Updated: Tokyo  2012/10/24 16:57  |  New York  2012/10/24 03:57  |  London  2012/10/24 08:57
 

【コラム】米国が日本を見習うべきこと、それは借金の仕方

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  10月24日(ブルームバーグ):米国民は近く、金を借りる相手を中国から日本に戻すかもしれない。

日本は長い間、米国に対する最大の貸し手だった。2008年9月に中国が日本に代わって外国勢として最大の米国債保有国になった。ワシントンでは、野心満々の共産主義大国よりは友好的な民主国家の方が債権者としてまだましだと考える大勢の人々が懸念を抱いた。その一人である共和党大統領候補のミット・ロムニー氏は、米国が中国に借りをつくり過ぎていると主張している。

ただ、「中国から金を借りない」というロムニー氏の公約は近く、意味を失うかもしれない。日本の米国債保有高は現在1兆1200億ドル(約89兆円)、中国は1兆1500億ドルだが、日本の購入は着実に増えている一方で、中国の保有高は2011年半ば以来10%余り減少 しているからだ。

しかし、誰が米国債を保有しているかは実は問題ではない。本当の問題は米国のような経済大国が借り入れの半分以上を海外に頼っていていいのかということだ。米国債を国内で保有してくれる投資家ベースを開拓するべきではないか。つまり、もっと日本のようになるべきではないか。

東京に本社を置くロジャーズ・インベストメント・アドバイザーズのエド・ロジャーズ最高経営責任者(CEO)は、「人々は反射的に日本をたたく。あらゆるケースについて、まねしてはならないものの例として日本を挙げる」が、「ちょっと待てと言いたい。債務のこと一つをとってもそうだ」と言う。

日本式

国債を国内でのみ保有するという考えは自由市場の原理主義者からは怒られそうだし、実現も簡単ではないだろう。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事が言うように、金融のグローバル化の流れを反転させるのは「何十億という人々にフェイスブックを使うなと言うようなもの」だからだ。とは言え、米国にとって日本式借金の仕方に利点があるかどうかは検討に値する。

エコノミストのリチャード・ダンカン氏は今年出版した著書「TheNew Depression(仮訳:新たな恐慌)」で、成長を取り戻し、競争力を高めてエネルギーの対外依存をなくすため、フランクリン・D・ルーズベルト元米大統領のようなニュー・ディール政策を提言した。そのために企業のバランスシート上に眠っている民間部門の膨大な現金を利用する。米企業が自分たちの未来の利益のために投資していると考えれば、米国債を買うことを嫌がりはしないだろう。

「Japanization(日本化)」ほどエコノミストの心に恐怖を呼び起こす言葉はない。長期低迷、デフレ、さらに国際的地位低下への恐怖は、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長やドラギ欧州中央銀行(ECB)総裁ら世界の中銀当局者を大量流動性供給へと駆り立てている。日本がたどった失われた10年のシナリオを避けるためだ。

政治的支離滅裂

日本化の際立った特徴の1つが、首相と財務相の頻繁な交代だ。このため日本の金融システム全体の問題に対する対処が進まない。

この政治的な支離滅裂に、円安に依存した輸出主導経済という問題が加わる。代表的な日本企業は円安へ依存が余りにも大きいため、この追い風がなくなったときの惨状は極めてひどい。シャープとソニーとパナソニックは昨年、合わせて200億ドル以上の損失を出した。円高で海外の売り上げが打撃を受けたことが一因だ。何十年もの間、これらの優良企業は日本の繁栄のために中心的な役割を担ってきた。米国にとってのデトロイトの自動車産業と同じだ。しかし今やこれらの企業の苦境が日本の産業空洞化を加速させている。

しかし、欧米諸国の多くが日本になれたら、日本のようなやり方ができたら、どんなに幸運かという点にはほとんど目が向けられていない。確かに、20年にわたる低成長とデフレは何兆ドルもの富を消失させたし、多くの銀行を支払い不能のゾンビ銀行にした。日経平均株価 は最高を記録した1989年の4分の1だ。

信じられない落ち着き

しかし、その間日本は一度も崩壊の危機のようなものに直面したことはない。犯罪が急増することもなく、ホームレスの数が爆発的に増えることもない。米国のリセッション(景気後退)ほど大量に雇用が失われることもなかった。パートタイムの雇用が増えたり、女性の就労機会が減ったり、新卒者が厳しい就職戦線に直面したりという調整はあったにしてもだ。

さらに、昨年の大震災後の信じられないほどの落ち着きも忘れてはならない。米国で2005年のハリケーン「カトリーナ」の後に起こったような暴動も略奪も起こらなかった。米アップルなどへのサプライチェーンの乱れも短期間で解決された。原子力発電所が全て稼働を停止したにもかかわらず、停電は頻繁かつ大規模には起きなかった。こうしたことのできる国が一体幾つあるだろうか。

日本を1つにまとめている「接着剤」は、国内勢による国債の保有だ。国債発行残高の90%以上を国内勢が保有しているからこそ、世界最大の公的債務を抱えながら10年債利回りがわずか0.78%で済んでいる。このため、格付け会社にジャンク級に突き落とされることもない。日本が次のギリシャになると思っている空売り筋が利益を上げることは決してない。

自己完結型システム

この自己完結型のシステムが、日本にいざとなった場合の逃げ道を与えている。デフォルト(債務不履行)の縁に追い詰められたら、国民と国内企業から債務減免を受ければよいのだ。もちろん、そんなことは日本政府にとって考えられない話だが、これが他の国にはないオプションであることは明白だ。

中国から金を借り過ぎるのは米国のためにならないというロムニー氏は正しい。しかし日本から借りるもの同じだ。米国は恐らく、国内で借りることを考えることになるだろう。債務は決して、一国の最大の輸出品であるべきではない。(ウィリアム・ペセック)

(ウィリアム・ペセック 氏はブルームバーグ・ビューのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)

原題:Let’s Put America’s Bankers Out of Business Now: WilliamPesek(抜粋)

記事に関する記者への問い合わせ先:東証 Willie Pesek wpesek@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先:James Greiff jgreiff@bloomberg.net

更新日時: 2012/10/24 14:41 JST
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