第3の疑問は、米国の経験だけに着目するのは理にかなっているのか、というものだ。ボルド教授は、ラインハート教授とロゴフ教授は「制度も金融構造も経済政策もバラバラな」国々を一括りに扱っていると批判している。
国際比較が浮き彫りにする興味深い事実
しかしそれでは、1990年代の日本やスウェーデン、今のスペインや英国などよりも19世紀末や20世紀初めの米国の方、すなわち金本位制を採用していて預金保険の仕組みもなく、1913年までは中央銀行も存在せず、連邦政府の歳出も少なかった昔の米国の方が今の米国に似ているという議論になる。これはいくら何でも信じ難い。
ラインハート教授とロゴフ教授は、米国例外主義に訴えるこの指摘を退けてよいだろう。さらに言うなら、分析の対象を米国の経験に限定すれば比較の範囲も限定されることになる。その結果、システミック危機の研究に関係があるかどうか微妙な景気後退局面を(下手をすれば無関係なものまで)、分析対象に多数盛り込まざるを得なくなってしまうだろう。
実際、ラインハート教授とロゴフ教授による国際比較は、非常に興味深いことを明らかにしてくれている。
これによれば、2007年以降の直近の危機における米国経済のパフォーマンスは、システミックな銀行危機に最近見舞われたほかの高所得国の平均値と比べてもかなり良好だ。この分析は、システミックな金融危機は通常よりも深くて長い景気後退をもたらすとの見方を再度支持するものだ。
さらに、バージニア大学のアラン・テイラー教授は過去140年間に高所得国14カ国で発生した200回以上の景気後退のデータを駆使し、信用ブームと金融危機がセットになると「経済成長や物価、資本形成に異常なほど苛烈な下押し圧力が長期にわたって」加わると論じている。
もっと力強い景気回復も可能だったが・・・
要するに、就任時に引き継いだ状況を考えれば、オバマ政権下の米国経済のパフォーマンスを貧弱だったと見なす理由は1つもない。しかし、だからといって、景気回復はこれ以上力強いものにはなり得なかったということにはならない。
経済政策は、力強い回復を支えられるほど強力なものではなかった。そのような政策しか取られなかったのは、経済規模を縮小させる力をオバマ政権が過小評価したためでもある。だがそれ以上に大きかったのは、共和党がいかなる景気刺激策にも反対したことだった。
-
選挙控えたイタリア、頼みの綱はやっぱりモンティ氏? (2012.10.25)
-
中国ソーラー業界の落日 (2012.10.24)
-
欧州の新たな首都ベルリンへようこそ (2012.10.24)
-
米国大統領につきまとう「9.11」の長い影 (2012.10.23)
-
現実味を増す「ブリグジット」 (2012.10.22)
-
円高反転で日本企業の対外M&Aに陰り? (2012.10.22)
-
歴史的な転換の真っ只中にある原油貿易 (2012.10.19)
-
守勢に回るアップル、小型iPadはイノベーションに非ず (2012.10.19)
-
IMFが発した警告と励まし (2012.10.18)