「プレッシャーはまったくなかったです。でもプレッシャーを感じないほど緊張していたのか、あるいはリラックスしすぎてしまっていたのか、それはわかりません」
スケートアメリカの記者会見で、羽生結弦はそう口にした。
SPで95.07という史上最高スコアを叩き出した翌日、フリーではミスが続いて2位に終わった。「SPでのスコアがプレッシャーになったのでは」と米国の記者に聞かれて、そう答えたのである。
ロックブルース「パリの散歩道」のSPは、見ていて鳥肌がたつほどの出来だった。3回転かと見間違えるほど楽々と降りた4回転トウループ、そしてきれいに着氷が流れる3アクセルと、3ルッツ+3トウループのコンビネーション。ギターの音色に合わせて、独特のステップシークエンスもそつなくきめた。元世界チャンピオン、ジェフリー・バトルによる振付の洗練されたプログラムを、17歳の羽生はみごとにこなしてみせた。
さぞ良い点が出ることだろう。そう予想してはいたものの、95.07という数字がスクリーンに出た瞬間、会場は驚きのどよめきに包まれた。
ルール改定を最大限に利用した演技構成で高得点を獲得。
「これほど高い得点が出せたのは、どのような部分が成長したためだと思うか?」
そう聞かれると、羽生はあっさりこう答えた。
「今年からルールが変わったので、難しいジャンプエレメンツを後半に2つ持っていきました」
これまではフリーでのみ、後半のジャンプに10%のボーナスポイントがつけられていたが、今シーズンからSPでも同じように後半のジャンプにはボーナスポイントが加算されることになったのだ。その意味では、昨年までのスコアと今季からのスコアを比べることはフェアではない。
とはいうものの、GP初戦でここまでの演技を見せ、記録を更新したのは、本来ならまだジュニアで戦う年齢の羽生にとって偉業といえる快挙だった。
フリーで羽生らしからぬミスを連発した原因は何か?
「まだフリーが残っているので、あまり有頂天にならずに気持ちを落ち着けて最後までしっかり滑りたいと思います」
SP後の会見では、何度もそう繰り返していた。だが、フリーでは彼らしくないミスが続いた。
冒頭の4回転トウループ、4回転サルコウともに転倒。最後の3フリップも転倒してタイミングを逃し、続いたステップをきちんと見せることができなかった。
「ウォームアップは普段のようにうまくいっていたのに、(本番前の)6分間練習で氷の上に出たとたんに頭が真っ白になって、ステップすらも思い出せなかった」と言う。練習よりも試合が好き。見てくれる観客がいないと何も跳べなくなってしまう、と普段から豪語している彼にしては珍しく、本番であがってしまったのだろうか。
「SPの結果はプレッシャーになっていないと思っていたけれど、過去のいろいろな選手の例を見ても、SPがいいとフリーが良くないということが多いのを、心のどこかで気にしていた。それを否定する気持ちが強すぎて、体がかたくなっていたのかもしれません」と自分で分析する。
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