社説:「石原新党」結成へ 「第三極」理念が問われる
毎日新聞 2012年10月26日 01時31分
突然の表明である。13年にわたり都政にあずかってきた石原慎太郎東京都知事が辞職を表明、自身を党首とする新党を結成し国政進出を図る考えを示した。
民主、自民両党に対抗する勢力の結集をめぐる動きが活発化することは確実だ。石原氏が前向きとみられる、橋下徹大阪市長が率いる日本維新の会との連携も焦点となる。いわゆる第三極の結集論議があくまで政策本位で進むかが問われよう。
いきなりの辞職表明ではあったが、石原氏による新党構想はかねてくすぶっていた。
25日午後3時からの緊急記者会見で石原氏は新党結成の目的に現憲法の破棄や中央集権の打破を挙げた。自らが仕掛けた尖閣諸島の都による購入問題は結局、政府による国有化という形で決着した。石原氏の長男、伸晃氏が自民党総裁選で敗北したため、親子が党首として戦う展開もなくなった。そんな状況も背中を押す要因となったのかもしれない。
改憲、対中強硬路線で知られる石原氏率いる新党の参入はとりわけ「安倍自民」にとって無視できぬ競合相手の出現となる可能性もある。だが、都知事としての行動が結果的に対中関係悪化の呼び水となっただけに、新党による国政進出に不安がつきまとうことも否定できない。
再挑戦している東京五輪招致などの懸案もある。任期を2年以上残して都政を去る以上、納得できる説明がいる。会見では「中央集権の官僚制度のシャッフル」「最後のご奉公」など言葉は躍ったが、政策の輪郭を伝えたとはいいがたい。具体的政策の早急な提示を求めたい。
今後、改めて注目されるのは「第三極」結集の動向である。石原氏が強調した官僚支配打破などは確かに橋下氏らの主張とも通じる。
だが、同じ改憲の立場ながら憲法問題で「(現行憲法は)廃棄したらいい」との石原氏の主張に橋下氏は「憲法を勝手に破棄するというのは権力者が絶対に踏み越えてならない一線」とこれまで反論してきた。
また、次期衆院選の焦点となるエネルギー政策について維新の会は2030年代までに原発ゼロを目指す公約案を検討しているが、石原氏の立場は異なるはずだ。
政策の方向が共通する新勢力の連携はむしろ自然かもしれない。だが、理念にかかわる部分の食い違いを放置して反既成政党の協力を掲げても政界再編を主導するような勢力たり得るかは疑問である。
石原氏の辞職に伴い、東京都知事選も実施される。首都のかじ取り役を選ぶこれも重要な場となる。新勢力以上に問われるのは既成政党の力量である。