「憲法改正」は総選挙の争点になるか 目指す思いは同じだが…

2012.10.21


橋下・日本維新の会代表(左)と安倍・自民党総裁(右)。憲法改正を目指す思いは同じだが…【拡大】

 総裁選も盛り上がり、自民党が一気に国民の期待を集めている。勢いに乗る安倍晋三総裁は、次期衆院選で憲法改正を争点のひとつにする意向を示している。

 一方、国政活動を開始した日本維新の会は、肝心の国会議員のタマが小粒なうえ、橋下徹代表が大阪から国政を指揮するという異例の体制が「何をやっているのかわからない」と思われ、急激に人気を落としている。

 この安倍さんと橋下さんの2人は、「改正の発議要件は衆参両院とも3分の2以上」と定めた憲法96条について、「2分の1に緩和すべきだ」という考えで一致している。

 維新は人気を落としたとはいえ、関西勢を中心に総選挙で30−40人は当選する可能性がある。自民も衆院議員の現在の定数480の半分ぐらいは獲得するかもしれない。自民が維新と公明を合わせて連立を組むと、発議要件の3分の2は現実味を帯びてくる。というより、その場合には民主党の中にも憲法改正論者がかなりいるので、次回の総選挙の争点で国民の理解が進めば一気に事が進む事態も想定される。

 ただ、憲法改正の手順については同じだが、どう改正するのかという内容になると、安倍さんと橋下さんの考えはまったく違ってくる。

 地方自治や道州制など統治機構にこだわる橋下さんに対し、安倍さんは「強い日本」「美しい日本」にしたいということで、まずは憲法9条の改正を目指す。憲法改正という入り口は同じでも、出口の景色が全然違ってくる。したがって、連立を組む場合には入り口論だけにしておかなくてはうまくいかないだろう。

 「憲法改正の結果、どんな日本にするか」ということを安倍さんに語らせると、おそらく中国など近隣諸国への強硬姿勢や「戦前の夢をもう一度」という感じの主張をしそうだ。多くの国民はその段階で「ちょっと違うんじゃないの」と感じるかもしれない。

 若い人たちの不満と不安に対し、こういう国を作るんだよ、という姿を見せることが、安倍さんの最大の課題ではないか。

 一方、橋下さんの最大の課題は、「道州制が実現したとき、たとえばこんな九州になります」「地方自治が進んだら、このような北海道が可能」というように、具体的な姿を見せることだ。

 ただ、いずれにしても私は、憲法改正を総選挙の争点にしてもあまり盛り上がらないと思う。なぜなら、国会議員を含めて憲法をきちんと読んだことのない人がほとんどだからだ。翻訳文だから、読んでも頭が痛くなってしまうと思うが、もしじっくりと読んだら、こんなに拙劣な日本語で一体何が言いたいのか、という疑問、いや怒りさえ抱く人が多いのではないだろうか。

 本来ならば、こうした現実とのズレも含めて、なぜ憲法を改正しなくてはいけないのかということを時間をかけて議論しないといけない。手順としては次の総選挙で96条を変更して過半数で国会の発議ができるようにし、その後数年かけて具体的な憲法の草案を議論する。どういう国にするのかを巡る議論は消費税などと違って日本の将来の姿が論点となるので盛り上がるだろう。

 その次の総選挙でいよいよ新しい憲法をめぐって政党は雌雄を決することになる。その過程を経て、初めて日本は「戦後」と決別し新しく生まれ変わるに違いない。

 ■ビジネス・ブレークスルー(スカイパーフェクTV!757チャンネル)の番組「大前研一ライブ」より