中国の権力闘争が佳境を迎えている。来月8日からの第18回中国共産党大会で、次期総書記に習近平国家副主席(太子党=共産党高級幹部の師弟グループ)が就任することが決まっているが、胡錦濤国家主席(団派=共産主義青年団派)が、人民解放軍を掌握する党中央軍事委員会主席に留まり、「院政」を敷くとの見方が強まっている。「銃口から政権が生まれる」といわれる中国。「太子党・上海閥」と「団派」による主導権争いは、中国の日系企業や、沖縄県・尖閣諸島の平穏にも影響しそうだ。
5年に一度の共産党大会まで3週間を切った。
最高指導部である政治局常務委員会メンバーは「チャイナ・ナイン」と呼ばれた現在の9人から7人に減らされそう。現時点で「チャイナ・セブン」には、次期総書記となる習氏と、首相就任が有力視される李克強副首相(団派)の2人が入るのは確実で、残り5席を有力候補が競っている。
同時に、総書記を退く胡氏が、総兵力230万人という人民解放軍トップの地位を手放すかどうかも関心を集めている。
中国事情に詳しい評論家の宮崎正弘氏は「ほぼ、党中央軍事委員会主席に残りそうだ。『院政』を敷くだろう」といい、こう続ける。
「今回、軍事委員会のメンバーも大幅に入れ替わる。現在、軍人のプロパーである最高幹部クラスは、上海閥率いる江沢民前国家主席が抜擢した『太子党』ばかり。胡氏としては『太子党・上海閥』の増長を防ぎたい。党中央軍事委員会主席の地位に残っているうちに、できるだけ、『団派』を登用していくはず。尖閣強硬派の軍幹部が出世するかも注目だ」
中国共産党は、国民党との「国共内戦」に勝ち抜いて中華人民共和国を樹立した。人民解放軍は中国政府の軍ではなく、共産党の軍事組織。戦争で国を建てた革命政権のため、軍の統帥権を持つ党中央軍事委員会主席が、強大な力を持つ。
●(=登におおざと)小平氏はかつて、政府では国家副主席が最高位だったが、1981年6月から89年11月まで、党中央軍事委員会主席の地位に君臨した。このため、途中で政治局常務委員を退いて一般党員になっても、「最高実力者」と呼ばれた。
江氏も2002年11月に党総書記を退いたが、04年9月まで、党中央軍事委員会主席にとどまり続けた。軍歴がなく軍人に軽く見られた江氏は、自分に忠誠を誓う軍人だけを重用し、大将ポストを乱発した。これが、現在の軍の汚職・腐敗につながったとされる。
胡氏率いる団派の動きに敏感になったのが、既得権を手放したくない習氏や江氏らの太子党・上海閥。
9月の反日暴動や、尖閣周辺での挑発行為について、「団派の影響力を削ぐための、太子党・上海閥の工作活動」「習氏が主導した」という見方があるが、日本の公安当局も似た見解だ。
「反日暴動の発生場所を分析すると、広州や深●(=土へんに川)など、団派の書記が統治する都市が集中的に狙われており、日系企業などへの破壊工作も激しい。日本の尖閣国有化に対する反対運動というだけでなく、中国指導部による権力闘争の一場面と見るべき。習氏が『反日』を利用して主導権確保を狙っている以上、日中関係の改善は簡単ではない」(公安当局筋)
太子党・上海閥の逆襲が指摘されるなか、胡氏は人民解放軍を抑えるだけでなく、習氏周辺にもクサビを打ち込んでいる。宮崎氏はいう。
「次期政権の党中央弁公庁主任に、団派の栗戦書(りつ・せんしょ)前貴州省党委書記が決まった。党中央弁公庁主任は、日本の官房長官のような大番頭ポスト。栗氏は、習氏とも関係が悪くないというが、習氏は一番重要なところに自分の子分を置けなかった」
「もともと、習氏にはカリスマ性や独創性はなく、『八方美人で、現体制を維持するのに都合がいい人物』として、江氏らに引き上げられた。今後、団派と太子党、上海閥が牽制しあいながら、国家を指導していくことになる。水面下での激しい駆け引きは続く」
「反日」が共産党内の権力闘争に利用されている以上、日本は覚悟を決めて、外交戦略の見直しをすべきではないか。