「サムスン排除」の意味するもの
さて、iPhone 5登場にあたってEMS/ODM(Original design manufacturer)業界で注目されたのは、2012年9月初旬に浮上した、アップルが部品調達で韓国Samsung Electronics社(サムスン)に対する発注を大幅に減らしているという話題。
一例を紹介すると、台湾の民間調査会社、TrendForce社傘下の研究部門であるDRAMeXchangeは同月10日に発表したレポートで、アップルが2012年下半期、サムスン以外のメーカーからのDRAM調達量を拡大したと指摘した。具体的には、アップルのモバイル用DRAM調達量におけるサムスンからの調達量が占める割合は、2012年初頭の約40%から直近では約30%へと低下。これに対して韓国SK Hynix社とエルピーダメモリが供給を増やしているとした。
レポートはこのほか、iPhoneとタブレットPC「iPad」に搭載するパネルについても、アップルはジャパンディスプレイ、韓国LG Display(LGD)社、シャープからの調達をメーンとし、iPhone 5に搭載したインセル型タッチパネルでもサムスンを除外、モバイル端末に搭載するバッテリは中国Amperex Technolog(ATL)社(新能源科技)とパナソニックからが大半で韓国Samsung SDI社の供給比率は下がったなど、サムスン外しの事例を列挙している。
一方で、アップルのみならず、台湾系企業が、サムスンからの調達をやめるという報道も出た。
台湾紙『経済日報』は同月5日付で、スマートフォン大手の台湾High Tech Computer(HTC)社(宏達電)が、パネル大手の台湾AU Optronics(AUO)社(友達光電)と共同で、スマホ用4.3型のアクティブ・マトリクス式有機EL(AMOLED)パネルを開発すると報道。その前日の9月4日には、TrendForce傘下の研究部門であるWitsViewが、ソニーに対するテレビ用パネル供給で、AUO社が2013年には、2012年から少なくとも5倍増の最高600万枚に達し、サムスンを抜いて第1サプライヤーになるとするレポートを公表。そして、これらを伝える台湾メディアの記事の見出しには、「サムスン排除」「サムスン外しが加速」という文字が並んだ。
サムスンは中国や台湾では「三星」の名前で展開しているのだが、アップルやHTC社の記事が出る前の同年8月中旬あたりから、台湾のメディアには「去三星化」、すなわち「サムスンを排除」という過激な見出しを立て、同社への対抗心をことさらに強調した論調が目立つようになってきていた。
こうした一連の台湾の動きを、当社はウェブサイト(閲覧には会員登録が必要、2週間無料で読める試用会員も用意)で、「『敵はシャープでなくサムスン』 台湾で韓国排除の論調・動向相次ぐ」という見出しを付けて伝えた。
台湾系メディアの関係者は、「シャープとフォックスコンの提携交渉がもつれる中、日本ではフォックスコンを『しょせんは巨大な下請け屋』と評したり、同社トップの郭台銘董事長を『意外に小心者』と揶揄したりと、感情的に報じる記事が出始めた」と指摘。その上で、「台湾メディアがサムスン排除の論調を強調する背景には、台湾企業が日本と提携する理由は、日本と対抗したり技術を盗むためではなく、韓国と対抗するためだということを、改めて強調し、この先10年、20年にわたるであろう日本と台湾企業の協業の行方を左右する意味合いを持つフォックスコンとシャープの提携を、台湾を挙げて後押ししたいという気持ちがある」と話している。
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