自己啓発以外の本はどうでしょうか? 一般向け脳科学の本です。一般向けといっても、内容的には専門書に近いようなレベルの本がある一方で、俗っぽい内容のものまでいろいろあります。自己啓発関連の本と同様に効用を強調したタイトルが目立ちます。内容的には成功哲学や自己啓発の本と変わらないものもあります。いい本もあればダメな本もある。
ダメな本のタイトルに付けられた「脳科学」。いい加減な内容でも、「最新脳科学が明らかにした○○○」という言葉があるだけで、その本に対する信頼性が一段と高まります。その言葉の持つ確かさや絶対性ゆえに、私たちは脳科学という言葉には弱くならざるを得ない。脳の活動を撮影した画像や、構造、機能説明図などが載り詳しく脳科学的な言葉で説明されてると、信頼性もさらに増していきます。
そして役立たずの本を、「なるほど・・・」とつぶやきながら、少しはわかったような気持ちになりページをめくっていく。
国内で、脳機能の最高権威といわれる京都大学名誉教授の久保田競氏は、自書「バカはなおせる」のなかで、世の中に出回っている"脳の書籍"の多くには、その内容に不正確さや誤解が含まれているので信用してはいけないと警告を発しています。脳の働きを研究する専門学者たちも、誤った脳科学の情報がいかにも常識のように世の中に広まっている状況を嘆いているとのこと。
他にも久保田氏と同じような指摘している研究者たちがおり、脳の本選びは慎重にならなければなりませんが、私たちにはどの本が間違いない本なのか判断できず、どうしても宣伝されている本、話題の本、売れている本の方に目が行ってしまいます。
久保田氏の指摘をもう少し紹介しましょう。
―マスコミが、おもしろおかしく取り上げやすいものだけが流布され、ベストセラーになります。そのいっぽうで、脳の専門家によるまともな意見はなかなか大きな声になりません・・・とにかく脳機能の専門学者の目から見れば、書店に並ぶ脳の本のほとんどは、不正確な内容を含んだおすすめできない本になってしまいます。実は"ヒト"脳機能については、"非専門家"である学者たちが、科学雑誌に出た論文や新聞記事などを読んで誤解、曲解をし、それをもとに妄想を展開してしまっている書籍が大部分です―
かなり辛辣な指摘ですが、実際さまざまな脳の本を読んでいると、その通りではないかという気がしてなりません。私たちはどうしてこのような本に飛びつくのでしょうか。脳ブームがもたらしたもの、次から次へと脳の本が出版される理由。要は本を出版し宣伝すれば飛びつく人が確実にいるということです。
どういう人が飛びつくのでしょうか。飛びつきやすいタイプの人を私なりにリストアップしてみました。
下記の項目に2つ以上該当する人は飛びつく可能性の高い人だと言えるでしょう。以前は私もいくつか該当していました。
こんなところでしょうか。誰もが一つは該当するのではないでしょうか。実践的に役に立つ脳の知識を手っ取り早く得たいと思っている人ほど、似非脳科学情報に振り回され脳科学商法の思うツボになるのです。空前の脳ブームと言われるなかで、私たちの脳科学に対する見方が徐々に歪められつつあるのを感じないわけにはいきません。
間違いのない脳の本を選ぶには、
などなどです。ここに挙げたのは、私が多くの脳の本を読んだ経験から本選びの基準にしているものです。1000円もしない新書版を買う場合、いちいち調べる方が面倒くさいでしょうが、少しでもあなたの脳の本選びの参考になればと思います。
注意すべき書き手もいます。右脳開発や右脳教育などの本を多数出している著者の本は、そのオカルト的内容からトンデモ本としか言いようがありません。脳波による脳力開発関連の本を出している人物や、速聴をテーマに本を出している著者の本なども、どうみても科学的根拠はなさそう。
「脳科学者」として知られている人がいます。脳機能学の世界的権威、天才脳機能学者として多くの本を書いています。ベストセラーも出しています。この人、"世界が注目する驚くべき天才"なのに、PubMedで検索しても脳機能学に関する論文がひとつも出て来ない。PubMedは世界一の学術文献データベースです。ちなみに上述した久保田氏で検索してみると10件以上の論文がヒットする。共同執筆ではもっとあります。さすがにトップレベルの科学者です。
論文こそが研究者の証であるのに論文がないとはあり得ないことです。自分の名を知らしめる脳機能研究の英語論文一つないのにどうして世界が注目するのでしょう。
なのに、「天才」や「世界的」を売り物に高額なセミナーまで開催している。じつは「天才」や「世界的」は金儲けのための商売道具なのですね。この人自身、自著やセミナー案内でも脳機能学が専門だとか研究してきたとか強調していますが、脳科学分野での研究実績はまったくありません。脳機能学会など見当たらないし、脳機能学という研究・学問分野や領域、科目は調べてもほとんどありません。
他にも、怪しげな理論を、さも脳科学的な根拠があるように語る"脳科学者"と見られている人がいます。科学的にまだ検証されていないのに科学的事実かのように言う。世間で脳科学者だと思われている人の手口です。まだわからないことに対しては、ホンモノの学者や研究者ほど慎重な説明になっています。
本のなかで、「このことに関してはまだわかっていないのだが」というような書き方をしている著者なら、ホンモノの科学者と言っていいでしょう。
出版社も要注意です。似非脳科学情報の発信基地的な役割を果たしているのではないか、と思われるような出版社もあります。ビジネス関連や自己啓発の書籍を出してますが、脳科学的俗説も社会に流しているとしたら問題ですね。医学系の出版社が出している本は間違いがないと思います。堅い内容の本が多いですが。いま述べてきたことは神経神話とも言われており社会問題にもなることでしょう。当サイトでも関連記事を特集しています。
しばらく前に大ヒットした「脳内革命」という本。脳の本としては画期的な売り上げ部数を記録しました。私たちの「脳」によせる期待がいかに大きかったか、ということがわかります。専門家からは、この本には医学的な間違いがあり、その主張は科学的な根拠に基づいていないなどという批判が寄せられていたにもかかわらず、ブームに煽られ、多くの人が役に立つと思い買い求めました。
読んで脳内革命に成功した人はいたのでしょうか。じつは、"革命的に脳が変わっていく"という夢を見させてくれただけに過ぎないのです。検証されたデータがあるわけではなく、単なる想像の産物だったと言わざるを得ないでしょう。その後も多くの脳ハウツウ本が出ています。あまり役に立ちそうもない本ほど売れるという事実から学ぶことがありそうですね。
具体的な例を挙げ、話題の本もじつは首を傾げざるを得ない内容だったり、その選び方を間違えると役に立たないということを書いてきました。数え切れないほどある脳の本ですがお勧めできるものは少ないのです。
多くの脳の本を読んで悟ったことは、次から次へと脳の本を読んでも、あまり得るものはないという事実でした。それよりも本当に役に立つ本を数冊でいいから、2度3度読んでその正確な知識を自分のものにする。正しい理解をする。それに尽きるのではないか。それが結論のように思います。
このレポートが多少でもあなたの脳の本選びの役に立てればと願っております。