【大谷聡】全国で唯一稼働している大飯原発から南に30キロ。放射性物質の拡散予測で高濃度汚染の範囲とされた京都府南丹市の旧美山町地区は、色付き始めた山々に囲まれている。「こんな美しい土地が放射能で汚されるっていうのか。とんでもない」。瀬口裕さん(65)は稲刈りを終えた水田を見つめ、ため息をついた。
21年前、かやぶき屋根や自給自足の生活にひかれ、妻の静枝さん(64)と京都市内から移り住んだ。今は田畑で作ったコメや野菜、果物を直売所に持ち込み、週末には米粉などを生地に果物を練り込んだパンを売る。農薬はなるべく使わないのがポリシーだ。
これまで原発を意識したことはあまりなかったが、今夏、再稼働問題に揺れた大飯原発を見に行った。「ひと山越えればすぐだな」と思った。自分の住む約20世帯の集落には要介護者もおり、事故が起きてもすぐに避難はできないと心配する。放射能汚染が実際にどの程度になるかも分からない。