2012-10-23
■[歴史]これが疑似科学である〜Y染色体で民族は決定するか?
以前以下のエントリを書きました。
このエントリで僕が言いたいことは簡単に述べればこうです。
現代では、人種間に優劣はないとされる。優劣という発想が文化に依存する。よって人種概念も民族概念に包摂されるのではないか。同一民族意識は、文化を共有していると互いに認識している集団内で形成される。しかし自民族意識の形成には、他民族のまなざしも同時に必要とされる。
付言すれば、現在もてはやされているDNA解析を民族概念に援用することも、極めて文化依存的な行為であると言えます。
これに対して、匿名の人物よりコメント欄で以下のような指摘を受けました。
http://d.hatena.ne.jp/hazama-hazama-hazama/20120822/1345648012#c1350922710
かなり酷いです。
例えば、Y染色体ハプロタイプは、今から何年前、どの系統をたどって今に至るかを特定するマーカです。動的な遺伝子ではありません。その比率から父系の混血が判ります。しかし、人種を特定するものではありません。
民族の定義もありますが、ここでは遺伝子の近縁で区別します。人種という定義は科学的マーカとは合わず、すでに意味がないと考えます。同じ意味で、アジアとかヨーロッパも人間がかってにつくった名前です。そして、日本民族と朝鮮民族は同じ民族ではありませんよ。
はああああ?だったら特定の遺伝子マーカーで特定の人類集団をそう呼称しろよ。何で文化に依存する日本民族、朝鮮民族という言葉を使うのかがわからん。あくまで遺伝子マーカーはアフリカ大陸からの人類集団の移動の系統を示すものに過ぎないってことは、上の引用でご自分でもわかってますよね。
ところで以下を読んだがことありますか?
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p.103より引用。
この突然変異(YAP+)の頻度が日本人で十数%見出された。しかも、アイヌ人と沖縄人で頻度が高いのである。ところが、お隣の韓国ではほとんど見つからない。韓国どころか、ユーラシア広しといえどもこの突然変異がある程度の頻度で発見されたのは、チベット人だけだった。
これはY染色体のある突然変異をめぐる説明であるが、匿名氏はアイヌ人と沖縄人とチベット人が同じ民族であると言うのか?歴史的経緯を考えれば、それに同意する人はまずいないだろう。民族概念はあくまで文化に依存するものであるというのは、文系の学問では常識に属することである。それを遺伝子マーカーに置き換えたところで、誰が納得するのか。
このような概説書や新書では、わかりやすい記述のために民族名を使用して遺伝子のハプロタイプ頻度を表すことはあるが、勘違いしてはいけないのはハプロタイプ頻度が民族そのものを表しているのではないということだ。そもそも遺伝子で民族を決めようと言う思考自体が驚天動地の愚考である。もし、まれに違う遺伝子の人がいたとしたら、半島に追放でもするんでしょうか?天皇が違ったらどうすんの?
例えば、上記の著書p.189のミトコンドリアDNAのハプロタイプ頻度の表を見ると「日本人」と「韓国人」で似たような頻度で現れるハプロタイプがあり、特に「D4」と呼ばれるタイプでは「日本人」では35.5%、「韓国人」では31.9%に現れる。これはほとんど同じと言ってよいだろう。また、p.95ではヒト白血球抗原体のハプロタイプ頻度の表があり、やはり「日本人」と「韓国人」で似た傾向にあることが示されている。遺伝子マーカーで民族が決まるとすると、これらの例では「日本人」と「韓国人」は同じ民族となりそうだ。当然のことながら、本来の民族概念ではその結論は受け入れられない。
恐らく匿名氏はY染色体の特定のマーカーに拘り、科学を偽装しながら父系的に民族を定義したかったのであろうが、そもそも自分で遺伝子マーカーは移動の系統を示すものに過ぎないと言っているのだから、自爆もいいところである。それに、氏はY染色体の遺伝子のデータを総覧したとでも言うのですかね。日本人と韓国人で他のY染色体遺伝子はとても似通っているかもしれない。他の民族とも。だって、人類は互いに生殖可能な種なんだし、差異よりも共通点が多いに決まっている。たった1つの遺伝子マーカーの違いに拘泥しても、まともな思考をする人は誰もあたなに賛同しません。科学的には単なるマーカーなんだから。
マーカーはあくまでマーカーに過ぎないのです。例えば、ある子供には母方の祖父のY染色体の遺伝子は伝わりませんし、父方の祖母のミトコンドリアDNAは伝わりませんが、母方の祖父と父方の祖母からも遺伝子を受け継いでいるわけです。どれが誰からかがほとんどの場合わからないが、Y染色体とミトコンドリアは系統が例外的にわかる、それだけに過ぎません。もしかしたら大昔に匿名氏が「朝鮮民族」と見做すY染色体遺伝子を持つ「日本民族」がいたが、長い年月を経てY染色体遺伝子は今の「日本民族」には受け継がれず、他の遺伝子は受け継いでいる、こういう可能性も十分ありうるわけです。氏は「いや、Y染色体の遺伝子マーカーに拘るんだ」と言うのかもしれませんが、特定の遺伝子マーカーにコミットし、意味を見出すことはかなり恣意的な発想です。科学を偽装してもそんなもん、簡単に見抜けますよ。
それに、素朴な疑問。匿名氏が日本民族を決定づけるとする遺伝子マーカーが、ある人物において突然変異した場合、その人は「日本民族」じゃあなくなるわけですね。その人は「朝鮮民族」でもない。一体その人はどこにいけばいいのでしょう?アメリカにでも移民しろと言うのでしょうか?
なにか問題がありますか。
大ありだよ。人種は遺伝子で決まらないが、民族は決まるって人種概念の単なる焼き直しじゃねーか。バーカ。疑似科学の典型なんだよ。
は?なぜ「日本民族」と「朝鮮民族」は人間が勝手に作った名前じゃないんですか?
もし、匿名氏がこのエントリにコメントする場合は、その人であることが特定できるであろうHNを名乗ること。捨てハンとこちらが見做した場合は、即刻削除します。
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