仕方ありません。一般的なことでしょう。
ですが、私が書いていることはそのような情報源を元にしているわけではありません。
情報源を明らかにすることについて当事者の了解を得ていないので公表しませんが、私の情報源は「間接的な情報源」ではないということだけをお伝えしておきます。
もう少しだけ突っ込んで言うと「複数の直接情報源」ということです。


>安藤が5年モロゾフから離れなかった事などは、彼女がそうしようとした根拠があるのであって、それは我々の伺い知れない様々な事情が当然あるわけで

もちろん安藤選手には彼女なりの「根拠」があってモロゾフに師事しています。しかもそれは彼女の明確な意思です。
ですが、その事情について私はうにさんのように「伺い知れない」わけではありません。私はいくつか確実に知っていることがあります。但し、彼女を擁護する意味でその「事情」を明らかにするつもりはありません。


>少なくとも何か彼にいいところがあるから彼女はあの時強い意志でふんばって残ったのでは、と思います。

その通りです。彼女は非情に「踏ん張って」います。それは悲壮なほどの覚悟と精神力で「踏ん張って」います。このことは公けになっていませんが、本当に助けてあげたくなるほどに「踏ん張って」います。


>でも安藤にしか永遠にわからない事です。

それはどうでしょうか。
少なくとも私には分かりますし、理解できます。理解できるだけの事情を知っています。その上でモロゾフ批判をしているのです。


(その2へ続く)

posted by pbq1447 | 2011-05-19 17:41

『安藤美姫物語』 最終章

コメント投稿者ID : OOH00027972

はじめまして。こんにちは。
私は安藤選手のファンで、コメントさせて頂いた事は一度もなくとても迷ったのですが、今回だけはちょっと残させて下さい。

氷上の演技やプログラムの内容についてならともかく、安藤とモロゾフの師弟関係の関わりかたや演技以外の彼らの練習内容や人格などについて、我々が把握できる事は砂粒のように少ないです。

安藤が5年モロゾフから離れなかった事などは、彼女がそうしようとした根拠があるのであって、それは我々の伺い知れない様々な事情が当然あるわけで、少なくとも何か彼にいいところがあるから彼女はあの時強い意志でふんばって残ったのでは、と思います。でも安藤にしか永遠にわからない事です。それを2人の関係についてモロゾフの弟子への態度が横柄でペットではない、とか安藤はモロゾフに心酔していた、自立、という表現でかかれると、ちょっと安藤が気の毒で悲しくなりました。

知りえる情報を集め、このインタや記事が正しいならこの人はこういう人達でこう思う、と誰もが発表するのは当然自由だし、他人がとやかくいう事ではありません。
かかれた事に文句をつけようなどとは当然これっぽっちも思っていません。
ただ、もしかしたら彼らの行動の背景には我々が知らない何かが沢山あるのかもしれない、見えないパズルがあるのかもしれない。
彼らはこういう人にみえるけど本当はちょっと違うかもしれない。
そういう余地をほんの少しでも残してみていただけたら、とてもありがたいと、そう思いました。

posted by うに | 2011-05-05 12:12

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