再利用の輪 美味野菜
2008/07/05
●食品リサイクル事業、始動(朝日.com)
◎食品リサイクル、スーパーや農家結ぶ
魚を食べると野菜がおいしくなる――。スーパーや農家を結んだ、こんな食品リサイクル事業が動き始めた。スーパーなどから出る魚のアラや調理クズを有機肥料に加工して農家の野菜栽培に使い、農産物を再びスーパーで販売するシステム。堺市堺区のイトーヨーカドー堺店が6月から専用の常設コーナーを設けたところ、「おいしい」と評判を呼び、仕入れた日にほぼ完売する売れ行きという。(神野武美)
運営しているのは県中南部の廃棄物処理業者らが06年6月に設立した合同会社「循環資源利用健康推進事業LLC」。石川県加賀市や北陸先端科学技術大学院大学などが開発した「車載型処理システム車」を使い、橿原市などのスーパー、ホテル、豆腐店を回って魚のアラや調理クズ、残飯を収集。車に搭載した装置で水分調整剤のもみ殻などと混ぜ、籠(かご)に移して保管倉庫で40~60日間熟成し、有機肥料にする。肥料は農家に無料で供給し、合同会社が注文を受けて農産物をスーパーに運んで販売する。
処理システム車の開発にも携わり、合同会社の統括責任者となった山本一さん(61)によると、肥料の年間生産量は約200トン。最も栄養価が高い魚のアラを4、豆腐カスなど植物系4、飲食店の残飯類2の比率で混ぜたものが最適で、「1・5トン積みの車という小単位で集めるため、肥料の成分を細かく調整できるのが強み」と話す。
イトーヨーカドー堺店の野菜売り場に設けられたのは「サムズコーナー」で、サムズは、食品リサイクルに参加する県中南部の農家82軒のグループ名。大根、白菜、長ネギなどが並び、ホウレン草とサラダミズナが1把158円、キャベツ大玉が198~250円など、ふつうの野菜とほぼ同じ値段だ。今年1月、1、2日だけこのコーナーを設けたところ、客から「味が濃い」「続けてほしい」などの声が寄せられ、常設が実現した。青木伸介店長は「奈良店など当社の他店にも勧めている。自店で出る調理クズのリサイクル化も目指したい」と話す。
一方、「原料」の供給源の一つ、橿原市小綱町のスーパー「まねき屋」八木店は、要請を受けて1年前から魚のアラを分別している。アラの量は1日100キロ以上あるが、友田實店長は「以前と手間はほとんど変わらない」。同店も近く、食品リサイクルで栽培された野菜の販売を始める予定だ。
「サムズ」は、農薬や化学肥料を極力使わない農家が多い。エコファーマーの資格を持つ桜井市修理枝の山岡石一さん(59)は、大和高原の標高約450メートルの畑約30アールにこの肥料を使う。「保水力が高まり、作物の根がよく張る。山には海のモノが必要というが、その通りだ。消費者にこの味を覚えてもらいたい」と話している。
◎専業と新顔連携 農家有志直売所/高取
食品リサイクルに取り組むサムズのメンバーが、高取町越智の県道沿いの空き店舗のログハウスを借り、8日に直売所「高取あい青果物直売所」をオープンさせる。
出店するのは、大淀町や五條市西吉野町の10軒と障害者の就労支援をしているNPO法人吉野コスモス会。野菜や果物を毎日午前9時~午後6時に販売する。
キノコや柿、梅の専業農家と、最近農業を始めた人たちが連携しているのが特徴。大淀町桧垣本の酒井辰矢さん(44)は、自宅周辺の遊休農地を借り、2年前から有機栽培にこだわり、フシミアマナガトウガラシを中心に約20種類の野菜を栽培。「多品種をつくる農業は直売する方法が向いている」。約1年前からトマトやキャベツなどの出荷を始めた同町中増の山本明信さん(70)は「一度にたくさん収穫することがあるので、販売先を多様化して販路を確保したい」と話す。農産加工品にも力を入れており、吉野コスモス会は「梅ジャムを開発して通所者の収入を増やしたい」と張り切っている。