セ・リーグ初、最終戦までもつれたプロ野球クライマックスシリーズ(CS)で、中日は、リーグ独走の巨人を崖っぷちまで追い詰めた。あきらめないその戦いぶりが、ファンに勇気と元気をくれた。
惜しい。だが野球はおもしろい。筋書きを超えるドラマを見た。
レギュラーシーズンでは、10・5ゲームという圧倒的な大差がついた。本塁打を除く打撃タイトルを総なめにした巨人打線、巨人キラーのエース吉見を欠いたドラゴンズ。リーグの覇者に与えられる一勝のハンディがたとえなくても、戦前の不利は明らかだった。
さらに加えて、常勝軍団育ての親の落合博満前監督が退いて、両リーグを通じて最年長、高木守道新体制への変革期。前評判の上がる要素は見つからない。
それが、ふたを開ければ、驚きの三連勝。リーグ王者が青ざめた。しかも、打つ人が打ち、守る人が守り抜く。堅実、鮮やかな野球を見せた。昨年までとは違う野球が、大舞台でほほ笑んだ。
高木新指揮官を「何もしない監督」と評した人がいる。一投ごとに守備位置を変え、一打ごとにベンチのサインを仰ぐ近代野球の観点からは「古い」といわれても仕方がない。落合野球の基本が、指揮官の色がチームの隅々まで行き渡る“デジタル采配”だとすれば、高木野球は、個々の選手のやる気と潜在力、そして選手同士がつながる力を引き出す“アナログ采配”なのではないか。
全試合で安打してすっかり“CS男”になった一番大島にリードされ、下位まで打線がつながった。投手陣では、大野、伊藤の若手が奮起して、一丸でエース不在をカバーした。一人の活躍が他の選手への刺激になって、一試合勝つごとに、チームの結束が強まっていくようだった。
それを後押ししたのが、変わらないファンの声援だ。今季の竜は「ファンと共に」の合言葉を高く掲げて、選手もチームもこれまで以上にファンの近くにいようと努力した。ファンとの絆が、選手を飛躍させたのだ。来季こそ、今季の力を満開にさせ、日本一に押し上げよう。
確かに勝負には運もある。惜しい場面はいくらもあった。最後までドラマを見せた。運にまかせず昇竜は、この悔しさをバネにしてくれるに違いない。ファンの声にこたえて来季こそ、予測しがたいドラマの続きを、見せてくれるに違いない。
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