今年5月、釜山市の中堅建設会社のP総務部長(53)は、入社10カ月目の新入社員の行動に唖然とさせられた。この社員が自ら辞表を提出し「辞職勧告に基づく退職扱いにしてほしい」と依頼したためだ。P部長が「そんなことはできない」と却下したところ、この社員は「ほかの会社では(辞職勧告に基づく退職扱いに)してくれるのに、なぜこの会社ではしてくれないのか」と主張し、2週間にわたり連日電話で抗議した。一方、ソウル市内で10年前から肥満クリニックを運営しているLさん(50)は「最近採用したスタッフのほとんどが、6カ月ほどたつと『失業給付金をもらいながら少し休みたい。辞めさせてくれ』と言ってくる」と語った。
失業給付金を不正に受け取る20代の「偽失業者」が増加している。本紙が雇用労働部(省に相当)に情報公開を請求したところ、昨年1年間、20代で失業給付金を不正に受け取り摘発された者は2665人で、2009年(2327人)に比べ14.5%増加した。これは失業給付金の不正受給者全体(2万7338人)の9.7%に当たる。「偽失業者」10人のうち1人が20代というわけだ。今年は6月までに1108人が摘発された。再就職した後にも失業者を装い失業給付金を受け取るケースや、辞職勧告に基づく退職扱いにすることで失業給付金を受け取ろうと企み「クビにしてくれ」と依頼するケースもある。自らの意思で会社を辞めた場合は失業給付金が支給されないためだ。印刷会社を経営するKさん(57)は「引っ越すからという理由で辞めさせるよう懇願した人が、3カ月ほど失業給付金を受け取った後、隣の店に再就職したケースもある」と話した。
20代の「偽失業者」の問題は、欧州でも悩みの種になっている。スペイン最大の日刊紙「エル・パイス」は今月22日付の『働かず、勉強もしない若者たち』と題する記事で「15-29歳の若者たちが政府からの給付金で生活している。その額は毎年157億ユーロ(約1兆6300億円)、国内総生産(GDP)の1.4%を占める」と指摘した。また、ドイツ政府が2005年に行った調査の結果、失業給付金の10%以上が「偽失業者」に支払われ、不正受給額は260億ユーロ(約2兆7000億円)に達していることが分かった。
韓国でもこれと似たような状況になっている。政府は昨年、「偽失業者」に支払われた失業給付金246億ウォン(約17億8350万円)を回収したが、これは氷山の一角にすぎない、と指摘する声が出ている。雇用労働部の関係者は「現在、3兆ウォン(約2200億円)の予算を基に、120万人に失業給付金を支給しているが、不正受給者を摘発するスタッフは140人程度だ」と語った。公務員1人が、1万人近くに及ぶ失業給付金の受給者を審査し、偽失業者をあぶり出しているというわけだ。
インターネット上では、失業給付金を不正に受け取る方法を尋ね、それに回答する文章が多く見受けられる。「普段から病気休暇を取ったり、早退したりして同僚に迷惑をかけ、辞職勧告を受けたという内容の書類を作成すればよい」といった回答が書き込まれている。今年3月に会社を辞め、3カ月間で毎月100万ウォン(約7万2500円)の失業給付金を受け取ったAさん(29)は「仕事を続ける気力がなく、金を受け取りながら休める制度(失業給付金)があるため、支給を申請した」と話した。