発信箱:「アラブ報道40年」と尖閣=布施広(論説室)
毎日新聞 2012年10月25日 00時16分
尖閣問題がここまで深刻になると予想した中国ウオッチャーが、果たしているだろうか。新聞各紙も「尖閣国有化」には別に反対しなかったし……。といってもイヤミではない。天にツバするわけでもない。それほど中国の反応は常識を外れているということだ。ならば日中の武力衝突なんて常識的にありえない、とタカをくくっていていいのかな。
などと考えるうちに、山陽放送(本社・岡山市)から「アラブ報道40年」という本が届いた。同社の原憲一社長は90〜93年のカイロ特派員。私も同じ時期に中東にいて、91年の湾岸戦争などを共に取材した。山陽放送が代々特派員を出していたカイロ支局が今年で閉鎖されたのを機に、「13人の特派員が伝えた中東」を副題とする本を作ったという。
73年から2012年までの約40年といえば、第4次中東戦争から昨年のエジプト民衆革命まで、中東が激動した時期だ。危なくて不条理な中東で、特派員は時に死にも直面する。13人の男たちの体験談は貴重であり、身につまされるものだ。
何が起きるかわからないから、中東特派員は危機に敏感になる。大国の打算、独裁者の野望、民衆の反感や恨み。それらのベクトルの総和がどこへ向かうか、懸命に風向きを読むのが習性になる。
そして、鈍感な私も習性を思い出した。日本の周りで危険なベクトルが強まっている。知的な紳士と思っていた中国の楊潔篪(ようけつち)外相が、日本は尖閣を「盗んだ」と言う。尖閣奪取を狙う国家戦略の非情さだろう。中東で何度か覚えた胸騒ぎを感じる。
しかも政治の体たらく。この非常時に、わが国会議員たちは、よほど度胸がいいのか愚かなのか。日本は、本当に危ない。