社説:ネット誤認逮捕 検証の結果公表が必要
毎日新聞 2012年10月23日 02時32分
遠隔操作されたパソコン(PC)からの犯罪予告書き込み事件で、捜査当局の一部で誤認逮捕した人に対し供述の誘導や強制があった可能性が極めて強くなった。
警視庁や関係府県警が無関係の人を陥れた「真犯人」を突きとめる捜査に全力を挙げるのは当然だが、誤認逮捕の原因と取り調べの問題点を明らかにすることも欠かせない。
看過できないのが神奈川県警のケースだ。横浜市のサイトに小学校襲撃の予告を書き込んだとして、同県警は7月、男性(19)を逮捕した。
男性の供述は変遷したが、容疑を認めた上申書には、事件の詳細が書かれていたとされる。
襲撃予告の文言のほか、ハンドルネーム(書き込み上の名前)である「鬼殺銃蔵(おにごろしじゅうぞう)」の由来、「インターネットで検索して最初に出てきたから」とする襲撃予告した小学校を選んだ理由などだ。
ありもしない動機がなぜ供述できるのか。不適切な取り調べが行われたと考えざるを得ない。この男性の場合、最終的に保護観察処分となったが、「自供しないと少年院に行くことになる」と言われたとも一部で報じられた。事実ならば、少年に対する威迫的な取り調べによる自白の強要であり悪質性は高い。
また、東京都内の幼稚園などに襲撃予告をしたとして警視庁が逮捕した男性(28)は、同居の女性がやったと思い、かばって自供したとされる。取調官は供述の不自然さに気づかなかったのだろうか。
神奈川県警も警視庁もPCが遠隔操作された可能性を想定せず、ウイルス検査をしていなかったという。いずれも犯罪予告の書き込みから数日後に逮捕に踏み切っている。
ネット上の住所であるIPアドレスに基づき容疑者を割り出した後、裏付け捜査が不足していたとの批判は免れない。
警察は取り調べの状況について検証する方針を示しているが、密室でのやりとりであり言い分が異なることも想定される。本来、第三者に検証を委ねるのが筋だが、最低でも公安委員会に検証結果のチェックを受けるなどし公平性を担保すべきだ。また、同時多発的に警察が誤認逮捕するという前代未聞の事態だけに、広く結果を公表してもらいたい。
不十分な警察の捜査を見逃し、やはり虚偽の自白を引き出した検察も反省と検証が必要なのは当然だ。