2010-05-13
不思議な世界☆銀座「京料理壬生(みぶ)」前編
テーマ:【東京】和食・居酒屋銀座のとても便利な場所にある雑居ビル。一瞬驚きますが、階段をあがって一歩中に入ると、そこは年月を感じさせる和の空間。あがりかまちはなく、テーブル2卓が並ぶお座敷に直接、靴をぬいであがります。
お軸は床の間ではなく壁にかかっています。兼好法師が描かれており、徒然草の一節に豆がら(自分と同じ「豆」)で炊かれた豆が恨みごとをいう(ように聞こえる)という一節があるのですが、そこから今月のお料理のテーマ「豆」がつながります。また、兼好法師(頭蓋骨の形が良く分かるつるつるの頭)と、玄関先の「すかる(scull、どくろのこと)とがつながります。結局人間はみな、最後には同じ姿(骨、転じてどくろ)になる」という真理をそこに関連付けて女将が話されると、いや、なるほど~いうわけです。
床の間には、木製の豆が。すきずきに、これを触って楽しみます。こうした思いもよらない、謎解きや遊び心満載の面白いお話から「壬生」はスタートします。
一見さんお断り、というのはつまり紹介制をさすわけですが、それよりもハードルが高いのが壬生独自の会員制。なんらかのきっかけで会員の同伴として幾度も訪れるうちに、店から許可を得てやっと会員になれるシステムなのです。そこからまた誰かを同伴するようになれるまでにも、時間が必要。通う日時は指定され(調整はきくようですが)、毎月一回通わねばなりません。
つまり、壬生を料理屋と思うのは間違い。いってみれば、ここは文化サロン。いらしている方々のハイソな雰囲気と学ぶ姿勢からも、そのような印象を受けました。そう考えると、すべてを店が仕切っていることにも納得できます。だって、女将はいろいろなことを教えてくれる「先生」、客は「生徒」なのですから。
しかし誰もそうは言いませんし、「壬生とは何か」などという定義も必要ないのです。壬生にはこの場所と時間を心地よく感じ、楽しく過ごせる方々だけが集っているのですから。
ちいさな和室で知らないもの同士でご一緒することもあり、全員で和やかに楽しむ雰囲気が何よりも大切。だからこそこの店を理解し、納得した人だけに通ってもらうための、厳重な会員制度なのだと思います。
今回、貴重な枠で壬生にお連れくださったのは園山真希絵さん。毎月ブログにアップされる壬生の記事を楽しみにしていただけに、念願叶って本当に嬉しいです。ありがとう遅刻魔のわたしにしては珍しく、時間通りに到着したのですがもう全員揃っておられてビックリしつらえの写真を撮りたいときは、特に早めについておいたほうがよさそうです。
会員は店が用意した「お月謝袋(!)」、ビジターのわたしは手持ちの封筒でお代金を払います。テーブルにはまず、人間国宝の(どなたかは失念)水注が運ばれてきました。お茶のお道具を、酒器代わりにするのですね。各自で好きに注いでいただきます。壬生でのお飲み物はこの「菊姫」一種類です。
シュンラン(春蘭)のごはん。これは、AKIKO的本日の一番のお皿でした。季節香る美しさ、生きているかのようにみずみずしい花の食感と色あい、上品な甘酢の味わい・・・すべてが素晴らしくなんど溜息をついたことか。柔らかくあたたかな酢飯です。
お世辞ではなく本当に白魚のように美しい、まきえさんの手をとり、女将がごはんから一輪、シュンランをとって「婚約指輪よ」と。集う皆が、ほほえみます。ここまでの一体感は、ふつうのお料理屋さんではあまりないこと。通ううちに、趣味のあったお友達ができるのも自然なことです。お隣にいらしたマダムは、もう30年壬生に通っているとか。お友達になった方と、京都などいろいろなところでお食事を楽しまれるおつきあいが続いているそう。そう、やっぱり、ここはサロンなんです。
平安朝のころからかきつばたの名所として知られる、上賀茂神社近くの太田神社。明後日は葵祭ですが、この前くらいがちょうど見ごろのはず。そのかきつばたを、お椀にて鑑賞。これは素晴らしい!
声には出しませんが「相当お高いんやろなぁ」と思います(笑)。
お料理はずいきと稚鮎のお椀。香ばしく焼かれた琵琶湖の天然鮎は、あまりおつゆに浸さずにすぐいただきます。壬生では鮎は、子持ちになる秋までこれでおしまいとか。
兼好法師似のおだやかなお顔のご主人が、割烹着姿で出てこられて「これからの鮎は、他で焼かはったほうがねえ」と。おや、京都かどうかわかりませんが関西弁。京料理壬生と看板にありますから、京都で修業をなさったのでしょうね。
杜若色というともっと濃い紫ですが、この紫はゆであずきを水にさらした色なのだとか。黒地に映える微妙な色合いに感動です。お椀でいきなりからだは汗ばむほどに。すると女将が「クーラーつけなくてもね、次のお料理でからだがスッと冷えるのよ」と。青柚子のいい香り!おだしも大変美味です。
向付のお刺身はとり貝とあいなめ。添えてある緑はなんと、絹さやを糸のように細く千切りにしたもの。豆臭さは感じられずしゃきっとした食感のよいつまとなっていました。
とり貝を食べ終えたら、まきえさんが「その下にあいなめがいます」と教えてくれました(笑)。氷の下にあいなめがひそんでいたのです。確かにすーっと汗がひいていきます。すべて、ちゃんと考えられているんですよね。
ご飯、お椀、向付と茶懐石の流れのようですが、供しかたは壬生オリジナル。このあと揚げもの、煮物、焼物、お菓子と続きます。後編へ☆