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【リーダーの視点】十勝バス 野村 文吾社長

2010年09月24日 15時18分

 広い十勝で住民の足となってきた黄色い車体の十勝バス。車社会が進みバス利用者数はピーク時の2割程度と大きく減少するが、環境負荷の低減、高齢化社会の進行で公共交通機関の存在意義は大きく見直されている。利用者開拓に「顧客の創造」を掲げ、帯広商工会議所副会頭として経済界、観光分野でも先頭に立って活動する野村文吾社長に聞いた。(聞き手・安田義教、写真・塩原真=毎週最終金曜日に掲載)

利用者の声聞き「顧客創造」

営業力強化の取り組みを語る野村社長

「目的別時刻表」やパック提案
 −「顧客の創造」の下、営業力強化に取り組んでいる。
 減少傾向にある顧客に、いかに利用してもらうかを考えた。バス業界は固定観念、既成概念が強く、対象とする顧客の範囲も広い。営業強化はできないと思われがちで、利用者は路線の効率化や利便性の向上によって創造しようとしてきた。
 きっかけは3年前の原油高騰。事業自体が厳しく顧客を増やさないといけない。社内には営業強化は無理というムードもあったが、どうすればよいのかを考えたら、エリアを限定すればできると。町内会や停留所ごとにエリアを絞り、深い情報を伝えることにした。その最初が「目的別時刻表」だった。

 −その内容は。
 市役所に行くなら○時の○番のバス、○○病院ならこのバスと目的別に提案をした。これは全十勝ではできないこと。提案したらそのエリアを通る路線の利用者が増え始めた。

 −乗り方の提案も初めている。
 「バスは不便」という人がいる。その理由を突き詰めていくと「乗り方が分からない」。高校卒業から数十年が経過し、整理券はいつ取るのか、バスに乗るのは前からなのか後ろなのかなど、分からない人が実に多かった。それなら乗り方を提案しようと。帯広市の協力で作ったバスマップの中で、バスの乗り降りを図解で説明した。

 −固定観念が強く、根本的な情報を伝えていなかった面もある。
 エリアを限定し、乗り方を示したチラシを戸別訪問で投げ込んだ。アンケートを通して顧客に説明したら、利用者がどんどん増えた。バス運賃は高いとのイメージがあるので、高校を訪れ、生徒の親に送迎にかかる負担と比較できるチラシも配った。それが成功したので、大きな企業、行政機関など通勤する職員にも直接案内した。

 −管内の路線バス乗車人数はピーク時(1969年度)の2割に減少している。

「黄色のバス」で住民に親しまれてきた十勝バス。奥は本社屋

 十勝は広大な農村地帯に人口密度が低く、モータリゼーションもあって、バス事業者は非常に厳しい環境にある。ただ避けられない超高齢化社会があり、二酸化炭素排出の環境問題もある。飲酒後の公共交通の必要性も。それらがさらに深刻になったときに重要視される業界だと思う。
 確かに全体の利用者は年間3%減っている。ただ営業強化した路線は3〜5%は増えた。6ポイント以上増えたことになる。調査して新しい路線をつくるより、既存路線を新しい顧客に使ってもらえるようにする方がリスクもない。バス利用者は増やせると思っている。

 −今後の事業展開は。
 バスに乗るのは「手段」であり「目的」ではない。だから目的を提案しないといけない。そのための「目的別時刻表」だった。時刻表には利用者のアイデアで目的地の一つに斎場を入れた。お年寄りには遠くの斎場に行きたいという要望がある。私たちには思いつかないもので、現場の声を聞いたから反映できた。観光施設や温泉の利用料と往復バス運賃をセットにした「日帰りバスパック」「帯広動物園日帰りパック」などの商品も同じだ。選択と集中で、一つひとつの路線の利用者を増やすために見直していく。小さな成功事例を次のエリアに広げていけば、全体にわたる。

道東道開通、地域活性の好機
 −「シーニックバイウェイ」や道東道の利用促進にも熱心だが。
 道東道開通は千載一遇のチャンス。(購買行動など札幌圏に人が流れる)「ストロー効果」が心配されるが、十勝は36万人で札幌圏は360万人。10%が札幌に“吸われる”かもしれないが、逆に1%を呼び込めば、十勝から札幌に向かう人と同じ人数が来ることになる。実際に、開通に向けて準備してきた所には道東道効果は表れている。こちら側がいかに魅力を高めて、発信していくか。地元の人にもっと十勝の良さを再認識してもらいたい。十勝には本物の素晴らしさがあるのだから。

 −十勝に必要なものは。

 連携だと思う。同業者、異業種で個性や強みが違う。それが、連携することで外部からは強みだけしか見えない地域になる。十勝は農業が突出しているが、その強みを他産業にも広げられればいい。高橋(勝坦)会頭が話す「オール十勝」の考えで、その機運はできてきた。個々の結びつきを、全体でぐっと連携させれば、地域振興はもっと進む。

 プロフィル 1963年帯広市生まれ。函館ラ・サール高、小樽商科大を卒業後、国土計画(現西武ホールディングス)に入社、企画宣伝に携わった。98年、父の文彦氏が経営する十勝バスに入社、2003年から社長。帯広商工会議所副会頭、十勝地区バス協会理事。シーニックバイウェイ「トカプチ雄大空間」運営代表者会議代表、道東道とかち連携協議会会長など公職多数。

<取材を終えて>
行動力に裏打ち「現場主義」

 自社のバス事業や十勝の観光、情報発信を語る口ぶりはとても熱い。営業では自らチラシを配り、観光プロモーションでは法被姿で先頭に立ちPRに歩く。その行動力は現場の生の声を重視しているからこそ。39歳の若さで社長に就任。固定化したビジネスモデルが続く業界で、既成概念にとらわれない現場主義の経営を続けるために必要なのだろう。十勝の若手経営者ではリーダー的存在、経済界でさらなる活躍が期待されている。

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