ラインハート教授とロゴフ教授は、「システミックな金融危機」の特徴は不動産バブルと高水準な債務にあるとして、ほかの危機と区別している。ジョン・テイラー教授が示したグラフには1973年と1981年の景気後退が含まれているが、これらの直前には不動産バブルも高水準な債務も存在しなかった。
直近の金融危機の前兆と結果はともに、1970年代半ばや1980年代初め、1990年代初めに起こった景気悪化のそれとは全く異なるものだったのだ。この点は住宅の実質価格、インフレ、金利、そして債務の状況からうかがえる。
2番目に思い浮かぶ疑問は、景気回復のスピードは成功か否かを判断する物差しとして優れているのか、というものである。この答えも「ノー」だ。
その理由を理解するためには、過去4回のシステミックな金融危機(1893年、1907年、1929年、2007年にそれぞれ勃発したもの)を比較してみるといい*1。ジョン・テイラー教授は、ラトガース大学のマイケル・ボルド教授とクリーブランド連邦準備銀行のジョセフ・ハウブリック氏の論文に依拠したグラフを使用している。
危機後の政策は大成功だった
そこで筆者は彼らのデータを用いて、危機発生後の経済規模縮小とその後の回復期間の長さを等しくしたグラフを作ってみた。すると、2007年に始まった直近の危機で際立っているのは、景気後退後に見られる回復の弱さではなく、景気後退の幅の小ささであることが分かった。
金融危機の規模からすると、経済縮小は小幅で済んだ〔AFPBB News〕
足元の景気回復が弱々しく思える最大の理由は、大規模な金融危機にしては経済規模縮小の幅が小さかったからなのだ。つまり、危機後の政策は大成功だったのである。
ラインハート教授とロゴフ教授も、ボルド教授とハウブリック氏の研究を受けたコメントの中で、直近の危機の後に生じた経済規模の縮小は過去のシステミック危機の後に見られたものより小幅だったと指摘している。
さらに、直近の危機から5年が経過した現在の1人当たり実質GDP(経済規模が縮小し始める直前のそれを基準とした相対値)は、過去のシステミック危機の時のそれらを平均した値よりも高くなっている。これは重要なポイントだ。つまり、GDPが急激に縮小した後に急回復する方が少し縮小した後に緩やかに回復するパターンよりも優れているとは言えないのである。
*1=具体的には、危機の後に見られたGDPの減少幅、その後の景気回復局面で見られたGDPの増加幅、そして減少し始める前のGDPと減少・増加後のGDPとの差という3つのデータを、それぞれの危機について計算して比較する
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